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序章

22世紀

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―――

 時は22世紀初頭。場所は藤森研究所。



「こらーー!蘭!またわしの新作いじくり回して!壊れたじゃないか、どうしてくれるんだ!」
「いじったんじゃねぇよ。ただ色々触ったら機械が勝手に……」
「それをいじったって言うんじゃ……はぁ…はぁ……まったくあのバカ息子が。逃げ足だけは早いんだが……」

 ここの研究所の所長、藤森吉光はため息混じりにそう言った。久しぶりに全力で走ったからか息が切れて立っているのもやっとの事。

 息子に悪態をつきながら側にあった椅子に腰かけた。


 バキッ


「……ん?」
 乾いた音が辺りに響く。何だか嫌な予感がして吉光は顔を下に向けた。

「ぎっ……」
 椅子だと思った物はこの研究所で一番大事な実験道具の一部だった。ちょうど椅子のようになっていて勘違いをして座ってしまったのだ。自分の重みでひびがくっきり入っていた。


「ぎゃあぁぁぁぁ~~!!」

 吉光の叫びが所内を谺した……




―――

 2120年現在。人類は目覚ましい進化を遂げていた。

 地球温暖化や核、外交問題を始め、様々な地球規模の課題を何とか乗り越えて、100年以上前にはまだ夢物語だったほとんどの事が現実のものとなっていた。

 例えば宙に浮くテレビやパソコン。スマホを翳すと目の前に表れ、消したい時はスマホをしまえばパッと消えるという仕組みになっている。


 リアルとバーチャルの境目はとっくの昔に越えて、普通に肉眼で見ている世界にCGで作られている物が存在する。それらは触る事も出来る。まぁ、食べたり飲んだりまでは出来ないが。

 生活するにあたって本物でなくてもよい物、例を挙げれば壁掛け時計やカレンダー、インテリア等のいわゆる置きっぱなしの物はCGで間に合わせる事が出来るようになった。

 座り心地や使い心地さえ拘らなければ、机や椅子、カーペット等もCGで十分という考えの強者もここ数年で増えてきた。さすがにベッドや布団は本物の方が大多数だけれど……


 科学の研究も進み、ロボットや人工知能の中には人間を越えるような逸材も出てきた。

 100年前の技術に比べたら格段の差で、動きもスムーズで反応が早い。人間に近いというレベルではなく、もはや人間にしか見えない。

 人間以上に人間、という明言まである程だ。

 家政婦ロボット、ホテルやオフィスの受付嬢、掃除ロボット、お料理ロボット……種類も数も増えていくばかりである。


 そして月への旅行は一般の人間でも金さえあればできる時代になった。

 つまり先程も触れたが、100年前には夢物語だったほとんどの事は実現していたのだ。

 しかし、タイムマシンだけはずっと科学者の夢のまま、この先も永遠に実現しないと噂されていた。


 一方日本としては懸念された少子化による人口減少は奇跡的に食い止められた。
 要因は外国人の移住が増えた事で、国際結婚する日本人が増加。出生率も上がったという訳である。

 しかしこうして日本を救った外国であったが、また別の問題が出始めていた。

 ハーフやクォーターの人達が自分の親や祖父母の生まれ故郷を目指して、今度は日本から外国へと流れていってしまったのだ。
 その為、人口減少問題は再燃しかけている。

 
 超近代化と言われるこの世界で、過去の出来事の研究や勉強はもはや不要になっていた。その為中学・高校の日本史の授業は廃止になり、歴史の研究をしたければ大学に入るしか道はなくなった。

 そういう訳で今や国民の半数以上は日本の歴史に無関心で、無知識である。有名な織田信長や徳川家康や坂本龍馬くらいは名前くらいは知っている。でも詳しくは知らない、という具合だ。


 しかしそんな中でも日本の歴史が大好きでやまないっていう若者がここにいる。

 お調子者で鈍感で何処か抜けてて、でも正義感がみなぎっていて。だけど結局のところ……




「蘭!お前のせいで大事な部品が使いものにならなくなったではないか~!!」

「そんな事まで俺のせいにすんじゃねぇよ!てめぇが悪いんだろ!!」


 ……ただのアホのようである。親子揃って。



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