記憶の中の彼女

益木 永

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第28話

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「どうしたの、高野くん?」
 後ろを振り向くと先生が心配そうな顔で立っていた。
 どうやら、その場から全然動かない和也を心配して声を掛けてきた様だった。それに気づいた和也は慌てながらも、大丈夫ですと答えてストーブを改めて調べる。
「えっと。このストーブを使うので、正解何ですよね?」
「ええ、そうね……何かあるのかしら?」
「あー……それは」
 先生から何か疑問を浮かべる様子があった。和也は、もしかしたら上手い事ここで話を進めたらそれとなくストーブが問題なく使える状態か調べてくれるかもしれない……という少し、淡い期待が生まれていた。
「……このストーブ、ちゃんと問題なく使えるかなあって」
「あぁ……確かに、そうかもしれないけれど……」
「なので、どうにかして調べる事ってできませんか?!」
 和也は勢い任せに先生に状態を調べてもらえる様に話を押し通そうとする。
 我ながら、かなり不自然な対応を取っていると思う。けれど、もしこのストーブが原因だとしたら……そう、あの火災が起きるという他ならない。それを阻止する、できるために自分だけ時間が巻き戻ってこうして準備の手伝いとして参加してきた訳だ。
 ここは……どうにか、調べる話に持っていきたい。
「う、う~ん……」
 先生はどうにも急な言い分に悩ませている様子だった。
 流石にそんな事を急に頼まれても、先生は困るといえば困るだろう。けれど、この場面では自分が何かするよりは先生に調べてもらった方がまだ火事を回避できる可能性があると言っても良いだろう。
「どうにか、調べてもらっていいですか?!」
 最後に押しに押して、和也はそう言い切った。
 先生はその様子を見て、これはしないといけないかと察したのか。
「……わかった、ちょっと調べえるから高野くんは準備に戻りなさい」
 折れてもらって、調べてもらう事になってしまった。
 二度も、先生に生徒からの無茶ぶりを叩きつける形になってしまったのはとても申し訳ないと思う……。

 家庭科室の扉を開けると、凛が反応して「あ、おかえり」と声を掛けてこちらへと歩いてきた。
「あれ、先生は?」
「ちょっとね……あ、ストーブはまだ時間がかかるかも」
 そっか……、と凛は少し残念そうな様子を見せていた。
 少し胸がチクりとした。これは別の話題に切り替えた方が良いな、と考えた和也は「そうだ、準備の方はどう?」そう切り出した。
「準備はまあまあ、進んできてる。皆、早く帰りたいっていうのもあってか順調」
 見てみたらわかるよ、と言って和也の腕を引っ張って家庭科室の中へと進んでいく事になった。その家庭科室の中は、先ほどから更に準備が進んでいる状態になっているという事がはっきりとわかる状態になっていた。
 一つは、装飾の数が増えている事。
 一人一人の部員が考えた展示に置くべきものが、増えていて段々と皆が考えた形になって言った事。
 二つは、前よりも展示の状態が調整されていた事。
 実際に装飾を配置して良くないと考えられた配置をブラッシュアップしていく事で、前より少しは見栄えが良くなっていった事。
 やはり、実際に見て見ると展示の内容やテーマは非常にバラバラではあった。けれど、同時に悪くないという感想を抱いていた。あえて、一人一人のテーマを尊重してバラバラに展示を作っていくという発想は成功だっただろう。
「凄い! これは、良い展示だよ」
 和也が、そう答えると。
 凛の顔は少し下を向いた。一体、何があったのかと思ったけれど、その直後に聞こえた返答からその心配は杞憂であると感じた。
「そうかな……えへへ、頑張ったかいがあったかも」
 凛は、とても嬉しかったらしく声に少し張りがある様に感じられた。
 恐らくこれは、何度も何度も部員と頑張って築き上げた文化祭の展示が誰かに褒めてもらえた、というのがとても大きいのか。そういう風に考えていたが、凛の口からそうではない、という実感が出てきた。
「高野くんに、こうして手伝ってもらえて。褒めてもらえて。本当に今、楽しい」
「えっ……?」
 自分の名前が最初に出てきた事に驚きを隠せない。そして、和也は今自分の顔が段々と、凄く赤くなっている。そう直感で感じ取れた。感じてしまった。
 凛は既にこちらを向いていた。
 つまり、今自分の顔を直接間近で見られてしまっている。
「高野くん、顔真っ赤だよ?」
 ニッコリとした笑顔で凛はそう言った。
 言われた内容は、すぐにわかった。……すぐにわかってしまったのが、なんとも恥ずかしい。凛の顔が直視できない。本当に、恥ずかしくて和也はほんの少しの間だけ気持ちを落ち着かせるために彼女から顔を逸らしてしまった。

  *

 しばらく経った後に、もう少し間近で見て見ない? という凛の提案で実際に手芸部が文化祭で催す展示を間近で見ていく事にした。
 まだ完成はしてないので、当然ながら完成していない箇所が間近で見るとちょいちょいあったのだがそれでも、改めて近くで見て見ると少し遠くから見た時とは全然違った発見があった。
「……ん?」
 ふと、和也は気になるものに目を留めた。
「高野くん、どうしたの? ……あ、もしかして私のこれ、気になった?」
 凛が反応に気づくとそれを和也の目の前に見せてくる。
「これ、お姉ちゃんが教えてくれたものなの。……ちょっと見様見真似だから、下手なんだけどね」
 凛がそう言っている様子だったが、和也は気が気でなかった。
 これって……もしかして。
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