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第二章 告白は唐突にやってくる
第八話 夏休みの予定
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私、雄太君、由美ちゃんの三人は、何となくの流れで一緒に校門を出た。
偶然な事に三人共途中までは方向が一緒らしく、自然に私達の足並みは揃う。
「……いつまで笑ってんの?」
「くくくっ……だってさ、『先生さようなら。皆さんさようなら。』って幼稚園児かよ。アハハ!」
「言わないでよ…後悔してるんだから……」
「でも、元気があっていいと私は思うけど。」
「ありがと、由美ちゃん……」
図書室を出てからずーっとニヤけていた雄太君は、もう我慢できないという感じで大爆笑する。雄太君に睨みを利かせながら、由美ちゃんの微妙なフォローに私は脱力した。
でも確かにアレはないなぁ~と落ちこみながらさっきの事を思い出す。
「先生、呆れてたなぁ~…」
「いやあれはキョトンとしてたって。あの時の先生の顔思い出したらますます笑える。ははっ…!」
「もう!いい加減にしなよ!」
半ば呆れながら注意すると雄太君は『わりぃ、わりぃ』と言って笑いを収めた。
勢いで言ってしまった幼稚園児みたいな帰りの挨拶。あの時の先生の顔が頭から離れない。
雄太君の言う通りキョトンというか、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。そしてしばらく固まった後、いつもの優しい顔に戻ってこう言ったのだ。
『風見さんは元気いっぱいですね。また明日もその笑顔を見せて下さい。気をつけて帰って下さいね。さようなら。』
その言葉を聞いた瞬間、自分の頭からボンッと火が出たような気がした。それからはよく覚えていない。気づいたら由美ちゃんにつられ、昇降口にいた。
「はぁ~……」
今思い出しても顔が熱くなる。私は頬に手を当ててため息をついた。
「そういえば千尋ちゃんの家ってどこ?」
「へ?」
唐突に由美ちゃんから話しかけられて変な声になってしまった。慌てて由美ちゃんの方を見る。
「え、えっと、もうすぐだよ。ほらそこのコンビニの裏。」
50~60メートルくらい行った所にコンビニがある。その裏に住宅街があって私の家はそこだ。すると由美ちゃんは嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ近いね。私の家はコンビニから右に曲がってすぐの所にあるの。」
「へぇ~知らなかった。意外と近いんだね。」
「そうだ!たまにでいいから一緒に帰らない?」
「え?」
「いつもは亜紀ちゃんと一緒に帰るんだけど、亜紀ちゃん、週に二回塾に通ってるから一緒に帰れない時があるんだ。今日千尋ちゃんと話してみてもっと話したいって思ったの。ダメ?」
『ダメ?』と可愛らしく小首を傾げてみせる。小柄で清楚で桜とはまた違った可愛さがある由美ちゃんに頼まれて頬がニヤけた。可愛い子には目がない私としてはこの頼みを断る選択肢はない。(別に変なアレじゃないけど)
「いいよ。私も由美ちゃんともっと仲良くなりたい。桜とは逆方向だからいつも一人で帰ってたんだ。」
「そうなんだ~。じゃあ決まりね。」
ああ~由美ちゃんの笑顔癒される……
「おーい、お前ら。俺の存在忘れてない?」
せっかく癒されてたのに雄太君の声で台無しにされる。私はあからさまに眉を潜ませてみせた。
「あら、いたの?」
「いたの?じゃねぇよ。」
「ごめんなさいね~」
「二人って仲良いんだね。そういえば一年の時もいつも一緒にいたね。」
「え?」
「は?」
由美ちゃんの発言に私と雄太君、二人の声が重なった。
「な、何言ってんだよ!別に仲良くなんてないし!」
「そうよ!私がいつも一緒にいたのは桜だから。」
「いや、否定する所そこ?」
「アハハ!!」
由美ちゃんの笑い声がする。私達は顔を見合わせて口をつぐんだ。
「漫才コンビみたいだね。」
「「違うから!」」
「あははは!!」
夕焼けの沈む街に由美ちゃんの大爆笑する声が響いた……
―――
それから何日か経って七月に入った。梅雨が明けると蒸し暑い日が続き、流石の私でも若干バテてます……
「あ~つ~い~!」
「そりゃ夏だからね。」
「桜~…あんたは涼しい顔して暑くないの~?」
「暑いよ~」
「汗一つかいてないじゃん。」
「確かに汗はかきにくいけどね。」
やっぱり可愛い子は汗はかかないんだな~
なんて思ってたら教室の外から名前を呼ばれた。
「風見さん。」
「え?あ…」
そこにいたのは高崎先生だった。先生は私と目が合うと手招きした。
「あ…っと、ごめん桜。ちょっと行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
笑いを堪えながら桜が手を振る。それに苦笑いを返し、先生の方に向かった。
「何ですか?」
「ちょっといいですか?」
先生は私を廊下に出すと切り出した。
「もうすぐ夏休みですね。一学期の間はHR委員長として色々と助けて頂き、ありがとうございました。」
「い、いえ…そんな……」
「二学期も引き続きお願いしたいのですがどうですか?」
「え?あ…もちろん私はそのつもりでいましたよ?というか、一年間通しての委員長ですよね?」
「そうなんですが、一応聞いておこうと思いまして。」
「言ったじゃないですか。最後までやり通すって。女に二言はありません!」
「それを聞いて安心しました。」
心底ホッとしたような顔で言う。
「ところで風見さんは夏休みは予定あるんですか?」
「え?別にこれといっては。桜と海行ったりお互いの家で遊ぶ以外は予定という予定はないです。」
「そうですか。」
顎に手を当てて考え込む先生。私は何故急にそんな事を言ってきたのか戸惑った。
「夏休みの間十日ほど、補習があるのは知ってますよね?」
「はい。確か期末テストの結果、赤点の生徒が受けなきゃいけないっていう……」
「そうです。まだ日程は決まってないんですが、八月の前半を予定してます。」
「で……その補習がどうしたんですか?」
何だか嫌な予感を抱きながらも聞くと、先生は申し訳なさげに口を開いた。
「実は、その補習のお手伝いをして頂きたいのですが……」
「……やっぱりそうきますよね~」
予感が的中してちょっと落ち込む。でもこれって自分の気持ちを確かめるチャンスなんじゃ……
「あ!やっぱりせっかくの夏休みに学校に来て仕事なんて嫌ですよね……」
「え!あ、いや…別に嫌という訳じゃないです。」
「本当ですか?」
「はい。」
「良かった!今回は全クラスの委員長に頼んで来て貰うように校長先生に言われてたので。担任も全員強制参加だから若い先生方は休みが十日も潰れるって泣いてました。」
そう言って苦笑いする。私もつられて笑った。
「先生だってまだ若いじゃないですか。私達とはそんなに離れてないでしょ。」
「26ですから……9歳差ですね。」
「ほら、まだ若いですよ。」
私が言うと、『そうですね』と返ってきた。
「HR委員長は各クラスに一人だけなんで、できればもう一人くらい助っ人が欲しいんですが。風見さんの方から誰かに声をかけてみて下さい。あ、強制ではないので無理しなくても良いですよ。」
「助っ人…ですか。ん?」
『助っ人』と聞いて真っ先に思い浮かぶのは桜だ。でも桜引き受けてくれるかな~
と思った瞬間、閃いた!
「先生!」
「な、何です?」
「さっき担任は強制参加って言ってましたよね?」
「はい、言いましたが……」
「藤堂先生も来るって事ですよね!?」
「そうですよ。一番張り切ってますが……」
「やった!これで釣れる……」
「釣れる?」
「先生!ありがとうございます!」
無理矢理握手をすると、私はそのまま教室へとダッシュした。
この話を聞いた桜が即座に首を縦に振ったのは言うまでもない……
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