性奴隷は泣かない〜現代ファンタジーBL〜

月歌(ツキウタ)

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第40話 竜二の癒しの花を

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◆◆◆◆◆◆



俺は、夕方から突然始まったガサ入れの対応に奔走していた。
青山組の管理する風俗店が対象ではない事は判明したが、事態が落ち着くまで事務所で待機することにした。

「竜二さん、やはりガサ入れは未成年のガキを扱っている店でしたね。青山組とは関係のないしょぼい組織が運営してましたが、売上は中々良かったようですよ?未成年の男女を舞台で裸でダンスさせた後に、客が指名して生セックスって感じの店みたいです」

俺が生まれ育ったこの街は、西成東警察署の管轄にある。前署長は、警察上層部からガサ入れのノルマが示されると、青山組に情報を流していた。青山組も、管轄の警察署がノルマを達成できるように、ガサ入れに協力してきた。ガサ入れ前にも事前連絡があった。

つまりは、持ちつ持たれつの関係だったわけだ。

だが、新しく就任した後藤一成警視が署長になってからは、ガサ入れ情報が全くなくなった。蜜月関係の終焉があまりにも突然すぎて、この街全体がぎくしゃくしている様に思える。

「やっぱ、ガキを扱うと売り上げが跳ねるよな・・」

俺がぼやくように呟くと、部下が渋い顔をして俺を見てきた。

「竜二さん、今はマジで時期が悪いです。新しい署長が就任してからは、警察のノルマ以上に風俗店のガサ入れしてるでしょ?特にガキを扱っているところは、集中的にガサ入れくらってますから、手は出さないでくださいよ?」
「本気で言ってるわけじゃねーって。叔父に止められてるしな。だけど、管理している風俗店の店長が内緒でガキ扱うケースも考えられるだろ?それを、チェックするのがめんどーなんだよな・・」
「でも、それが竜二さんの仕事でしょ?」
「まあそうだが・・兄貴は俺たちが稼いだ、しのぎを使って儲けて、着々と青山組の組長への道を歩んでるのに・・弟の俺は未だに風俗店の管理だぞ。風俗は手間の割に収益はいまいちだしよ。金儲けの上手い兄貴との差がどんどん広がっていく。くそ!!」

兄の竜一の事を考えるとイライラしてきた。あれほど、見合いを嫌っていた竜一が、積極的に見合いを引き受けている。上部組織との顔つなぎの為だ。このまま、兄貴が叔父の後を継いで組長になれば、俺は『幼馴染』の速水を失う可能性がある。もしも、兄貴が速水を囲ったら・・どうなる。俺はあいつに逢う事も叶わなくなる。そんな事があってたまるか!!

「事務所任せるわ。『かさぶらんか』に行ってくる」
「問題はないですよ。なんか、イライラ溜まってるみたいですから、『かさぶらんか』の花に癒して貰ってきてください、竜二さん。当分、帰ってこなくていいですよ。速水さんに会う前に、凶悪顔を少しは改善してくださいよ?」
「ああ・・わかってる」

俺の体は定期的に癒しを補充しなければ、顔と性格が凶悪になっていくらしい。速水が青山の屋敷を出た頃から、部下に指摘されるようになった。まさかと思いつつ鏡を覗き込むと、確かに獣じみた目をギラギラさせたやくざ男がいた。

それ以来、部下の指摘を認識した俺は、花屋『かさぶらんか』の花に逢いに行くよう部下に促されると素直に従うことにしている。今も恐らく凶悪な顔をした俺が無意識に、部下たちに威圧感を撒き散らしていたのだろう。こんな時は、『かさぶらんか』の花である、速水に逢って心を癒してもらうに限る。


癒しの花が、美しく花びらを散らして素肌を晒す。俺は速水のちょっとエロイ姿を想像しながら、ニンマリ顔で花屋『かさぶらんか』に向かった。だが、花屋の周辺にガサ入れ担当の刑事がたむろしている場面に出くわし、俺の美しい妄想が一気に吹き飛んだ。

「おいおい、『かさぶらんか』がガサ入れの対象とは聞いてないぞ??」

速水の事が心配でたまらない。だが、やくざの俺が不用意に介入する事で、速水の立場を悪くする可能性もある。俺は、たむろする刑事の中に知り合いのを見つけてメールを送った。刑事はメールに気が付くと、渋い顔をしながらも速攻で返信を送ってきた。

『今、メール送るとか非常識過ぎるだろ?ガサ入れの際にガキが一人逃げて、花屋『かさぶらんか』に侵入した事を確認した。そいつの確保に動いているだけだ。『かさぶらんか』はガサ入れの対象じゃない。あんたは、関わらないでくれ』

刑事が送ってよこしたメールを読んでいる時だった。


「うおぉおおおーーーーーー、なんでぇえーーーー!!」


『かさぶらんか』から悲鳴が聞こえてきた。俺には、それが速水の叫び声だと即座に分かった。まただ・・『ムカデ男』の時と同様に、介入を躊躇ってあいつを危険に晒している。俺は唇を噛みしめながら、花屋『かさぶらんか』に向かって走り出していた。


◇◇◇◇


刑事の動きは思った以上に鈍い。指揮官不在というところか。俺は刑事の脇をすり抜けるようにして花屋『かさぶらんか』の店舗内に踏み込んだ。視線を素早く店舗の隅々に走らす。

床に、茶髪のガキが倒れ込んでいる。
その茶髪のガキを抑え込む刑事二人。刑事の手には剪定鋏と万札が握られていた。
レジカウンターの傍に秋山がいる。手の甲から血を流しているが、軽傷。
そして、速水は男に抱きしめられて壁に押し付けられていた。

男は速水をその胸に抱きしめたまま、床に横たわる刑事とガキの姿を見守っているように見えた。だが、男の関心は床のガキや刑事にはなく、その胸に抱く速水にあることを、俺は本能的に感じ取った。速水の肩には男の右腕が絡まり、震える速水の腰には男の左腕が回っていた。

俺はこの男を知っていた。街をぶらぶら独り歩きする変人署長。ノルマ以上に風俗店にガサ入れをする署長。未成年を扱う違法風俗店を敵視する、この街管轄の警察署長。

後藤一成警視。この街を管轄する西成東警察署の署長。


◇◇◇◇


だが、お前に速水を守る資格はない。速水が酷く震えている。速水は後藤署長に抱きしめられる事に、恐怖を感じているようだ。これは、『幼馴染』としての俺の直感だが、あってるやろ・・・速水?

「速水、大丈夫か?」
「竜二さん!!」

俺が声を掛けると、速水は顔を輝かせた。その姿に俺の胸が一気に高鳴った。速水が、俺を求めている・・そう実感できるひと時が、何よりも興奮する。

速水は男の元からこちらに向かおうとしたが、男の拘束が容易には解けない事に困惑の表情を浮かべていた。それでも、速水は気丈にも僅かに震える声で、男に向かって口を開いた。

「署長さん。茶髪君が僕に襲い掛かってきた時に、庇ってくださってありがとうございました。おかげで助かりました。でも、もう彼は取り押さえられましたし、安全ですよね?幼馴染が僕の事を心配している様なので、彼の所に行って安心させたいのですが・・よろしいですか?」
「それは困ります、速水さん。私には善良な人々を、危険な人物から守る義務があります。今しばらくは、私の保護下にいてください。随分、震えてますね。襲われて、さぞ怖かったでしょうね・・速水さん?」

後藤署長が速水の顔を覗き込むと、速水の頬を撫でた。その行動は、警察官の行為として逸脱している。誰もがそう思ったはずだが、その事を後藤署長に指摘するものはいない。一気に怒りが噴き出し、俺の威圧が周辺にばら撒かれた。

瞬時に、床でガキを取り押さえていた一人の刑事が立ち上がり、後藤署長の前に立ちふさがった。俺は思わず舌打ちしていた。俺だって、『かさぶらんか』で問題なんて起こしたくない。だが、速水に迷惑を掛けているのは警察の方だ。やくざである前に、男としてこのまま引き下がれない。だが、速水の為に問題も起こしたくない。

「後藤署長・・速水が震えている理由は、あんたが触れているからです。速水は、知らない男に触れられると酷い恐怖に陥るんです。今すぐ速水を解放して俺の元に寄越してください。彼は、俺の幼馴染ですから、何の問題もないはずですが?」
「竜二さん・・」
「速水さんが、男に触れられて恐怖を感じるようになったのは、青山組元組長の青山清一に長く囲われていた事が原因のはずだよね?問題をすり替えるのはやめなさい、青山竜二さん。青山清一の息子である青山竜二が、速水さんの『幼馴染』を名乗るとは笑わせるじゃないか?速水さんを『幼馴染』なんて綺麗な言葉で洗脳するのはやめない。孤独な彼が、屋敷で求めた僅かな希望を未だに利用するとは、骨まで喰らう・・『やくざ』らしいやり方だ」

俺は後藤署長を睨み返しながら口を開いた。

「変わり者と評判の後藤署長は、随分とお喋りだな?だが、速水が、実際にあんたを怖がって震えているのも事実だろーが?速水は、繊細な性格をしてるんだ・・早く俺に寄越せ。あんたの行為はセクハラだぞ。訴えられたいのか?速水が嫌がっている事は、頭のいいキャリア組ならわかるだろーが?あー、それともキャリアから落っこちて、こんな風俗の街に飛ばされたのかな、後藤署長ー?」

俺の挑発にも後藤署長は乗る様子もなく、速水の目を見つめ微笑んでいる。明らかに署長の行動はおかしい。その事に刑事も気が付き注意を促す。

「署長、速水さんを離してください。貴方が保護すべきは未成年の少年のはずですよ?」

「そうだねー、小林刑事。だが、彼は違法風俗店で働くことを強要されていた訳じゃないようだね?しかも、逃げ込んだ『かさぶらんか』のレジからお金を盗んだ上に従業員の秋山さんと、オーナーの速水さんを店の備品の剪定鋏で襲った。まあ、確かに未成年だけれど、立派な犯罪者だよね。私としては・・成人していようとも、救うべき人を見つけてしまったからねえ・・どうしたものか・・」

「署長、いい加減にしてください!!」

「いい加減にしろよ、てめえ!!」

普段は穏やかな花屋『かさぶらんか』の店内には不穏な空気が渦巻き、美しい花々を震わせていた。





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