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第30話
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「あっ……あぁ!」
その光景を目にした時、和也は気が動転している状態になっていた。
自分がまた、離れている内に火事が発生した、このままだと……! けれど、和也は何とか気持ちを落ち着かせようとした。もし、ここでパニックになったらそれこそ本当に悲劇を回避できない。
現状、火災警報器が動いている様子は見えない。つまり、まだ火が出始めたばかり……。和也は急いで家庭科室の中を確認する。
「何があった?!」
「た、高野くん!」
急いで駆け付けた和也の存在に気づいた凛は、かなり慌てた様子で彼の方へと駆け寄る。
「と……突然、火が燃えあがってきて……! 今、皆パニックで……!」
焦燥している凛を横目に、家庭科室の中を確認すると、今火は燃え広がっている様子が見えた。それもかなり早く。先生は落ち着いて逃げる様にと部員に指示をしている様子だった。
「わかった、とにかく伊豆野さんは皆が逃げられるようにして」
今、確実にわかるのは自分のカバンにあったアレをどうにかしてあの火に投げ入れなければいけない、という事だった。恐らく、あれを使わないとこの状況は打開できない。
「逃げられるようにしてって……高野くんはどうするの?!」
「俺は、どうにかしてあの火を消す」
「嘘?! 危ないよ、そんな事!」
凛が、そう言い切る前に和也は家庭科室の中へと入っていった。
「高野くん!」
半分悲鳴様に和也の事を叫ぶ凛。その様子を見た先生は、「何をしているの?! 早く逃げなさい!」と言っている様子が聞こえた。奥をより見ると、中はパニックになっている。倒れている部員もいる。
「……!」
けれど、今ここでどうにかあの火をどうにかしないといけない。
和也はすぐにカバンの置いていた場所を見て、急いで自分のカバンがどれかを探す。流石に、どれが自分かはわかるが、根本的に殆ど同じ通学カバンを使用している関係上間違えて違う人のものの中を探ってしまう可能性があった。
幸い、カバンの所にまで火の手は上がっていなかったがそれでも急がなければ火災に巻き込まれるのは間違いなかった。急いで、石を探しだそうとする。
「高野くんっ!」
その時、悲鳴を出すように自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。同時にボンッ! と弾ける様な音が聞こえた。
ハッと和也が顔を上げると、目の前には赤い何かが迫ってくる様子が見えた。それが、一気に勢いを増してきた火だと気づくのに時間がかかってしまった。このままだと、直撃する――
その時、和也の体は何かに押し出された。
気づくと自分の体は誰かと重なる様に床に倒れていた。和也は、その誰かを見る。そこにいたのは、凛だった。
そして、先ほどまで立っていた場所は燃えていた。
「……っ、伊豆野さん!」
和也はその様子を見て、凛が何をしたのかに気づき叫び声を上げる様に彼女を呼んだ。すぐに彼女はその叫び声に気づく。
「……高野くん、良かったぁ無事で」
「けど、なんでこんな無茶を」
「それはこっちの台詞! 何で突っ込んじゃうの?!」
凛は和也の行動を責めている様だった。
それも、そうだろう。和也のしている事は、完全に自殺行為でしかない。凛が怒るのも、必然だっただろう。
「本当に、何しようとしてるの……」
「っ……ごめん」
力が抜けたように俯く凛の姿を見て、和也はその様にしか言えなかった。和也は片手に、何かを握っている事に気づく。何かを握っている手を目の前にやると、和也が握っているものの正体が見えた。
それは、あの少年が渡してくれた石だった。
「けど、これはしないといけない」
凛は突然火が上がってきた、という事を話していた。
まだ、確たる証拠がある訳ではないが凛の言っていた事を考えるとこれはあの少年が言及していた回避しようとしつつある事象を無理やり引き起こす現象によってあの火が上がった可能性がある。
そしてあの少年はこんな事を言ってこの石を渡してきたのだ。
『この石は、僕の力を注ぎこんで作ったものなんだ。現象に対しては、これを投げ入れる事でどうにかできる筈だ』
傍目から見たら不思議な彫りの入った丸い石にしか見えない。
当然、これを投げ入れた所で本当に今起きている事が回避できるのかはわからなかった。だから今起きている事はただの賭けでしかないのかもしれない。
だけどだ。あの少年はこの悲劇をどうにかして回避しようとして、色々やってくれていた事にあの少年が、家にやってきた時に知った和也は間違いなく投げ入れればどうにかなるだろう、という信頼があった。
「高野くん……? 何してるの」
「大丈夫、どうにかなるから」
和也はそう言って、手に持っていたその石を燃え盛る火に投げ入れる。
石は、火の海の中に消えていく。その時だった。
『絶対に、凛の事は守るから』
そんな声が和也に聞こえてきた様な気がする。
そして、そんな声が聞こえた時。和也の目の前が少しずつ強い光に包まれていく。それは、段々と目の前に見える景色を真っ白にしていくほどに強くなっていく。
一体何が起きているのか、全く見えない。見えなかった。
その内、完全に視界は真っ白に包まれていた。
その光景を目にした時、和也は気が動転している状態になっていた。
自分がまた、離れている内に火事が発生した、このままだと……! けれど、和也は何とか気持ちを落ち着かせようとした。もし、ここでパニックになったらそれこそ本当に悲劇を回避できない。
現状、火災警報器が動いている様子は見えない。つまり、まだ火が出始めたばかり……。和也は急いで家庭科室の中を確認する。
「何があった?!」
「た、高野くん!」
急いで駆け付けた和也の存在に気づいた凛は、かなり慌てた様子で彼の方へと駆け寄る。
「と……突然、火が燃えあがってきて……! 今、皆パニックで……!」
焦燥している凛を横目に、家庭科室の中を確認すると、今火は燃え広がっている様子が見えた。それもかなり早く。先生は落ち着いて逃げる様にと部員に指示をしている様子だった。
「わかった、とにかく伊豆野さんは皆が逃げられるようにして」
今、確実にわかるのは自分のカバンにあったアレをどうにかしてあの火に投げ入れなければいけない、という事だった。恐らく、あれを使わないとこの状況は打開できない。
「逃げられるようにしてって……高野くんはどうするの?!」
「俺は、どうにかしてあの火を消す」
「嘘?! 危ないよ、そんな事!」
凛が、そう言い切る前に和也は家庭科室の中へと入っていった。
「高野くん!」
半分悲鳴様に和也の事を叫ぶ凛。その様子を見た先生は、「何をしているの?! 早く逃げなさい!」と言っている様子が聞こえた。奥をより見ると、中はパニックになっている。倒れている部員もいる。
「……!」
けれど、今ここでどうにかあの火をどうにかしないといけない。
和也はすぐにカバンの置いていた場所を見て、急いで自分のカバンがどれかを探す。流石に、どれが自分かはわかるが、根本的に殆ど同じ通学カバンを使用している関係上間違えて違う人のものの中を探ってしまう可能性があった。
幸い、カバンの所にまで火の手は上がっていなかったがそれでも急がなければ火災に巻き込まれるのは間違いなかった。急いで、石を探しだそうとする。
「高野くんっ!」
その時、悲鳴を出すように自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。同時にボンッ! と弾ける様な音が聞こえた。
ハッと和也が顔を上げると、目の前には赤い何かが迫ってくる様子が見えた。それが、一気に勢いを増してきた火だと気づくのに時間がかかってしまった。このままだと、直撃する――
その時、和也の体は何かに押し出された。
気づくと自分の体は誰かと重なる様に床に倒れていた。和也は、その誰かを見る。そこにいたのは、凛だった。
そして、先ほどまで立っていた場所は燃えていた。
「……っ、伊豆野さん!」
和也はその様子を見て、凛が何をしたのかに気づき叫び声を上げる様に彼女を呼んだ。すぐに彼女はその叫び声に気づく。
「……高野くん、良かったぁ無事で」
「けど、なんでこんな無茶を」
「それはこっちの台詞! 何で突っ込んじゃうの?!」
凛は和也の行動を責めている様だった。
それも、そうだろう。和也のしている事は、完全に自殺行為でしかない。凛が怒るのも、必然だっただろう。
「本当に、何しようとしてるの……」
「っ……ごめん」
力が抜けたように俯く凛の姿を見て、和也はその様にしか言えなかった。和也は片手に、何かを握っている事に気づく。何かを握っている手を目の前にやると、和也が握っているものの正体が見えた。
それは、あの少年が渡してくれた石だった。
「けど、これはしないといけない」
凛は突然火が上がってきた、という事を話していた。
まだ、確たる証拠がある訳ではないが凛の言っていた事を考えるとこれはあの少年が言及していた回避しようとしつつある事象を無理やり引き起こす現象によってあの火が上がった可能性がある。
そしてあの少年はこんな事を言ってこの石を渡してきたのだ。
『この石は、僕の力を注ぎこんで作ったものなんだ。現象に対しては、これを投げ入れる事でどうにかできる筈だ』
傍目から見たら不思議な彫りの入った丸い石にしか見えない。
当然、これを投げ入れた所で本当に今起きている事が回避できるのかはわからなかった。だから今起きている事はただの賭けでしかないのかもしれない。
だけどだ。あの少年はこの悲劇をどうにかして回避しようとして、色々やってくれていた事にあの少年が、家にやってきた時に知った和也は間違いなく投げ入れればどうにかなるだろう、という信頼があった。
「高野くん……? 何してるの」
「大丈夫、どうにかなるから」
和也はそう言って、手に持っていたその石を燃え盛る火に投げ入れる。
石は、火の海の中に消えていく。その時だった。
『絶対に、凛の事は守るから』
そんな声が和也に聞こえてきた様な気がする。
そして、そんな声が聞こえた時。和也の目の前が少しずつ強い光に包まれていく。それは、段々と目の前に見える景色を真っ白にしていくほどに強くなっていく。
一体何が起きているのか、全く見えない。見えなかった。
その内、完全に視界は真っ白に包まれていた。
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