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第16話 秋山
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三原は苦い顔で2号室を見ている。トラブルを避けるためにも、三原と彼の関係を把握する必要があるが、なかなか聞きにくい。僕は三原の表情を伺いながら尋ねてみた。
「2号室の人と三原はどういう関係?」
「どういう関係かと問われると、知り合いとしか言いようがないな。名前は、秋山剛。あいつの父親は、西成で風俗店の雇われ店長をやってたんだ。でも、俺の母親に出会ってから、売上金の一部を摘まんで母親に貢ぎ続けた。多分、母親と親密な関係になってたんだと思う」
三原の母親が関わっていたなら、『かさぶらんか』の次の経営者として、話を聞くべきだ。でも、僕は三原の顔を見て、口ごもってしまった。僕の様子を見て、三原は自嘲気味に笑って話をつづけた。
「もしかしたら、俺の母親が、売上金の使い込みを唆したのかもな。でも、秋山の使い込みが風俗店のオーナーにばれて、親父は自殺しちまったんだ。一人息子を残して」
「自殺」
「ああ。せめて生命保険にでも入ってくれていたら、秋山も救われたと思う。でも、何もなかった。秋山の親父は借金だけ残して・・死んじまった」
「秋山は財産放棄とかできなかったの?相手がまずい奴だった?」
「風俗店のオーナーがまずい奴だった。しかも、秋山を囲おうとしてた」
「え・・そうなの??」
秋山は体格がいいから、囲いの対象にはならないと勝手に思い込んでいた。けど、実際には性奴隷として働いているわけだし、そういう需要もあるってことか。
「人の好みはそれぞれだからな。体格のいい秋山を拘束して、無理矢理セックスしたいって変態もいるんだよ。しかも、その風俗店のオーナーに囲われた性奴隷は、すぐ壊れることで有名だった。やばい薬を打ちまくられて、尻掘られて、殴られて。廃人どころか、死んだ奴もいるって聞いたな」
「めちゃヤバい奴だな・・よく秋山は、そいつに囲われずに済んだな?」
三原は少し俯いて口を開いた。
「同じ頃に、俺の親父が死んだ。親父の形見分けで、俺は初めて青山組の屋敷に呼ばれたんだ」
「形見分けがあったのか。ま、囲われ者の僕は、知らなくて当然か。で、屋敷に君を呼んだのって、青山清二さん?」
「よく分かったな、速水?」
「清二さんは、三原の事を気に掛けているって言っただろ?」
「そうだったな。で、清二さんから、形見分けに何が欲しいか問われて、俺は土下座して頼んだ。秋山を救ってくれって」
不意に、2号室の秋山が映るモニターが点滅した。それは、来客を知らせるものだった。
「清二さんが動いてくれて、秋山は囲われずにすんだ。でも、風俗店のオーナーが秋山に執着しているから、手元に置いて借金を返済させろって、清二さんに指示された」
「だから、三原はあいつを性奴隷にしたのか」
僕の言葉に三原は激昂した。
「俺だって、あいつを性奴隷になんかにしたくなかった!!」
「三原」
「でも、それが風俗店のオーナーが、あいつを囲う事を諦める条件だった。清二さんはそれで手を打てと言った。俺もこれ以上は、清二さんにも青山組にも迷惑は掛けられなかった」
2号室に客が入る。個室に客が入室すると同時に、モニターの録画が開始された。僕は、モニター画面に近づいて動画に見入った。画面越しにも、秋山の表情がくもるのが分かった。でも、僕の視線は別のものに奪われていた。
「もしかして、今来た客が・・風俗店のオーナー?」
「ああ、そうだ」
「腕にムカデの刺青がある。あのムカデ・・知ってる。僕は知ってる」
「速水?」
「・・・」
僕は黙って画面を見つめていた。自前で持ち込んだらしい金属製の拘束具を、男は秋山の両手首に嵌めようとしている。拘束を嫌った秋山は、男に向かって何か話しかけた。いきなりだった。男は秋山の脇腹を拘束具で殴った。秋山は痛みに耐えきれず崩れ落ちた。男はにやにやと笑いながら、秋山をベッドに押し倒すと両手首に拘束具を嵌めて自由を奪った。
「ぁあ!!」
「くそっ!」
ムカデの刺青が入ったその男の手が、秋山の全身に這わされる。そして、ズボンに手を掛けると一気に脱がしにかかる。秋山は性奴隷として、男に従うことにしたらしい。下着も脱がされ下半身を男に晒した秋山は屈辱に震えていた。その下半身には、酷い痣が幾つもあった。秋山の下半身にムカデの刺青が這う。
僕はあの男を知っていた。腕にムカデの刺青を入れた男。
僕の体内に初めて入った男。
『かさぶらんか』の地下。あの時、三人の男に僕は貪られた。そして、腕にムカデを這わせたあいつが、最初に僕を犯した。アナルが血みどろになっても、あいつはペニスを抜かなかった。『初物』を壊すことを、あいつは楽しんでいた。笑いながら、僕を犯した。ペニスを無理矢理出し入れして、僕の悲鳴と泣き声を楽しんでいた。
「速水、顔色が悪い。お前は、モニタールームを出ろ。速水は、俺に風俗店の店長を任せてくれるんだろ?俺が、モニタールームであいつを監視してるから。速水・・大丈夫か?」
「あいつは、出禁にする」
「速水・・さっき話した通り、清二さんとあいつの間で話はついているんだ。秋山を囲わない代わりに、性奴隷として彼を店に出すことで決着がついてる。秋山もあいつに囲われるよりも、ここで性奴隷になることを選んだ。行為が行き過ぎれば、俺が止めに入るから。」
「あいつを出禁にするのは、秋山の為じゃない・・僕の為だ!あいつは、僕を初めて犯した奴なんだ。あいつは泣いて抵抗する僕に、ペニスを何度も突き込んだ!!僕はあいつの顔を見たくない。あいつがこの店に来るのも許せない!!」
「速水!?」
「あいつは、他の奴が僕を犯している間も・・体に手を這わせてた。嫌で気持ち悪かった。あいつの腕のムカデが僕の体を這って色んなところに触ってた」
僕は過去の記憶に押しつぶされそうになり、体がふらついた。それを支えてくれたのは、三原だった。僕は三原にしがみ付きながら、スマホを取り出す。そして、青山清二の連絡先を呼び出した。僕は、清二のお情けで愛人にしてもらった身の上だ。なのに、また迷惑を掛けようとしている。それでも、ムカデの刺青の男が目の前にいる事が耐えられなかった。
僕は、清二さんのスマホに連絡を入れた。意外にもすぐに清二さんは出てくれた。
「おう、速水。竜二に拉致られて『かさぶらんか』まで車で送迎されたそうだな。お前の護衛から連絡がきたぞ」
「ねえ、清二さん・・性欲、溜まってない?僕でよかったら、捌け口の相手をするよ?」
「はぁ?ふざけてるなら電話切るぞ」
「ふざけてない!!」
「速水?」
「秋山を犯してるムカデの刺青の男・・出禁にしたい」
「あいつ、店に来ているのか?速水が『かさぶらんか』のオーナーになった時点で、あいつには『かさぶらんか』に近づかないことで手を打った。少し揉めたが、金と貢物やったら満足してたがな」
「じゃあ、あいつを追い出してもいいんだね、清二さん?」
「ちょっと待て、お前は動くな。護衛を向かわせるから、あいつには直接関わるな、速水」
「無理、我慢できない。あいつを追い出してくる!」
「速水!!」
僕は清二さんの忠告を無視してスマホを切った。こんな事を繰り返していたら、いずれ清二さんに見捨てられる。それを思うと、ひどく心細く寂しくも感じた。それでも、過去の僕が心を抉って泣き喚いていた。耐えられないと。
「三原、命令だ。ムカデ男を出禁にする。地下への扉を開けてくれ」
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