タイムスリップしたら織田信長の家来になりました!

文字の大きさ
上 下
43 / 124
いざ、戦場の中へ

最後の会話

しおりを挟む

―――

 清洲城 大広間



「もう一年経つのだな。蘭丸が今川に行ってから。」
「えぇ。松平元康の手助けのお陰もあるのでしょうが、まさかこんなに粘れるとは思いませんでした。良くて半年かと。」
「それだけ早く帰りたいのだろう。」
 投げやりにそう溢す信長は、やはり何処か淋しそうだった。

 主君信長が蘭や蝶子に感情移入しているのは勝家だけじゃなく、城の人間なら誰でも気づいている事だ。勝家は裏山で遭難していたのを拾ったと聞かされてはいるが、それだけではないと思っていた。

 現に今信長が溢した通り、蘭が今川に行ったのは二人が故郷に帰る為に必要な事だと言うが、それも意味が良くわからない。

 でも勝家は忠実な家臣として信長が言う事をそのまま受け止め、決して深く詮索しないと心に決めている。そうやって生きてきたのだ。

「ところで信長様。ご報告がございます。」
「あぁ、そうだったな。何だ。信勝の事か?」
 唐突に居住まいを正す勝家を見て、信長も少し身構えた。

 勝家は蘭の事は忍者の伴長信と松平元康に任せ、ここ数ヶ月の間は末森城の信勝の方に張りついていたのだ。

 今日は重大な報告があって一旦帰城したところであった。

「はい。信勝様は謀反を企てているようです。近々挙兵するつもりの様子。どういたしましょう?」
「うむ……」
 想定内の言葉だったが謀反人が実の弟だけあって、複雑そうな顔をした。

 しばらく腕を組んでいたが徐に立ち上がると言い放った。

「俺が病を患ったと偽りの書状を送れ。罠だと思っても奴は必ず来る。城に誘い出して……殺れ。」
「……はっ!」



―――

「信長様。信勝様がいらっしゃいました。」
「移ると悪いから隣の部屋にいろと伝えろ。それと、ここには誰も近づけるな。兄弟水入らずで、話したい事がある。」
「畏まりました。」
 光秀が下がると、信長は布団の上で上半身を起こした。

 やがて数人の足音がして隣の部屋の障子を開け閉めさせる音がした後、また足音が聞こえて遠ざかって行った。


『兄上。聞こえるか?』
「信勝か。」
 突然頭の中に信勝の声が聞こえてきた。信長は予想通りだと一人自嘲する。

 信勝は罠だと知っててここに来る。そしてこうやって『共鳴』の力を使って話しかけてくるだろうと思っていた。

 信長は一度大きく息を吸い込むと、自分も『共鳴』モードにした。

 こうして二人は初めて、お互いに意思を持って会話をした。


『子どもの頃の事はすまなかったと思っている。あの当時俺は兄上の事が憎くてどうしようもなくて、折角探しに来てくれたのに……』
 そう切り出した信勝は語尾を濁す。『子どもの頃』というのは、初めて信長、市、信勝のきょうだいが『共鳴』の力を授かった時の事を指すのだろう。

 あの時迷子になった信勝を頭の中に響いてくる声を頼りに必死で探したのに、見つけた途端『何だ、兄上か。』という一言を残してまるで目の前で重厚な門を閉じたかのように拒絶された。

 その事を思い出していると、信勝は更に続けた。

『たった3つしか違わないのに嫡男というだけで、兄上は父上の跡を継ぐと決まっていた。そんなの不公平だとずっと思っていた。でもあの時は姉上が来ると思っていたから、兄上が来たのを見てつい言ってしまった。ずっと後悔してた。織田家の家督を争いながらも、その事だけは心の何処かに残っていたよ。』
「信勝……」
『あーあ。やっと言えた。これで思い残す事は何もない。……兄上。俺の代わりに絶対天下を取ってくれよ。この世でその資格があるのは織田信長、ただ一人だから。』
「信勝!お前……」

 言葉だけを聞けば白旗を上げて諦めた敗者のようだったが、口調は明るくてまるで他愛もない世間話をしているみたいだった。

 信長は慌てて布団を蹴って廊下に出たが、信勝は一足早く廊下の向こうに消えていた。

 しばらくしてバタバタと大勢の人間が争う音と鋭い刀の音がして、またすぐに静寂が訪れた。

 茫然と突っ立っていた信長の耳に聞こえたのは『ありがとう』という信勝の最期の声だった。


「お前の遺言はしかと受け取った。必ずや天下統一を成し遂げる!」

 信長の瞳にめらめらと燃える炎が現れて、そして消えたのだった……



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?

俣彦
ファンタジー
旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になった私。 武田家の当主として歴史を覆すべく、父信玄時代の同僚と共に生き残りを図る物語。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

戦艦タナガーin太平洋

みにみ
歴史・時代
コンベース港でメビウス1率いる ISAF部隊に撃破され沈んだタナガー だがクルーたちが目を覚ますと そこは1942年の柱島泊地!?!?

異世界日本軍と手を組んでアメリカ相手に奇跡の勝利❕

naosi
歴史・時代
大日本帝国海軍のほぼすべての戦力を出撃させ、挑んだレイテ沖海戦、それは日本最後の空母機動部隊を囮にアメリカ軍の輸送部隊を攻撃するというものだった。この海戦で主力艦艇のほぼすべてを失った。これにより、日本軍首脳部は本土決戦へと移っていく。日本艦隊を敗北させたアメリカ軍は本土攻撃の中継地点の為に硫黄島を攻略を開始した。しかし、アメリカ海兵隊が上陸を始めた時、支援と輸送船を護衛していたアメリカ第五艦隊が攻撃を受けった。それをしたのは、アメリカ軍が沈めたはずの艦艇ばかりの日本の連合艦隊だった。   この作品は個人的に日本がアメリカ軍に負けなかったらどうなっていたか、はたまた、別の世界から来た日本が敗北寸前の日本を救うと言う架空の戦記です。

処理中です...