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第5話 男に抱かれるのは嫌い
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寝室に入ると、俺はベッドに速水を放り投げた。そして、奴に馬乗りになって気になっていたことを口にした。
「速水・・竜一と寝たのか?」
「はい??」
「寝たのかと聞いている。答えろ!」
「それが、セックスを意味するなら寝ていません。僕は、竜一さんとも竜二さんとも寝ていません。清い関係です」
「はっ!性奴隷のくせに、『清い関係』なんて言葉をよく口にできるな?だが、竜一はお前に肩入れしすぎだ。竜二が、お前の体に興味を持っている事は把握していたが・・竜一があれほどお前に執着しているとは思わなかった」
俺の腕の中で居心地が悪そうに身じろぎした速水だが、少し思案したのちに口を開いた。
「竜二さんが僕の体に興味があるかどうかは知りません。ただ、彼ら兄弟は、僕に対して罪悪感を感じているようです」
「罪悪感?」
「分かるでしょ、清二さん?貴方のお兄さんが僕を囲った時、僕はまだ小学生だった。父親が、息子より幼い子供を寝室に連れ込んで、あれこれしていたわけですよ?竜一さんや竜二さんにしてみれば、僕は父親の囲われ者というより、犠牲者と捉えちゃったんでしょうね」
「・・なるほどな」
「それに、その当時の僕は、清一さんにやられるたびに、泣き喚いていたわけですから・・いたたまれない気分だったんじゃないですか?いっそ、僕のことなんて無視してくれたら良かったのに。性奴隷の仕事だと、割り切ってくれたら良かったのに。でも、彼らは優しすぎた・・特に竜一さんは。彼は、やくざには向いていませんね」
俺は饒舌に語る速水を見つめながら言葉を返す。
「確かに、竜一はやくざには向いていないな。だが、金儲けの才がある。今の時代、金儲けができるやくざがいる組だけが生き残れる。その点、竜一は貴重だ」
「・・竜二さんはどうですか?」
「あいつか?あいつは親父に似て女好きだが、ここらの風俗店はあいつがほぼ仕切ってる。あいつは、なんでも器用にこなす上に、残虐な事にもためらいがない。あいつこそ、やくざ向きだろうな」
不意に速水が俺の下半身に触れてきた。やはり、性奴隷にはこんな話は退屈だったか。そう思っていると、速水が眉を潜めて口を尖らせた。なんだ、その表情は??
「清二さん、全く勃起していませんが・・男を抱けます?」
「そんなに抱かれたいか?男の体が恋しいか?」
そんな俺の言葉を速水は軽く無視をした。
「僕は、囲いがなくなればこの地を去るつもりでした。性奴隷としての二十歳はもう年増ですけど、一般的には二十歳なら若者の部類でしょ?僕はどこかの街で、清一さんに貢いでもらった貴金属を売ってお金にして、自分の店を開くつもりだったんです。それなのに、この街から出られなくなってしまった。この街での僕の評価は、あくまでも性奴隷です。一度、性奴隷にされた奴は・・男の体を欲しがる淫乱としての評価しかつかない」
俺は速水に馬乗りになるのをやめて、奴の横にごろりと転がった。ベッドに転がると、ついあくびが出そうになる。
「まあ、そうだろうな。この街にとどまる限り、お前は男を欲しがる淫乱だ。だが、お前はもうこの街で生きていくしかない。それは分かっているだろ?」
「理解はしましたが、心が納得しないだけです。ところで、清二さんが僕を抱くと言い出したのは、お兄さんの遺言云々ではなく、竜一さんや竜二さんに対するけん制ですか?」
「意外と鋭いな。親父が男狂いで、息子まで男狂いになっては・・兄貴の正妻が可哀そうだろ?」
「ああ、なるほど。彼女のためですか。清一さんの正妻さんは、清二さんの初恋の人ですものね」
俺はぎょっとして、速水の腕を掴んだ。腕を掴んだ途端に、速水はぎくりと体を震わせた。そして、なんとも奇妙な表情を浮かべる。まるで、子供の様に怯えた表情でこちらを見ている。ただ腕を掴んだだけだというのに。
「・・・?」
「あ・・その、清一さんから聞きました。清二さんの初恋の人が自分の妻だって。その、怒ってます?」
「驚いただけだ。怒ってはいないが・・・お前、俺が怖いのか?」
「そりゃ、怖いでしょ。次期青山組の組長ですから」
「そうじゃない。男が怖いのかと聞いている、速水」
そう聞いた途端に、速水の表情が崩れた。速水はベッドのシーツに顔をうずめると、小さな声で呟いた。
「そりゃ、怖いに決まっているでしょ」
「なぜだ?」
「・・痛いし、苦しいからですよ。あれを好きになれるのは、本当の男好きか、マゾだけです」
どうやら演技ではなく、本当に男が怖いらしい。兄貴が速水に酷い扱いをしていた事は知っている。だが、もう速水は二十歳だ。男の体にも、とっくになれたと思っていたが。だが、そうでもないらしい。それならば、どうして俺の提案に積極的にのった?それほど、武器が欲しいのか。この街で生きていく為に。
俺はため息をついて速水に提案した。
「俺は男に興味はない。お前を抱く気もない。しばらくここで過ごして俺に抱かれたふりをしろ、速水」
その言葉を聞いた速水は、ベッドのシーツから顔を上げて必死の形相で俺にしがみ付いてきた。
「それは駄目です、清二さん。ただの『ふり』では見破られます。こういう事に、目鼻が聞く人間が存在します。『ふり』だとばれたら、僕は性奴隷として餌食になるだけだ。清二さん。僕の事をたまに抱く本物の愛人の一人に加えてくれませんか?僕に武器を与えてください。この街に縛ると決めたのがあなたなら・・それくらいしてくれてもいいでしょ?」
速水の必死の言葉に僅かに目を細める。兄貴の気紛れでこの屋敷に連れてこられたガキは、二十歳になり大人になった。だが、その目はひどく不安定で幼い子供の様に彷徨っている。強い意志と弱い意志が交互に現れ彷徨い、一本の柱にはなれずに、今にも折れてしまいそうな状態だった。調教の末にこんな人間を作り出した兄貴は、相当のサドかもしれない。
「分かった。抱いてやる・・速水来い」
兄貴のお荷物を、俺はまた背負い込む羽目になった。あんな兄貴を持ったことを不幸と思う事にするか。
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