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最終章 卒業に向けて
第二十三話 生徒からの卒業
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――三月
早いものでもう三月。今日は待ちに待った卒業式だ。
ここまで本当に色々あったなぁ~……
二年の時にHR委員長に選ばれてからノンストップで駆け抜けてきた気がする。
私は式が終わった後、校門の前で校舎を眺めながら感傷に浸っていた。
「どうしよ千尋~…私まだ就職決まってない……」
悲壮感たっぷりの声を滲ませて桜が近づいてくる。私は『まぁ、まぁ』と肩を叩いた。
「大丈夫だよ、ほら。」
「え?」
「桜、卒業おめでとう。」
後ろから藤堂先生が歩いてくる。慌てて振り向いた桜を先生はおもむろに抱きしめた。
「わあぁぁぁ……」
思わず声が出たのは桜ではなく、私だった。公衆の面前で先生が生徒に何て事を……
あ、でももう先生と生徒じゃないんだった。今日で私達は生徒を卒業したんだもんね。
「……先生!みんながいる前で恥ずかしいじゃん!」
「悪い、悪い。でもほら、誰も見てないって。」
固まっていた桜が真っ赤になりながら怒鳴っても気にしてない藤堂先生は、辺りを見るよう促している。桜と一緒に私もきょろきょろと見回すと、確かにみんな写真を撮ったり卒業アルバムに寄せ書きするなど忙しいようで、誰もこっちを見ていない。
「じゃ、そういう事で!」
「何がそういうこっ……」
チュッ♪
……何か見てはいけないものを見た気がするんですが。
「なっ…なっ……!」
「約束ちゃんと守っただろ?『卒業してから』っていう約束。」
藤堂先生は子どもみたいにニカッと笑った。
「就職先見つからねぇなら、俺のところに永久就職すりゃいいじゃん。」――
「いいなぁ、桜……」
藤堂先生なりのプロポーズを受けた桜は即頷いて、その広い胸に飛び込んだ。
一部始終をがっつり見てしまった私はため息をつく。
その時高崎先生が隣にきた。
「どうしたんですか?ため息なんてついて。」
「桜が羨ましくて。」
私はイヤミっぽく答える。それでも先生には通じない。さっきからずっとニコニコしている。
「先生は言ってくれないのかな?」
「何をですか?」
くっ……わかってるくせに!
「いいもーん!言ってくれないなら他の人を好きになっちゃうんだから。」
「ダメですよ。千尋は僕だけのものですから。」
「え……?」
私は振り返った。すると先生はさっきまでの笑顔ではなく、真剣な顔をしている。
「一年以上も待ったんです。言わせて下さい。」
「先生……」
「もう先生じゃありません。貴女も生徒じゃありません。だから……」
「だから……?」
目の前が段々ぼやけてくる。たぶん私の顔は涙でぐちゃぐちゃだろう。それにも構わず、先生の次の言葉を聞き洩らすまいと顔を上げ続けた。
今度こそ、今度こそ先生を受け止める為に……
「風見千尋さん。僕は貴女が好きです。付き合ってくれませんか?」
「私も…好きです。よろしくお願いします!」――
.
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登場人物の感情や会話を自然に表現されてるな、と思いました。例えば、第一話のやりとりは、仲の良さや気の合わせ方が伝わってきました!
ドラマチックな要素がありますが、それを重くなりすぎずに、ユーモアやコメディを交えて描かれていて、大作戦は笑ってしまいました。
ありがとうございました!