記憶の中の彼女

益木 永

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第19話

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 放課後、和也は真っ先に学校を出る。無事に赤点回避を出来た以上、中間テストが終わったから今は放課後に予定がない事が幸いだと今日は良かった、と安堵していた。
 今朝も走った道を今朝とは逆の方向で走る。
 今朝。登校の時間が近づいたために、見つけたところで終わったあのパンダ柄封筒の出どころ。どうしても、確かめたい事があった和也は今、こうして走っていた。

「おかえりー」
「ただいま!」
 家に着いた和也は、手を洗って普段着に着替えてから自分の部屋に戻る。誰も入った痕跡が無いのか、部屋は朝の状態のまま放置されている状態だった。けれど、それは同時に朝の続きを何事も無く進められる証だった。
 和也は押し入れで見つけたパンダ柄の封筒がある事を確認する。パンダ柄であるのは、多分何かしらの理由があるのだろうか。そんな疑問もある。
 けれど、まずはこのパンダ柄の封筒を見つけた所でどうしたら良いのか?
 和也はそこで少し悩むが、そこでピンが刺さる様に感づいた事がある。今、ここであの公園に行ってみてはどうだろうか。そう思い立ったら、和也は迷わずに家を出る準備をする。家からあの公園はそれなりに遠いから、変に親から心配を受けさせない様に早めに着いて早めに帰る様にしたかった。
 そこからは母から急に外を出る事で「どうしたの?」と言われたりもしたが、とりあえず適当になんとなく外に出たかったから、と誤魔化して家を出て行った。
 とりあえず、手元にあるスマートフォンで地図アプリを開く。この前、凛と潟ケ谷神社に行った際にあの公園が神社の近くにある事に気づいた事から、和也はまず潟ケ谷神社と検索して神社周辺のマップを表示させる。しばらく経ったら検索場所と、その周辺のマップが表示される。とりあえず、神社からの移動方法を確認してみる。まず、この場所に行くには幸いにも一時間は掛からない様な距離の様だった。
 ただ、実際に歩いたら思ったより時間はかかるかもしれないが。とにかく、和也は駆け足で公園へ向かっていく。

 そんな形で、とりあえず公園にもうすぐ着きそうな所まで近づいてきた。神社のある小山も見えるぐらいだったから、間違いないだろう。
 ただ、直感だけでここまで来てしまったものの、公園に行った所で何があるというのか。和也はここにきて、かなり冷静になっている。一時の興奮が収まってしまった様にも感じられる。
 けれど、なんとなくの感でここまで来てしまった以上戻れなかったのも確かだった。公園の外壁が少しずつ見えてくるのを、和也は歩きながらまるで、他人事の様にその光景を眺めていた。

 公園に辿り着いた和也は、相変わらずの代わり映えのない光景だった。と思う。しかし、けれどその印象は一瞬で払拭される。
 時間帯は夕方頃。秋という季節故に少し暗くなっているがまだ、子どもが遊んでいてもおかしくはない。実際前に凛とこの公園に来た時は子どもが遊んでいる様子。そして、親らしき人物がそれを眺めて談笑している場面を和也は見ている。
 けれど、今日は人影が一つも見えなかった。少し不気味さを感じつつも、和也は公園の中に入っていく。
 そして、和也はなんとなくブランコの前に立ってみる。前にブランコの前に立った時だ。あの少年が現れたのは。
「もうすぐ、運命の時がやってくるよ」
 そして、その声が聞こえた時。
 和也は全身が凍り付く感覚に襲われる。横から聞こえた、その声の方向を振り向くとそこに、居た。
 あの、少年が。
「……運命って?」
 誰もいなかった筈なのに、急に現れたその少年が発した言葉の意味を訪ねる。
「君の高校ではもうすぐ文化祭が始まるよね」
 何故、その事を?
 そんな質問をする間もなく、少年は立て続けに話す。
「その文化祭の前日。それが、君にとって運命の時なんだ」
「それって」
 今日の昼休み。凛は文化祭の前日に、追い込みの作業があって遅くまで作業をするという話をしていた記憶がここではっきりと思い起こされる。
「その運命は一度、体験する事になるかもしれない。だから、彼女と出会ってからその日に至るまでの事を忘れないでいて欲しい」
「待て。一体何を伝えたいんだ?」
 その時、突然強い風が吹いてくる。
 和也の顔にその風が直撃して、思わず目を瞑る。そして、次に目を開けた時にはその少年は目の前には居なかった。
「は……?」
 呆気に取られる。直後に気づいて、周囲を見渡してみるもののその少年はどこにも。
 どこにもいなかった。
『彼女と出会ってからその日に至るまでの事を忘れないでいて欲しい』
 あの少年から伝えられた事。彼女、というのは一体誰の事を指しているのか和也は何故かすっきりと理解できてしまう。記憶に異変が生じたのも、あの少年が目の前に何度も現れるようになったのも。
 ……凛と出会ってから、起きる様になった事だった。
「伊豆野さんに、何かあるのか……?」
 ここまでの流れを整理しても、凛に何かがあるという事なのだろうか、と和也は考察をしてみるが、考えても、どれだけ考えてもわからなかった。
 一体、文化祭の前日に何があるというのか。
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