タイムスリップしたら織田信長の家来になりました!

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天下人への道

来訪者

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―――

 三日後

 岐阜城、大広間


「高屋城が燃えた、か。これはいよいよ何者かが関係していると考えた方がいいな。」

 信長が忌々しげに言うと、その場にいた全員が神妙な顔で頷いた。蘭を始め、光秀・秀吉・勝家が揃っていた。


「ところで池田と十河はどうなりました?槇島砦で追撃に備えて準備していたのですが、一向に現れなかったので……」

 光秀が不安げな顔で発言する。それに対して信長はちらっと秀吉の方を向くと顎をしゃくった。


「心配には及びません。池田と十河は堀城周辺にいたところを捕まえて、命は助けてやるから織田の配下になるよう話をつけました。二人とも即答でした。」
「え?見逃したのですか?いつか裏切ってまた挙兵するかも知れないですよ。」
「大丈夫だ、勝家。どちらの城にも俺の息のかかった密偵を家来として送り込んでいる。何か動きがあればすぐに報せが来るようになっているし、一人や二人ではなく数十人体制だから内紛を起こす事も出来る。まぁこれは最終手段だがな。」

 信長がそう言うと勝家はホッと息を吐いた。


「雑賀衆の方はどうなんですか?」
「そっちは少し厄介だな。サルが話をして一旦は兵を引いたらしいが、再び蜂起する可能性はある。一応近くに見張りを置いてはいるが今後どういう動きをするかは予想出来ない。」
「そう、ですか……」

 光秀は溜め息を零すと秀吉に恨みがましい視線をやった。まるで説得し切れなかった秀吉が悪いと言わんばかりのその態度に、偶然見てしまった蘭は密かにハラハラした。

 ちなみに雑賀衆というのは紀伊国北西部を中心に活動している傭兵・地侍集団の事である。高い軍事力を持っていて鉄砲も所持していた。海運や貿易も行っており、信長の天下統一の為には潰しておかなくてはいけない一大組織だった。


「今回の事で本願寺の門徒のほとんどは壊滅できたが、雑賀衆が今後関わってくるとなるとこれまで以上に注意を払わんといかんな。あそこは今まで歯向かってくる事はなかったから油断していた。」

 ちっと舌打ちをすると、信長は徐に立ち上がった。


「しかし何故急に池田や雑賀衆が挙兵してきたのでしょうか?」

 勝家が疑問を口にすると光秀も同意するように頷いた。信長は部屋をぐるりと歩き回りながら吐き捨てるように言った。


「義昭の仕業だろうな。」
「えっ!?」

 蘭が弾かれたように顔を上げる。信長と目が合うと信長は不敵な笑みを浮かべた。


「信玄亡き後、自分が中心となって俺を攻めようとでも思っているのだろう。勝頼は信玄に比べれば頼りないが、上杉や毛利が味方になって気が大きくなっているのが手に取るようにわかる。どうせ『第二次信長包囲網』などと宣っている事だろうさ。」
「『第二次信長包囲網』……」

 蘭が呟くと、そもそも信長包囲網の存在すら知らなかった光秀達は首を傾げた。それに構わずに信長は続ける。


「義昭の事は敢えて放っておいたが、こうも早く行動に移すとは思っていなかった。京から追放されて戦意喪失していると思っていたけれども間違いだったようだな。……面白くなってきたではないか。」

 そう言うと、くくっと短く喉を鳴らした。


「しかし生かしたままでは遅かれ早かれこうなる事はわかっていた事ですよね?何故わざと逃がしたのですか?」
「それは私も気になっていたのです。どうしてですか?槇島城で殺す事も出来たのに……」

 秀吉に続いて光秀が問うと、信長は元の場所に戻って来ると乱暴な仕草で座った。


「言っただろう。毛利輝元に会ってみたいからさ。毛利は安芸で代々続いた武家の名門だ。義昭が毛利を頼ろうとしているとわかって俄然興味がわいたという訳だ。ただそれだけだ。」
「そう言えば義昭と話をしていた時、そう仰ってましたね。でもどうしてわかったのですか?義昭が毛利を頼ろうとしていたって。」

 光秀が鋭い目を信長に向ける。蘭は慌てて間に入った。


「そ、それは義昭が毛利に手紙を出したって知ったからですよね?」
「だから何故それを知ったのです?槇島城に密偵でも送っていたのですか?」
「そう!密偵の人から聞いたんですよ。ね?そうですよね?」
「あぁ、まぁそういう事だ。」

 蘭が額に冷や汗をかきながら信長を見ると、ニヤニヤしながらしらばっくれた。


「そうですか。納得しました。」

 言葉とは裏腹に納得していませんという顔をしながら光秀が引き下がると、蘭はホッと息を吐いた。


「とにかく今回の事は一先ず一件落着だ。だが本願寺がどうも気がかりだな。門徒がほとんど死んだとは言え、蓮如とその弟子らはまだ本願寺にいる。門徒が大勢やられたとなれば躍起になって襲ってくるかも知れん。どうしたもんやら。」
「例の放火魔が本願寺にも火を点けてくれないかな……」

 思わず蘭が口を滑らせると、驚いたように信長が蘭の方を向いた。


「蘭丸……お前も言うようになったな。」
「えっ!?あ、今のは本気じゃなくて……そうなったらいいなってちょっと思っちゃっただけで……」
「今までの流れでいくとそうなる可能性はあるが、それを大人しく待つというのも癪に触るな。本願寺は俺の手で葬りたい。……よし、サル。本願寺の焼き討ちを決行するぞ。」
「はっ!」


(本願寺の焼き討ち……歴史にはない事だ。これはこの時代の未来にとって大変な出来事になるだろうな……)

 蘭は誰にも気づかれずに溜め息をついた……



―――

 本願寺焼き討ち、決行の日


 秀吉は自分の軍を率いて夜中の内に岐阜城を出発した。本願寺に着くとすぐさま押し入り、蓮如とその弟子らを縛り上げた。読経が夜の闇に響く中、延暦寺でそうしたように次々と首を刎ねてまわった。


「よし、後は火を点けるだけだな。誰か火を……」

 秀吉がそう言った瞬間、寺の裏手で爆発音が鳴った。驚いて振り返ると見る見るうちに炎が寺を包み、秀吉は慌てて後ずさる。


「これは……」

 呆然と呟く。初めて見る光景に、秀吉は口を開けたまま固まった。

 そうしている間にも火はまるで生き物のように蠢き、寺の周りに生えていた木々にも引火して辺りは火の海になっていく。秀吉は魅入られたかのようにその場から動けなかった。


「秀吉様!」
「!!」

 その時突然後ろに引っ張られる。見ると家来の一人が汗だくになりながら腕を掴んでいた。


「何をしているのです!早く逃げないと!!」
「あ、あぁ……」

 目を瞬くと思うように動かない足を叱咤してその場から逃げ出した。

 誰もいなくなった後には縦横無尽に動き回る炎だけが残った……



―――

 岐阜城、信長の部屋


「そうか。本願寺もやられたか。」
「はい。しかしあれは普通の火事ではありませんでした。炎が生きているみたいに蠢いて、しばらく目が離せませんでした……」
「そう言えば勝家も言っていたな。異常な光景だったと。」
「ただ火を点けただけではあのようには燃えません。あれはきっと能力者の仕業だと思います。」
「ほう。それではさしづめ、『放火』の力といったところだな。何もない場所に火を点ける事が出来る能力。見た事も聞いた事もないが、このような世界だ。有り得る話だな。」
「そうですね。」

 秀吉はまだ興奮している様子で何度も頷いた。


「信長様、失礼します。」

 その時、障子の向こうから光秀の声が聞こえる。信長は『何だ』と面倒くさそうに答えた。


「たった今、自分は『放火』の能力を持っていると言う者が訪ねてきたのですが、如何致しましょうか。」
「何だと!?」

 思わず大きな声が出る。信長は秀吉と顔を見合わせて軽く頷き合うと、立ち上がった。


「通せ。」


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