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第四章 新たなスタート
第十五話 電話越しの想い
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「はぁ~……」
停学をくらったその日、私は授業も受けずにそのまま帰ってきた。部屋に直行してベッドにダイブする。
「あーあ、一週間か……長いなぁ。」
仰向けになってボソッと呟く。途端、桜の顔が浮かんでまたため息が出た。
「桜……心配してるだろうな……」
結局何も説明しないまま帰ってきちゃった事に今更ながら後悔する。でもあの時は他の子もいたし謹慎明けてからちゃんと話すつもりだったから、取り敢えず今はこの一週間をどんな風に過ごすかを考えなきゃ。
「う~ん……でもなぁ…私に読書の趣味はないしゲームとかもあまり好きじゃないから持ってないしスマホのアプリゲーム?なんてのもないし。遊びに行くのだって多分ダメだろうし、そもそも一人で行ったってつまんないし。」
そこまで考えたところで頭を抱えた。
「っていうか、私の趣味って1に桜とお喋り、2に桜を愛でる。3、4がなくて5に桜と遊ぶ♪だったぁ~!」
「桜ちゃんがどうしたの?」
「わぁぁ!お、お母さん!」
でかい声で一人言を言っていたらドアを明けてお母さん登場。私は飛び上がった。
「下まで聞こえてきたわよ。」
「す、すみません……」
「ほら、高崎先生からお電話。」
「え"!?」
『ほら』と言って保留にしてる子機を差し出してくる。突然の事に固まっていると無理矢理握らされた。
「何があったか知らないけど、どうせあんたが迷惑かけたんでしょ?ちゃんと先生に謝りなさいよ。まったく…一週間も停学なんて一体何したの?」
校長をハゲと言ったからです。とは流石に言えない……
「じゃあね。先生によろしく言っといてね。」
「はーい……」
お母さんが出て行ったのを確認すると、震える指で保留ボタンを押して耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、高崎です。』
「何の用ですか?」
ちょっと冷たかったかな、と思いながら先生の次の言葉を待つ。
『すみませんでした。僕のせいで一週間も停学になってしまって……』
「いえ。私が勝手にした事なので。そりゃこの処分に納得はしてないけど、後悔はしてませんので。」
きっぱり言うと、電話の向こうで息を飲む気配がした。
『あの風見さん……』
「はい?」
『僕の為にありがとうございました。あの言葉、凄く嬉しかったです。改めて僕は教師という仕事が……生徒が大好きなんだって思いました。僕は昔からこうと決めたら一直線みたいなところがあって、風見さんが止めてくれなかったら本当に大事なものを失うところでした。』
「…………」
『でも僕の想いはそんな大それた事をしてしまうくらい、大きくて大切で……それだけは知っておいて欲しいんです。』
先生の真剣な声に言葉が出ない。私は何も言えずにただ黙る事しか出来なかった。
『では一週間後に。』
「あ、はい……」
慌てて返事をするとすぐに切れてしまう。私はしばらく茫然とベッドに座っていた。
「もう……どうすりゃいいのよ……」
子機を見つめながら小さく呟いた……
―――
――一週間後
私は一週間ぶりに学校に来た。
「千尋!良かった。元気そうだね。」
昇降口に着くと桜とばったり会った。いつもと変わりない笑顔に癒される。あぁ~天使だ……ってそうじゃなくて!
思わず緩みそうになる口を抑えて神妙な面持ちで桜に向き合う。
「桜……うん。私は大丈夫だよ。自業自得だったしね。それよりごめんね。何も言わなくて……」
「いいの、いいの。さ!教室行こう!」
「うん!」
朝から桜の笑顔を見れて俄然元気が出てくる。勢いよく返事をすると靴を履いて廊下に出た。
「ん?」
二人並んで廊下を歩いているとあちこちから視線を感じる。私はその理由に思いついて密かにため息をついた。
そういえば思いっ切り堂々と掲示板に名前貼られたもんな~……興味本位で見られちゃうのはしょうがないか。
私だって逆の立場だったら興味津々で見ちゃうと思うもん。まぁ後二、三日我慢すれば自然と忘れられると思うし、それまでなるべく大人しくしておこう。
「おはよう!」
「おはよ。」
「あ!来た、来た。千尋待ってたわよ。ちょっとここ座って。」
クラスメイトの一人が私を手招きする。『ここ』と言って机を叩いているけど、そこ私の席だから。
座ると声をかけてきた子を含め、何人かの子が私を取り囲んだ。
「何?どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよ。一体どんな事したの?パワハラされてる高崎先生を守る為に校長室に殴り込みに行ったってもっぱらの噂だよ?」
ってどんな状況やねん!思わず関西弁で突っ込みを入れる。もちろん心の中で。
「ちょっと!そんなストレートに聞く事ないじゃん。」
「えぇ?桜だって聞きたいでしょ?」
「まぁそうだけど……」
桜が言葉を濁す。そしてこっちをちらちら見てくるから、私は一つ息をつくと観念したように言った。
「別に……あの校長をハゲって言っただけ。」
「え…………」
一同の時間が止まる。そして数秒後――
「ぷっ……あははははは!」
大声を上げて笑いだしたのは桜だった。
「千尋、良く言った!あの校長本当に凄いもんね。気づかれてないって思ってるのがまたウケるし(笑)」
「だよね~(笑)」
「あっはっはっは!」
桜は笑い過ぎて死ぬんじゃないかってくらい笑ってる。
「そんなに笑わなくてもいいじゃん。」
苦笑しながら言うと、桜が涙を拭いながらこっちを見た。
「いやだって、ハゲって……ぷくくっ!」
「もう……」
「はーい!いつまでお喋りしているんですか?チャイム鳴りましたよ。」
「あ、先生……」
「座って下さい。出席取りますよ~」
いつも通りの爽やかな笑顔で教室に入ってくる高崎先生。目が合うとにっこりと笑われた。ドキドキと心臓が高鳴る。
みんながそれぞれ席についたのを確認すると、先生は教卓の前で出席簿を開いた。
「安部くん。井手さん……」
耳に懐かしい声を聞きながらボーッとしているといつの間にか自分の番にきていた。
「風見さん?」
「…………」
「風見千尋さん?」
「あ、は、はい!います!」
「久しぶりですね。元気で何よりです。えーっと、工藤くん。近藤さん……」
私は力が抜けて椅子に凭れかかった。向けられた視線が今までと何処か違うように感じて、嬉しいはずなのに何となく重苦しい気持ちになる。
先生の事が好きなのに、先生からの想いに押し潰されそう。それはきっと私が臆病だから。受け止められるくらいの度胸と度量がないから。
もっと私が大人だったらこんな事で悩む必要なかったのかな。先生と生徒じゃなかったら、堂々と好きって言えたのかな。
……でも私はまだ高校生で子どもで、今の私だから先生と出会えた。それは変わらない。
私は長い長いため息をつきながら机に突っ伏した……
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