この恋に気づいて

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気づかれた恋 前編

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―――

 翌日、スタジオの控え室にメンバー五人が揃っていた。



「でさー、あの時僕が……」
「え~!マジで?」
「うん、それで……」
「ははっ!お前ホントおもしれーな。」

 今日はレコーディングの日。俺はさっきからソファーに座って楽譜に目を通していたが、頭の中には何も入ってこなかった。

 意識が向かう先では仲本とベースの笹野浩輔が何やら楽しげに喋っている。全然集中できない俺はとうとう諦めて楽譜をテーブルに置いた。

 知らず知らずのうちに耳を澄ませていた自分にやっと気づいて一人苦笑する。


「あ、そうだ!仲本君、レコーディング終わったらご飯行かない?」
「はぁ?お前飲めないくせにテンションおかしくなるじゃん。俺めんどくせーの嫌なんだけど……」
「えー!?僕面倒くさくないよ。皆と一緒にいると嬉しくてついハメを外しちゃうだけだって。」
「だからそういうのがめんどくせぇんだって!」

 仲本が溜め息混じりにそう叫ぶ。俺も内心仲本に同意していた。確かに浩輔は色々面倒くさい。異様に絡んでくるしとにかく声がでかくなる。普段はのんびり屋で大人しい方なのに……

 それにしても浩輔のポジションって案外良いよなぁ~とぼんやり思う。ああやって無邪気に近寄っていけるし、仲本だって口では悪態ついてるけど満更でもなさそうだ。

 浩輔は俺らの一個下で学校は違ったけど、少年野球で同じチームだった縁で仲良くなった。裕に負けず劣らず変人で、人の懐に入っていくのが上手い。そのくせ、時々饒舌になって場を凍らせることもあるのだ。

 あーあ、今日は仲本は浩輔と飯か……今日辺り誘ってみようかなと思っていた俺は落ち込んだ。


「おはよー。」

 その時、入り口から眠そうな声が聞こえて振り返った。

「おっ!晋太、おはよー。今日も眠そうだね。」
「浩ちゃんも相変わらず朝から元気だね。」

 晋太は半目で浩輔を一瞥すると、迷わず仲本の方へと歩いていって浩輔とは逆の隣の椅子に腰かけた。まるで仲本しか目に入っていないようなその行動に俺はドキッとした。

「おはよ、仲本君。」
「おぅ。」

 晋太の挨拶に短く返事をする仲本。普通の朝のやり取りだ。だけど俺は見逃さなかった。その時晋太の顔が凄く嬉しそうに綻んだのを……

 ……っていうか、俺もいるんですけど!そんな気持ちを込めて晋太を睨むと気だるげにこっちを向いた。

「あ、辻村君。おはよ。」
「……おはよ。」

 まるで今気づいたとでもいうような反応にちょっとイラッとする。しかしそんな顔は微塵も見せずに俺も普通に挨拶を返した。

「あ、そうだ。辻村君も晋太も行かない?今仲本君とご飯行こうかって話してたんだ。」
「誰も行くって言ってねぇし。」
「でも行くでしょ?」

「ま、まぁ……どーしてもって言うなら行ってやっても良いけど。」
「素直じゃないなぁ、仲本君。」
「うるせぇ。」
「ちょっとぉ~!何二人だけで喋ってんの?僕も行く!行きたい!」

 晋太が立ち上がり手を挙げる。俺も思わずソファーから立ち上がっていた。

「俺も!……行く。」
「やったぁ~!じゃあ後は裕君だね。五人でご飯なんて久しぶりだね。」

 浩輔が無邪気に笑う。俺は仲本と顔を見合わせて苦笑した。

「裕は誘っても来ねぇんじゃね?」
「はは、確かに。」

 仲本と言葉を交わした事に嬉しくなったが、ふっと微笑まれて目を逸らした。は、恥ずかしい……絶対顔真っ赤になってる。

「誰が行かないなんて言ったの?もちろん僕も行くよ。」

 いつの間にいたのか、裕が部屋に入ってきながらそう言う。一直線にいつもの場所に向かうと鞄を椅子に置いて振り返った。

「という事で、今日は皆でご飯だね。店はどうする?僕の行きつけの所なんかどうかな。」
「って、何でお前が仕切ってんだよ。つぅかいつからいたんだ。」
「え?だって君達結構大きい声で喋ってたよ。廊下の途中から聞こえてたもん。」
「あ、そう……」

「裕君の行きつけのお店いいねぇ。そこ行こうよ。」
「いいじゃん!今日は裕ちゃんの仕切りね。楽しみ!」

 浩輔と晋太が女子高生みたいにキャッキャッしながら盛り上がっている。仲本はと見ると、脱力したようにソファーに座っていた。でもよく見ると口許が緩んでいる。仲本だって久しぶりの五人の食事会を楽しみにしているのだ。そういう俺も実を言うとめっちゃ楽しみなのである。

「よしっ!じゃあ今日は速攻で終わらせるぞ!」
「おぅっ!!」

 仲本の声に俺達は、ライブの時より気合いを入れた……



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