性奴隷は泣かない〜現代ファンタジーBL〜

月歌(ツキウタ)

文字の大きさ
上 下
21 / 74

第21話 竜二と伍代

しおりを挟む

◆◆◆◆◆◆




速水の二十歳の誕生日に、俺は腕時計を贈った。速水は何の疑いもなく身に着けたが、腕時計には細工を施してあった。知り合いの細工師に頼み、GPS機能と盗聴器を腕時計に搭載させた。日々、俺のスマホに速水の様子を伝えてくれる、癒しのアイテムだ。

その癒しアイテムの腕時計が、俺に速水の危機を教えてくれた。


花屋『かさぶらんか』の入居するビルの裏側に、速水がオーナーを務める風俗店の入り口がある。俺は階段を駆け下りて、風俗店の扉を蹴破るようにして中に入った。風俗店の入り口で、既に異変に気が付いた。速水の悲鳴と泣き声が微かに聞こえた。俺は唇を噛みしめて、速水の元に向かった。だが、2号室の扉に寄りかかる男によって、俺の動きは制止された。


「あれ、竜二さん?どうしてここが分かったんですか??」
「ふざけんな、伍代!!速水の悲鳴が聞こえてんのに、何、ぼーっと扉の前で立ってる!!」
「もうそろそろ終わります。少し待ってください、竜二さん。速水さんに付けた盗聴器で、部屋の状況は把握できています。『ムカデ男』は気絶寸前です。このまま、彼らにやらせて組の者は関わらない方がいいと思いますよ?」
「・・・そうかよ」

俺は拳銃を取り出し伍代に向けた。伍代は僅かに眉を動かしただけで、2号室の前から動く気配がない。俺は思わず舌打ちした。伍代友和ごだいともかずは、親父の妾の息子で、俺とは異母兄弟にあたる。親父の清一は子種をばら撒くだけばらまいて、その後は放置状態だった。その子種の中に優秀なものがいれば、叔父の清二は兄の子を拾い上げて組員にする事がある。

伍代もその内の一人で、優秀な人間ではある。だが、速水の専属護衛としては失格だ。速水に対する気遣いがまるで感じられない。何故こんな奴を速水の護衛に付けたのか、叔父に問い詰めたい気分だった。

「どけ、伍代。速水が泣いてる。お前には聞こえないのか?」
「勿論、聞こえていますよ?もし、速水さんの命に関わる状況なら、早々に突入していますよ。でも、そうじゃない。それに、今回の件は速水さんの好機に転じる可能性があります」
「好機だと?」
「『かさぶらんか』のオーナーは速水さんです。『ムカデ男』の処遇をどうするかは、速水さんに一任すべきです。今回の件は、相手の『ムカデ男』に落ち度があります。速水さんがオーナーとして、上手く立ち回れれば、奴の所属する上部組織に貸しを作れます。性奴隷の速水さんが、『かさぶらんか』のオーナーとして名実ともに認められる為には、実績が必要なんです。竜二さんだって、それくらい分かっているでしょ?」

伍代の理詰めの言葉に、俺は2号室に突入することを躊躇った。だが、次の瞬間には全ての理性が吹き飛んでいた。速水の狂ったような悲鳴が聞こえたからだ。

俺は、突入を躊躇った自分を罵りたかった。伍代ごと扉に体当たりをして、俺は2号室に突入した。



◇◇◇◇



3人の男が速水に覆いかぶさっていた。速水の姿が男達の背に隠れ確認できない。だが、速水の白い脚は見えた。速水の下半身が露になっていた。

怒りが俺の全身をふるわせた。

『あ・・・??清一さん、清一さん、もう、精液飲めないよ。何回も飲んだから、吐いちゃうよ。ねえ、清一さん、他の遊びしよ?何でもいいよ?清一さん、清一さん、もういいでしょ?僕のアナルばがばだになったでしょ?山行こ?山に埋めて。清一さん、山に穴掘りに行こ?』


速水が、解離状態に陥っている。突入のタイミングを逸した。俺はもっと早く部屋に突入して、お前を救えたのに。なのに、躊躇った。将来の速水より、今の速水が大切なのに。速水、『清一』はお前を救わない。お前に責苦を与えた張本人の『清一』に救いを求めないでくれ。俺に救いを求めてくれ。今、助けるから。

くそ、ムカデ男はどいつだ?三人とも殺すか?

「竜二さん、撃つのはムカデ男だけにしろ!!」
「うるせー、伍代!だから、誰がそのムカデ男なんだよ!?」
「真ん中の奴!!」

真ん中!?

「ははははっーー、この性奴隷、解離しやがった!!清一の奴、うまく調教したな!!速水は恐怖に陥るたびに、お前に縋るわけか??お前が死んだ後も、こいつはお前の専属性奴隷ってわけかよーーーーーーーがはぁっ!!」

お前か!!
俺は『ムカデ男』の頭を撃ち抜いていた。



◇◇◇◇



速水に覆いかぶさる三人の男を蹴り飛ばすように退けると、ようやく速水の顔を確認できた。速水は涙を浮かべながら、顔に掛かった体液を拭っていた。『ムカデ男』の血液は速水の髪を僅かに穢したが、速水の顔には掛かっていない。速水が嫌がって拭っている体液は、顔全体にかけられた精液だった。俺は唇を強く噛みしめ、怒りを抑え込んだ。そして、ベッドに沈む速水にできるだけ優しく語りかけていた。

「速水、速水。もう大丈夫だ。俺の事、分かるだろ?竜二だ。幼馴染の竜二だ。俺が迎えに来たから・・もう安心だろ?大丈夫、ムカデ男は死んだ。親父の清一も、もう死んだんだ。怖がらなくて、大丈夫だから。お前はもう自由だ。まだ怖いなら、俺に助けを求めろ。聞こえているか、速水。一緒に帰ろうな・・大丈夫だから、速水」

「・・・んん、竜二さん??」
「ああ、竜二だ!!もう大丈夫だから、速水!!」

速水は虚ろな瞳で俺を見つめながらも、俺の名を呼んでくれた。それだけで、胸に喜びが広がる。速水を抱き上げようとして、拳銃を手にしたままであることに気が付いた。伍代が何時の間にか俺の横で、ベッドに転がった『ムカデ男』の状態を確認していた。他の二人はベッドから降りて、何故か床に身を伏せていた。

「伍代、拳銃が邪魔だ。持ってろ」
「竜二さん。『ムカデ男』は撃っていいとは言いましたが、頭を撃ち抜けとは言ってませんよ?」
「仕方ないだろ。速水の体からできるだけ遠いところを狙った先が、頭になっちまったんだから。それより、お前はずっと室内を盗聴していたんだろ?速水の顔に精液ぶっかけたのは誰だ?」
「『ムカデ男』の下半身が濡れてるから、こいつじゃないですか?」
「そうか」

俺は『ムカデ男』の下半身を撃ち抜いていた。多少血が飛び散ったが、速水には掛かっていない。

「うぉ!!竜二さん、正気ですか!?俺が弾食らったらどうするんですか!?」
「知らん。それより拳銃が邪魔だ。伍代、持ってろ」
「言われなくても、貰います。貴方は考えなしに撃ちすぎです!」
「うるせーぞ、黙ってろ」

伍代に拳銃を渡すと、ようやく両手が開いた。俺は速水の上半身を起こして、胸の中に抱きしめた。速水は俺の顔を胸の中から見つめてふわりと微笑んだ。

「あのね、竜二さん。ちょっと、待ってね?幼馴染と会いたいって、清一さんにお願いしてくるから。あのね、幼馴染と会いたいときは、僕からセックスおねだりする決まりなんだ。勝手に会うとね、いっぱいお仕置きされるんだ。でも、僕からセックスおねだりするとね、清一さんすごく機嫌よくなるんだぁ。いつも以上にがつがつ突っ込まれるから痛いけどね。でも、待ててね?待ててよ?あのね、本当に・・待っててよ。絶対だよ??」

俺は目を見開いて速水を見た。まだ、速水の解離状態が続いている。それも問題だが・・今の話の内容はなんだ?親父は、速水が俺たちと会う事にも、制限を掛けていたのか??それも、速水自らがセックスを親父に乞うように、仕向けていたのか?親父は。親父は、どこまで速水を支配するれば気が済むんだ。あいつは!!

俺はきつく速水を抱きしめて、速水の髪に顔をうずめた。その為に、伍代の動きに気が付かなかった。伍代の手にはスタンガンが握られていた。俺が気が付いた時には、既に速水の背中にスタンガンが押し当てられていた。青い光が速水の背で弾けた。

「あっ!!」

「伍代、貴様!!」
「竜二さん・・何時までも、性奴隷の戯言に付き合う必要ありませんよ。こういう時は、ショック療法が一番効果があります。さあ、速水さんをこちらに渡してもらえますか?お忘れのようですが、彼は組長の愛人ですよ?これ以上、組長の愛人に触れないでいただけますか・・・竜二さん?」


伍代は速水に押し当てたスタンガンを放り投げると、俺が手渡した拳銃を手にして俺に冷たく笑いかけてきた。




◆◆◆◆◆◆
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...