十五年は長過ぎる

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同居までの道のり

転~隠した本音~

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―――

 いつからだろう。真っ暗だった世界に光が差し込んだのは……

 いつからだろう。その光が自分にとって心の拠り所となったのは……



―――

「……ヒカル?」

「どうなさいました?火野先生。朝比奈さんがいらしたんですか?今日は確か来られないと……」

 ふとヒカルの声が聞こえた気がして無意識に名前を呼んでいたらしい。前を歩く出版社の担当の人が怪訝な顔で振り向いた。

「……いや、ちょっと似てる人がいたものですから、つい。」
「そうですか。しかし残念ですなぁ、朝比奈さんが来られないなんて。」
「え?」
「いや、朝比奈さんってどこか癒し系オーラが出てるでしょう。うちの社員全員口には出しませんけど、彼が来るのをいつも楽しみにしてるんですよ。」
「……そうですか。」
「実を言うと私もなんですがね。」
 そう言うと『ハハハ』と笑った。つられて俺も笑う。そして一人呟いた。

「癒し系オーラねぇ……本人が聞いたら心外だって怒るかもな。」

 顔を真っ赤にしながら『俺はペットか!』とか何とか喚く姿を想像して、口端を緩めた。




 打ち合わせが終わり外に出る。今日も空は能天気なくらい真っ青だ。


『今日はいい天気やなぁ。』

 あいつが側にいたら無邪気な顔してそう言うだろうな、……なんて考えてため息をついた。


「あれ?あの後ろ姿は……」

 ふと目に映った人物が誰であるか気づいた瞬間、俺の思考はストップした……



―――

「それで?その人は火野のお母さんやったん?」
 ヒカルの声に俯いていた顔をハッと上げる。

 目の前にヒカルの後頭部があって、ここが俺の部屋で腕の中にヒカルがいるという事実が俺を安心させた。

 家に帰ってきてヒカルが部屋にいた時は、幻でも見たのかと思った。ずっと会いたかったから夢でも見たのかと。

 だけどヒカルが笑顔で『お帰り』と言うのを見て、ここにちゃんと存在しているという事実を認識した瞬間、俺は自分の想いを抑えられなかった。


 半分無意識だった。
 帰るというヒカルを離したくなくて、思わず後ろから抱き締めていた。


――ヒカル?

 お前は癒し系キャラだと思われてるようだけど、実際はそんなもんじゃない。
 ただ忙しい日常の中でふっと体の力を抜く事が出来る中和剤みたいなものか。

 それはバカにしてるとかからかってるとかじゃなくて、何ていうか上手く言えないけど……


「なぁ、ヒカル。」
「何や。」
 くぐもった声で呼ぶと素っ気ない、だけど優しい声。少し長くなった襟足を見つめながら言った。

「ずっと俺の側にいてくれるか?もし俺が売れなくなって秘書の仕事が無くなっても、側にいてくれるか?」
 途端耳が赤くなったヒカルに含み笑いをしながら待つと、小さい声が返ってきた。


「善処する。」
 ヒカルらしい答えに微笑って、その細い体を抱きしめた。

「この間のお返し。」
「え?何?」
「いいや。何でもない。」
 この間喫茶店で不意打ちをくらったのを思い出して更に笑みを深くした。


 ヒカルは俺の事を友人としてしか見ていない。あの時の『好き』の言葉だって、俺をからかう為のジョークだ。

 だけど俺はもう、ヒカルなしでは生きていけない。いつでも側にいて欲しい。


 俺のエゴでヒカルを縛る事になろうとも、俺はこいつと一緒にいたい――



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