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いざ、戦場の中へ

『念写』の出番

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―――

「えっと……『弘治二年、1556年4月。斎藤道三が子の斎藤義龍との戦いで敗死(長良川の戦い)』って書いてある。で、『同年8月に信長と家督争いを繰り広げていた弟の信勝は稲生で激突するが、結果は信長の勝利に終わった(稲生の戦い)。信長は、末盛城などに籠もった信勝派を包囲したが、生母・土田御前の仲介により、信勝・勝家らを赦免した』これはこっちの世界ではちょっと違うな。勝家さんは元々信長の家臣だったんだから。」

 蘭は歴史のテキストを見ながらぶつぶつと呟いた。

 実はテストとして、蝶子の欲しい道具を取り寄せる前に蘭の部屋の机に置きっぱなしになっていた歴史のテキストを、義元に取り寄せてもらったのだ。
 これが手に入った事で義元の力は本物だと確信した蘭だった。

「って事は年が明けてるから今は1557年って事か。あ、続きがある。……『しかし永禄元年、1558年に信勝は再び謀反を企てる。この時、柴田勝家の密告があり、事態を悟った信長は病と称して信勝を清洲城に誘い出し殺害した』……え?」
 余りの事に絶句する。慌てて二度見するが書いてある内容は変わらなかった。

(信じられない……信長が信勝さんを殺す…?そりゃ仲の良い兄弟じゃないけど、まさかそんな……)

 否定しながらも頭の何処かでは仕方のない事なのかも知れないと思い始めていた。

 この世の中は弱肉強食、親兄弟関係なく争う時代。特に信長は天下統一を目指している身だ。情けは禁物なのだろう。

 ここはパラレルワールドとはいえ、戦国時代だ。大筋でこのテキスト通りに事が進んでいくのだろう。
 蘭は一度目を瞑ると、次のページを捲った。



―――

「どうですか?見えてます?」
 イチの声が市の部屋に響く。蝶子も市もねねでさえ沈黙しているので、イチが不安そうに言った。

「あの……お嬢様?」
「見える!見えるよ、イチ!凄い!流石私!」
「えぇ、良く見えます。帰蝶様の父上様もはっきりと。初めまして、市と申します。帰蝶様には大変良くして頂いております。これでまた一歩近づきましたね。お帰りになられる日まで。」
「わぁ~すごーい!これが未来のお屋敷ですか?何か雑然として薄暗くて怖い感じですけど、帰蝶様のお父様も少し怖いですね。でも嫌いじゃないです。イチさんは驚くくらい綺麗ですね。本当に市様と似ています。あ、タイムマシンというのはそこにある物体ですか?」

 ねねが無邪気にそう言って、蝶子の父親の康三の後ろを指差す。康三は流石に怒る気にもならないようで苦笑して頷いた。

 蝶子は道具を手に入れてからたった数日でモニターを完成させた。そして今日、初めてその成果を試す事になった。ちょうどイチから連絡があったからだ。

 緊張しながら市にモニターを持ってもらってねねとそのモニターを覗き込んだ瞬間、画面にイチと康三が映ったという訳だった。

 どうやらイチは腕にモニターを装着しているらしかった。お陰で顔がはっきり見え、外見が変わってない事を確認した蝶子はホッとした。
 そして視線をねねが指差した方にやる。

 そこには五分割くらいに分けられた、タイムマシンの姿があった。

「そうとわかれば早速やりますよ。」
「じゃあよろしくね。ねねちゃん。」
「はい!」
「こっちの二つはまだ未完成だから間違うんじゃないぞ!」
「はーい。」

 慌てた様子の康三に軽く返事をすると、ねねは集中し出した。

 そして数十分後、未完成だという二つ以外をねねの『念写』の力で無事に紙に写す事が出来たのだった。



―――

 蘭が今川の邸に潜入を開始した日から半年が経った。

 義元は未だに蘭が織田の密偵の可能性を疑っているようだったが、『物体取り寄せ』の力は気前よく使わせてくれた。得体の知れない鉄の塊が庭に現れても動じる事なく、むしろ蘭が何を企んでいるのか面白がっているようだった。

 不安になって元康に、「全部知られてしまったらどうしよう。殺されるかも知れないですよね?」と言うと、「もしそうなったら戦を始める」と無表情で言われて背筋が凍ったものだ。
 だけどとにかく、これまでは事が上手く運んでいるようなので蘭は安心した。



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