記憶の中の彼女

益木 永

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第26話

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 何かが起こる、という訳でもなく少しずつ準備は進んでいった。
 その間もちょいちょい席を外して周囲を見回しては行ったものの、明らかな異変とかそういうものは見つからない。それは、そうなのだろう。
 あそこまでの火災が起きた、と言う事は誰も気づかない所から出火したというのは容易に考えられる。気づいた時にはあそこまでの惨事になっていた、という所は想像し得る事だった。
 けれど、ここで原因を見つけられない限り――

「あの、ちょっと外見てきます」
「えっ、どうしたの急に?」
「なんとなくだからっ! すぐ戻るんで!」
 凛から突然の行動に心配の声を掛けられたが、気にしている暇はない。もたもたしているとあの惨劇が起きてしまうのだ。あの光景が脳裏に焼きつく。
 どうしても、それだけは何としても回避しないといけない。
 とりあえず、家庭科室に異変がない可能性があるとしたら……と考えた和也はまずは隣の準備室から調べる事を決める。準備室の扉を開ける。この部屋に展示予定の部活動で作った小道具等を保管していたらしく、今は鍵が開いている。しばらく誰も来ないだろうし、変に訝しられるよりは良いだろう。
 準備室の中に入る。普段は使用されない部屋なので少し、埃が溜まっている場所もあるのだけど基本的には綺麗にされている。和也としては普段使用されない部屋、という点からここに置いてある家電の中から見るからに火災の原因になりえそうなモノがあるかもしれない。
 和也は少しずつ、家電を一つ一つ見ていったが埃被っているものもいくつかはあるが、明らかに断線している、という様なものは中々見つからない。もしかしたら、ここに火災の原因となるものは無い……?
 ふと、和也は隅にあるコンセントに視線を向ける。
 なんとなく、そのコンセントに近づいてよく見てみるがそのコンセント自体は埃が少し被さっているぐらいで特に何もないだろう。
「コンセント……か」
 もし、家庭科室が出火元だったら。
 和也の頭の中の想像ではあるが、もしかしたらコンセントに何かしらの問題が起きていて、それに誰も気づかなかったから……漏電が発生したのでは? そして、それが大きな火災に繋がっていく。
 そうした仮定が、少し頭の中をよぎってきた。
 とりあえず、和也が見ている限りだとここに火災の原因になりえる様なものは無さそうに見えた。とにかく、家庭科室の周囲の部屋は出来うる限り見ていこうと準備室を後にした。

  *

「見つからなかった……」
 結果としては、明らかに怪しい場所は無かったという結果だ。
 やはり、出火元になるのは家庭科室なのだろうと和也は戻っている最中だった。部屋を出てから三十分は……流石には経っていない様だったので、恐らく遅い事を心配されていると言う事はないだろう。
 それにしても、出火の原因となったのはあの部屋のどこなのだろうか? そうした疑問で和也の頭の中は埋め尽くされていたが、答えがすんなり出る訳でもなくあっという間に家庭科室前に辿り着いていた。
 ガラッ、と家庭科室の扉を開けると目の前に飛び込んできたのは何かを中心に集まっている手芸部の面々と顧問の先生の姿だった。
「あれ、何しているんですか?」
「あ、和也くん。ちょっと聞いてほしい事があって」
 凛が真っ先に和也の声に気づくと駆け寄って事情を説明してくれた。
 どうやら、流石に寒さが強くなってきたという事でストーブを付けるかどうかという話になったとの事で、少し前から全員で集まって話をしていたようだった。
「出来れば、ストーブは付けずに続けてやってくれた方が良いんだけど……」
「先生、それはわかっているんですけど流石にここまで冷えると……」
 そんな会話が続いている様子だった。こうした事情を聞いた和也はなんとなく、気づいた事がある。
 もしかして、火事の原因ってストーブなのでは……?
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