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エピソード1:運命の輪
衝撃の告白
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―――
『皆さん席に着いたようなので、小泉さんが淹れてくれた紅茶でも飲みながらこの度の斉木さんの事件について思う存分意見を交わして下さい。進行はそうですね……元判事の相原さん、お願いします。』
ダイニングのテーブルの椅子に全員が着いたのを見計らったかのように陽子の声が響く。進行役に指名された相原さんを見ると、溜め息をつきながら深く凭れていた背もたれから体を離して両手を組んだ。
「指名されたのなら仕方がない。事件が起きたのは事実、そして犯人がこの館の中にいるのも事実なら、ここにいる皆でそれぞれ思っている事を話し合うのは犯人と真実を明らかにする事に繋がる。皆さん、異論はないな?」
銀縁の奥の細くて鋭い視線に射抜かれて皆が首を縦に振った。
「それではまずは私から始めようか。先程そこの娘さんが言ったダイイング・メッセージについてだが。」
紅茶を配る小泉さんの後ろからチョコレートの乗った皿を配っていた星美さんの方を見ながら相原さんは言う。
「例のカードと手紙は犯人の仕業と考えるのが妥当だろう。」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
星美さんが手を止めて反論する。相原さんはゆっくりと星美さんの方を向いた。
「手紙は、今後を占った。結果はこれだ。と締め括られていた。そうであるならば君が言った通りカードが数枚残されていたはず。しかしカードは二枚だけで後はケースに入っていた。」
「だからそれは斉木さんが殺されるかもと思って犯人にバレないようにそうしたかも知れないじゃないですか。」
「それでは手紙は?それも斉木さんが犯人にバレないように書いたと?」
「そ、それは……」
星美さんが言葉に詰まる。その隙を突いて相原さんが畳み掛ける。
「手紙は机の上にこれみよがしに置かれていた。そこの坊やがすぐに気づいたのだから、もし斉木さんが書いておいた物なら犯人が気づかないはずがない。すぐに読み、殺人の動機が書いてあると理解しただろう。普通ならそれを隠滅するはずだ。しかし手紙は机の上に置かれいとも簡単に発見されて、我々は斉木さんが殺された理由を知る事になった。」
『坊や』と呼ばれて体がビクつく。相原さんを見るとこっちを見て微笑んでいた。
何だ、そういう顔もできるんだ。ただ怖いだけの人かと思っていたけど。
「確かに全部犯人の用意したものだとしたら全部辻褄が合う。流石判事さんだ。」
「元、ですよ。それにこれしきの事、少し考えれば君達だって辿り着けた事だ。現に先程の現場でもそういう話が出ていたじゃないか。」
坂井さんが褒めるもしれっとした顔で紅茶を飲む相原さん。相原さんの推理を息を詰めて聞いていた皆は一斉に溜め息をついた。僕もいつの間にか強張っていた体から力を抜いて目の前のチョコレートに手を伸ばした。その時、甲高い声が響いた。
「ちょっと!私チョコレート嫌いなのよ。他に何かないの?」
早乙女さんだった。怒鳴られた小泉さんはあたふたしながら口を開く。
「ビスケットならございますが……」
「じゃあそれ持ってきて。」
「かしこまりました。」
小泉さんが急いで出ていく。一瞬呆気にとられていた僕達だったけど気を取り直したように紅茶とチョコに手を付けた。
「それはそうと、相原さん一人で解決してしまいましたね。意見を交わすまでもなかった。」
植本さんが苦笑交じりに言うと新谷さんも冗談っぽく乗ってきた。
「そうっすよ!俺たちの出る幕ないって感じ。」
「あんたは最初から頭使ってなかったでしょ。」
「んだよ、それ!」
「あはは!」
白藤さんのツッコミでムキになる新谷さんに少し場が和んだ。
「ちょっといいかしら。」
「何ですかな?」
そんな中唐突に早乙女さんが発言した。相原さんが先を促す。
「どうせ一週間もここに閉じ込められるなら早く話してスッキリさせたくて。例の手紙に書いてあった事だけど……」
「何ですか?」
僕が聞くと早乙女さんは一つ息をつくと話し始めた。
「実は楢咲さんは私の教え子なの。」
「え!?」
「という事は白藤さんと諏訪さんも早乙女さんの生徒だったって事ですか?」
大和刑事がそう言うと、早乙女さんは黙って頷いた。白藤さんと星美さんは気まずそうに目を逸らしている。僕はそんな早乙女さんをじっと見つめた。
今更何を言うつもりなんだろう……?
「どうして今まで黙っていたんですか?何かやましい事でも?」
服部さんが妙にねちっこい視線を早乙女さんに向ける。早乙女さんはそんな服部さんを虫でも見るような目で睨むと言った。
「別に聞かれなかったしあの『声』が私の事を紹介したときもそれについては触れられてなかったしね。でもこのまま黙っているのは性に合わないから言うわ。あの手紙に書いてあった楢咲さんがした高校生にあるまじき行為の事よ。」
そこで一旦言葉を切ると、紅茶を一口のんだ。
「楢咲さんは斉木さんの占いのサイトのせいで高額な請求をされていた。それを返す為に年齢を偽ってキャバクラでバイトをしていたの。」
「陽子が!?嘘でしょ、先生!」
「本当よ。」
「何で先生がそんな事知ってるんですか!?」
「それは……」
そう言って早乙女さんは僕の方をちらっと見る。僕は何も言わず目を逸らした。
「その頃私は色々とストレスを抱えていて毎晩飲み歩いていた。そんな時ふとしたきっかけで出会った人と付き合い始めて、ある日ホテルに入ろうとした。そうしたら楢咲さんが男と同じホテルに入ろうとしていてばったり出くわしてしまったの。」
「え……」
「で、でも先生って結婚してるんじゃ……」
星美さんが絶句し、白藤さんは衝撃の事実を呟く。他の人達も驚いて言葉が出てこないようだ。僕を除いては。
「とにかく焦ったわ。向こうも、いえ、楢咲さんの方が焦ったでしょうね。私達はお互い見なかった事にしてその時は別れた。でも私は怖かった。いつか彼女がこの事を誰かに言うんじゃないかって。だから……」
「近くの教会の神父さんに全てを告白して懺悔したわ。そう、そこにいる植本さんにね。」
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『皆さん席に着いたようなので、小泉さんが淹れてくれた紅茶でも飲みながらこの度の斉木さんの事件について思う存分意見を交わして下さい。進行はそうですね……元判事の相原さん、お願いします。』
ダイニングのテーブルの椅子に全員が着いたのを見計らったかのように陽子の声が響く。進行役に指名された相原さんを見ると、溜め息をつきながら深く凭れていた背もたれから体を離して両手を組んだ。
「指名されたのなら仕方がない。事件が起きたのは事実、そして犯人がこの館の中にいるのも事実なら、ここにいる皆でそれぞれ思っている事を話し合うのは犯人と真実を明らかにする事に繋がる。皆さん、異論はないな?」
銀縁の奥の細くて鋭い視線に射抜かれて皆が首を縦に振った。
「それではまずは私から始めようか。先程そこの娘さんが言ったダイイング・メッセージについてだが。」
紅茶を配る小泉さんの後ろからチョコレートの乗った皿を配っていた星美さんの方を見ながら相原さんは言う。
「例のカードと手紙は犯人の仕業と考えるのが妥当だろう。」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
星美さんが手を止めて反論する。相原さんはゆっくりと星美さんの方を向いた。
「手紙は、今後を占った。結果はこれだ。と締め括られていた。そうであるならば君が言った通りカードが数枚残されていたはず。しかしカードは二枚だけで後はケースに入っていた。」
「だからそれは斉木さんが殺されるかもと思って犯人にバレないようにそうしたかも知れないじゃないですか。」
「それでは手紙は?それも斉木さんが犯人にバレないように書いたと?」
「そ、それは……」
星美さんが言葉に詰まる。その隙を突いて相原さんが畳み掛ける。
「手紙は机の上にこれみよがしに置かれていた。そこの坊やがすぐに気づいたのだから、もし斉木さんが書いておいた物なら犯人が気づかないはずがない。すぐに読み、殺人の動機が書いてあると理解しただろう。普通ならそれを隠滅するはずだ。しかし手紙は机の上に置かれいとも簡単に発見されて、我々は斉木さんが殺された理由を知る事になった。」
『坊や』と呼ばれて体がビクつく。相原さんを見るとこっちを見て微笑んでいた。
何だ、そういう顔もできるんだ。ただ怖いだけの人かと思っていたけど。
「確かに全部犯人の用意したものだとしたら全部辻褄が合う。流石判事さんだ。」
「元、ですよ。それにこれしきの事、少し考えれば君達だって辿り着けた事だ。現に先程の現場でもそういう話が出ていたじゃないか。」
坂井さんが褒めるもしれっとした顔で紅茶を飲む相原さん。相原さんの推理を息を詰めて聞いていた皆は一斉に溜め息をついた。僕もいつの間にか強張っていた体から力を抜いて目の前のチョコレートに手を伸ばした。その時、甲高い声が響いた。
「ちょっと!私チョコレート嫌いなのよ。他に何かないの?」
早乙女さんだった。怒鳴られた小泉さんはあたふたしながら口を開く。
「ビスケットならございますが……」
「じゃあそれ持ってきて。」
「かしこまりました。」
小泉さんが急いで出ていく。一瞬呆気にとられていた僕達だったけど気を取り直したように紅茶とチョコに手を付けた。
「それはそうと、相原さん一人で解決してしまいましたね。意見を交わすまでもなかった。」
植本さんが苦笑交じりに言うと新谷さんも冗談っぽく乗ってきた。
「そうっすよ!俺たちの出る幕ないって感じ。」
「あんたは最初から頭使ってなかったでしょ。」
「んだよ、それ!」
「あはは!」
白藤さんのツッコミでムキになる新谷さんに少し場が和んだ。
「ちょっといいかしら。」
「何ですかな?」
そんな中唐突に早乙女さんが発言した。相原さんが先を促す。
「どうせ一週間もここに閉じ込められるなら早く話してスッキリさせたくて。例の手紙に書いてあった事だけど……」
「何ですか?」
僕が聞くと早乙女さんは一つ息をつくと話し始めた。
「実は楢咲さんは私の教え子なの。」
「え!?」
「という事は白藤さんと諏訪さんも早乙女さんの生徒だったって事ですか?」
大和刑事がそう言うと、早乙女さんは黙って頷いた。白藤さんと星美さんは気まずそうに目を逸らしている。僕はそんな早乙女さんをじっと見つめた。
今更何を言うつもりなんだろう……?
「どうして今まで黙っていたんですか?何かやましい事でも?」
服部さんが妙にねちっこい視線を早乙女さんに向ける。早乙女さんはそんな服部さんを虫でも見るような目で睨むと言った。
「別に聞かれなかったしあの『声』が私の事を紹介したときもそれについては触れられてなかったしね。でもこのまま黙っているのは性に合わないから言うわ。あの手紙に書いてあった楢咲さんがした高校生にあるまじき行為の事よ。」
そこで一旦言葉を切ると、紅茶を一口のんだ。
「楢咲さんは斉木さんの占いのサイトのせいで高額な請求をされていた。それを返す為に年齢を偽ってキャバクラでバイトをしていたの。」
「陽子が!?嘘でしょ、先生!」
「本当よ。」
「何で先生がそんな事知ってるんですか!?」
「それは……」
そう言って早乙女さんは僕の方をちらっと見る。僕は何も言わず目を逸らした。
「その頃私は色々とストレスを抱えていて毎晩飲み歩いていた。そんな時ふとしたきっかけで出会った人と付き合い始めて、ある日ホテルに入ろうとした。そうしたら楢咲さんが男と同じホテルに入ろうとしていてばったり出くわしてしまったの。」
「え……」
「で、でも先生って結婚してるんじゃ……」
星美さんが絶句し、白藤さんは衝撃の事実を呟く。他の人達も驚いて言葉が出てこないようだ。僕を除いては。
「とにかく焦ったわ。向こうも、いえ、楢咲さんの方が焦ったでしょうね。私達はお互い見なかった事にしてその時は別れた。でも私は怖かった。いつか彼女がこの事を誰かに言うんじゃないかって。だから……」
「近くの教会の神父さんに全てを告白して懺悔したわ。そう、そこにいる植本さんにね。」
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