タイムスリップしたら織田信長の家来になりました!

文字の大きさ
上 下
58 / 124
混乱の尾張

能力者同士の会見

しおりを挟む

―――

 二日後、信長と蘭は武田の本拠地である躑躅ヶ崎つつじがさき館の要害山城ようがいやまじょうに来ていた。

 来る途中蘭は物珍しさに口を開けたままキョロキョロと首を振りながら歩いていた為、信長に拳骨を食らわせられたのでしゅんと元気がない様子だった。


「いてて……そんなに強く殴る事ないのにな……」
「うるさい。聞こえてるぞ。……まぁ確かに武田城下町と呼ばれるだけあって壮観ではあったな。清洲城や近辺の城の城下は戦で勝つ為にそこかしこに火を放ってしまっているから、ほとんど焼け野原だからな。」
「今さらっと酷い事言われたような……へぇ~そうなんですかぁ……」
「……しっ!来たぞ。」

 信長が背筋を伸ばして鋭い声で言うと、襖が開いて一人の壮年の男性が入ってきた。


(この人が武田信玄……?イメージしていたのより若い。あ、でもそうか。テキストに載ってる絵はもっと歳がいってる時のやつだからこんなもんか。坊主頭だから年齢不詳だけど。)

 蘭がそう思っていると信玄は何がおかしいのか薄ら笑いを浮かべながら言った。

「この度は信長公直々においで下さってありがたい事ですな。城下町はいかがでしたかな?」
「えぇ。区画整理はきちんとされていますし、街道も綺麗だ。うちはまだ城下の修復が出来ていないので是非参考にさせて頂きたい。」
「それはそれは。貴方はお父上に似て、火の後始末が苦手でおられるようだしさぞ大変でしょう。自慢の城下町なので帰りの道中も楽しんで行って下さい。」

 笑顔の信玄に対して信長は終始仏頂面で、蘭は二人の間でハラハラしながら座っていた。

(すげぇ~…社交辞令のオンパレード。しかも皮肉付き……)


「さて本題に入ろうかな。今日来たのは同盟を結ぶ為。そう書状に書いてあったが、果たしてそれは本心ですか?」
「もちろん本心ですよ。そうでなければわざわざ来ません。」
「そうですか。理由は?まぁ、想像はつきますがね。貴方が今川義元を討ったお陰で方々の部将どもが目の色を変えて貴方を狙っている。その中で孤軍奮闘出来る程、織田信長はまだ力が足りない。という訳ですね。」
「…………」

 面と向かって痛いところを突かれた信長は心底悔しそうに唇を噛んだ。

「大方美濃の斎藤を牽制する為に武田と同盟を結びたいというところでしょう。わかりました。同盟を許可しよう。どうせあそこは既に武田の手中に収まっている。こちらとしても損にはならんからな。しかし条件がある。」
「条件……ですか?」

 そう言って僅かに顔を上げた信長の額に大粒の汗が光っている。それを見た蘭は首を傾げた。

(どうしたんだろう?具合でも悪いのかな。でもさっきまで普通だったし……)


「美濃の遠山氏に嫁いだのは確か貴方の妹君でしたな。」
「……そうですが?」
「つまりそこの娘は貴方の姪という訳だ。その娘をうちの息子である勝頼の正室にして下さるのなら、同盟の話を飲もう。どうですかな?」
「……!!あの娘はまだ十にも満たない子どもですよ?それを……」
「おやおや、自分の兄上の子を人質にして自らの後継者にしてしまわれた貴方が言う事ですか?大切な息子を奪われた兄上はさぞかし嘆き悲しんでいるでしょうな。」
「くっ……」

 鋭い目で睨まれて言葉が出ない信長を見ていよいよ不安になった蘭は、ついに口を開いた。

「どうしたんですか?信長様?具合でも……」
「いや、大丈夫だ……」
「でも……」
「おや、そちらの方。わしの力が効かないようだな。」
「え?力?」
「さてはそなた、この世の者ではないな。」
「へっ!?」

 先程よりワントーン声を低くした信玄に別次元から来た事を何故か見抜かれて、蘭は飛び上がった。

「な、そんな訳ないじゃないですか!この世の者じゃないなんてご冗談を……」
「ふん、まぁよい。それよりも信長公の体調が限界の様だ。わしはこれで失礼するが、先程の条件が満たせぬ限りは同盟は結べないという事は肝に銘じておいた方がいい。」

 信玄はそう言うと、さっさと広間を出て行った。

 それを片目で確認した蘭は、崩れ落ちそうになっている信長を慌てて支えた。


「信長様!」
「大丈夫だ。あいつが出て行ったら楽になった。しかし信玄にこんな隠し玉があったとは……」
「どういう事ですか?信玄は力って言ってましたけど。」
「俺が『心眼』の力を使おうとしたら突然奴の声が体の中に入ってきたのだ。普通に話している声なのに耳からではなく腹の中から体全体に響くようだった。力を使おうと精神を尖らせていたから逆に信玄の力を全て受ける形になってしまったのだ。同盟を急ぐあまり、奴が能力者だという可能性を考えなかった俺の負けだ。」

 意気消沈してそんな事を言う信長を蘭は悲しい顔で見つめた。

「それで、信玄の力って……?」
「多分『念力』だ。」
「念力って、触らないで物を動かす力の事ですか?でも物なんて動かしてなかったですよね?」
「以前に聞いた事がある。『念力』は物だけではなく、人間の心も操る事が出来るそうだ。信玄はその力を使って今川や相模の北条と三国同盟を実現させたという訳だ。あれだけ反目し合っていた今川と北条を動かすなどどんな高度な交渉をしたのかと思っていたが、能力に頼っていたとは驚きだ。」
「人の心も操る……はっ!もしかして信長様は今……」
「あぁ。悔しいが俺はあの坊主に心を操られるところだったという訳だ。」
「でも今日は信長様の方だって力を使おうとしていたから漬け込まれただけで、次に用心すれば上手く交渉できるんじゃ?」
「いや、無理だろう。そもそも俺は交渉は苦手なのだ。今回の訪問は武田信玄という人物がどんな人間か見極めたかっただけで、本音を言うなら戦で決着をつける方が何倍もいい。しかし先程奴が言った通り、今の俺にはまだ武田や他の所と本格的に合戦をする力も勢力もない。悔しいがな。」
「…………」

「蘭丸。頼みがある。」
「何ですか?」
「近い内に美濃の苗木城に行ってくれ。そこに俺の妹がいる。」
「え?それって……」

 蘭は驚きで目をパチパチさせる。すると信長は一瞬複雑そうな表情をしたものの、次の瞬間には無表情で言い放った。

「信玄が言った条件を飲む事にする。妹の娘を清洲城に連れてきて一旦俺の養女にし、それから武田勝頼に輿入れさせる事に決めた。お前にはその娘を迎えに行って欲しい。」
「俺が、ですか?」
「心配するな。勝家も同行させる。二人で行ってきてくれ。どうせ信玄が裏から手を回して話は先方にいってるはずだ。」
「……わかりました。頑張ります!」


 こうして蘭は勝家と二人で美濃へ行く事になったのだった。



―――

 それから一年後の永禄3年(1560年)、織田信長は美濃国苗木城主・遠山とおやま直廉なおかどと自分の妹の間に生まれた娘を、自分の養女として武田信玄の息子・武田勝頼に正室として嫁がせた。


 後に龍勝院りゅうしょういんと呼ばれたその娘は、まだ年端もいかない子どもであったが、織田と武田の同盟の為にその身を捧げる事になってしまったのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?

俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。 武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

異世界日本軍と手を組んでアメリカ相手に奇跡の勝利❕

naosi
歴史・時代
大日本帝国海軍のほぼすべての戦力を出撃させ、挑んだレイテ沖海戦、それは日本最後の空母機動部隊を囮にアメリカ軍の輸送部隊を攻撃するというものだった。この海戦で主力艦艇のほぼすべてを失った。これにより、日本軍首脳部は本土決戦へと移っていく。日本艦隊を敗北させたアメリカ軍は本土攻撃の中継地点の為に硫黄島を攻略を開始した。しかし、アメリカ海兵隊が上陸を始めた時、支援と輸送船を護衛していたアメリカ第五艦隊が攻撃を受けった。それをしたのは、アメリカ軍が沈めたはずの艦艇ばかりの日本の連合艦隊だった。   この作品は個人的に日本がアメリカ軍に負けなかったらどうなっていたか、はたまた、別の世界から来た日本が敗北寸前の日本を救うと言う架空の戦記です。

処理中です...