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異能の力を持つ者達
ご対面
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「裏山に行ったところ、そこには身元不明の二人組がいただけだそうです。見た限り他からの密偵っていう印象は受けなかったそうですけれど、とにかく信長様に面通ししないといけないという事でここに連れて来ました。」
「ご苦労だった、光秀。」
「いえ。実際に連れて来たのは木下様ですから。」
そう言って光秀――明智光秀は苦笑いした。
一方畳にだらしなく寝そべっていた信長は、難儀そうに起きあがると胡座をかいた。
「では、私はこれで。」
「お前もいろ。」
「え…ですが……」
「構わん。」
信長にそう断言され戸惑っていると、廊下側の障子に人影が現れた。
「サルでございます。」
「入れ。」
音もなく引き戸が開かれ、そこに明らかに無理矢理座らせられた二人組が頭を下げていた。途端、信長の眉が潜められた。
「何だ、その奇妙な格好は。忍びの者にしては派手だが……」
そう言いながら信長は女の方、すなわち蝶子を上から下まで眺め回した。
蝶子は正座したまま自分のスカートを押さえて赤面する。
「まぁ、よい。入ってこい。顔を見せろ。」
「承知しました。」
サルが返事をすると、蘭達を連れて来た黒づくめの内の二人がそれぞれ蘭と蝶子の腕を取って立たせた。そのまま部屋に連れて行き、まるで投げるように信長の前に置いた。
「さて。……お前らは一体何者だ?」
冷たい響きを持った声がその場の空気を張りつめさせた。
あの織田信長に面と向かって『お前らは一体何者だ?』と凄みのある声で言われた蘭は心底震えた。
元いた世界に戻れないならせめてここに置いてもらえないかを死ぬ気で談判しようと決めた心が呆気なく崩れ、もうこのままその冷たい瞳に殺されたいとさえ思った。
あのタイムマシンが壊れた今、自分達にはそれしか道はない。絶望的な気分で俯いた時、ため息と共に優しい声が聞こえた。
「名は何という。」
「え……?」
「名前だ。まさか名無しの権兵衛っていうんじゃないだろう。」
おどけた口調の信長に茫然としていると、少し離れた所にいた人物が小声で囁いた。
「名乗って下さい。」
それに小さく頷いて蘭と蝶子は震える声で言った。
「藤森……蘭です。」
「濃田蝶子です……」
「字はどう書く?」
信長の言葉に何処から出てきたのか和紙と筆が二人の前に置かれる。戸惑いながらもそれに書いて良く見えるように掲げた。
「蘭に蝶子か。ところでお前らは敵方からの密偵などではないのだな?まぁ見た目は全然そういう風には思えんが。」
「密偵……?いいえ、僕達はただ気づいたらあの山にいただけで……」
「ふむ。」
信長はそう短く唸ると徐に立ち上がって近づいてきた。
「え?……え?」
「じっとしてろ。すぐ終わる。」
近づいてこられてその余りのオーラに腰が引ける。そんな蘭の様子にも構わず、信長はしゃがみ込むと蘭の顔をじっと見た。そして右手を蘭の額に翳し、目を閉じる。
しばしの沈黙――
「?」
「……なるほど。そういう事情か。よし、わかった。光秀、この二人に部屋を与えてやれ。それと着替えも用意しろ。」
「はっ!承知致しました。」
急いで出ていく光秀を何が何だかわからない頭で見送っていると、肩を叩かれた。
「ひっ……!」
「そんなに恐がらなくてもいい。取って食ったりしない。」
(いや、さっきのあの冷たい瞳を見た後じゃ説得力ないから!!)
心でそう叫んでいると、信長は元の位置に戻って無造作に着物の袖から扇子を取り出した。それを勢い良く開いて閉じる。パチンッという小気味良い音が鳴った。
「お前達は今日からここで暮らす事にする。お前は蘭だから蘭丸。その方は濃田の濃を取って濃姫とでも呼ぼう。濃姫は……」
そこで言葉を切ると信長はそこにいながら、蝶子の方に手を伸ばしてさっきと同じ様に目を瞑った。
「……やはりな。」
しばらくして目を開けた信長はニヤリと口角を上げると、蘭の方を見ながら言った。
「俺もそろそろ妻を娶とらないとと思っていたのだ。しかし中々いい女がいなくてな。あちこちから縁談はあったが、どれもこれも結局は自分の家柄を上げる為に俺に嫁がせたいっていう魂胆が見え見えで……それならいっその事、生涯独り身を貫こうかと思っていたんだが。」
そこで一旦言葉を切ると、視線を蝶子に戻してにこりと笑った。
「濃姫。お前は俺の妻になれ。」
先程の冷たい瞳よりも背筋が凍る笑顔だった……
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