15 / 38
第15話
しおりを挟む「ごめん伊豆野さん! 役に立てなくて……」
和也は終わってすぐに、凛に謝る。
「あ……別にいいよ。それに、高野くんが居たお陰かいつもよりは言い合いが減ったかなって思うし」
凛のフォローが和也の心にズキリと少し、痛みが産まれる。どうやら、凛によるとこれまでの話し合いでは今日以上の対立が起きたのだそうだ。意見の対立が起きる度に凛と共に仲裁に入ったり、フォローに入ったりで和也も介入してくれたお陰で凛の負担が和らいだという話だそうだが、結局の所結論に至る事は無かった。
「どうしたら、いいんだろうか……あれ」
「うん。本当に困っているんだよね……皆前向きなのは良いんだけど」
凛はかなり悩んでいる様子だった。部員全員が催しに対して前向きで、けれど意見としては全員が割れる……。今回の話し合いでは、平行線で話が進まない事を実感せざるおえない結果となってしまった。
翌日、龍は大分疲弊している……風に見せながらもしっかり問題に食らいついていた。現状、成績は今までと比べて大幅に改善している傾向だ。赤点回避の可能性も充分過ぎるくらい高まっていた。
だからこそ、この勉強会で龍の成績向上を行わせたい。……けれど、和也は一方で昨日の事が引っ掛かり続けている。
話し合いに参加した上で、全く役に立てなかった。それが非常に重くのしかかる。凛の困っているのがよくわかる、あの表情……やっぱり気になってしまう。
「おーい、和也―できたぞ」
そんな事を考えていると、龍が問題を見せて出来たというアピールをしているのに気づく。
「……あ、ああ」
和也はその問題が書かれたノートを受け取る。そこに書かれている解答は……一目見る感じだと大分出来ている。多分、間違いより正解が多いくらいだと予想してみる。そして、実際の解答と照らし合わせてみる。予想通り、正解が間違いの数を上回っていた。
「正解が増えてる。やるじゃん」
「お! マジか!」
和也が伝えた結果に龍は嬉しそうに、少しはしゃぐ様子を見せる。大きくはないのは、ここが図書室である事をわかった上での事だ。はた迷惑な部分もありながらも流石に、その辺りの良識的なものはわきまえているのだと、和也は思う。
「ところでさ、割とぼーっとしてる様子だけど昨日のアレは上手くいかなかったのか?」
「あ……まあ、そうだな」
龍にも気づかれるぐらいの様子だったのか。和也は少し恥ずかしいと内心思いながらも答える。少し、不器用だったかもしれないが。
「まあ、凛ちゃんにあそこまで付き合える辺り本当にお前気になってるんだなって」
「なっ、そんな訳ねーだろ! 下心で付き合っているわけじゃないから」
龍の指摘に、和也はかなり動揺した。気があって、一緒に行動している訳ではないのだから本当に失礼なものだと思う。
「でもよ? 凛ちゃんは絶対良い子だけど、予定変えてまで彼女に付き合うのはむしろ彼女が不安になっちゃうだろ。昨日もだけどさ」
「あ……それも、そうか」
凛には龍との勉強会の話をしている上で、昨日の話し合いに参加させてほしいとまで言っていると、確かに凛から見れば自分のために和也自身が予定を変えてまで献身的にやっていると少し不安なのもあるだろう。
そこは、反省しないといけない気がする。龍がこう、気を回すなんて事は中々無かったからこそ意外な面もあるのだな、と感じた。
「まあ? ぶつかりあってもしょうがないんだから上手い事折り合いをつければ良いってこった」
「そ、それも……そうか」
龍の言う事はかなりある、と和也は感じた。だからこそ、考え過ぎても仕方ないかもしれない。
そこで、和也は龍の言葉に引っ掛かりを覚える。
『上手い事折り合いをつければ良いってこった』
そうだ、昨日の話し合いを経由した上で和也はこの言葉にとても引っ掛かりを覚える。
皆のやってみたい事を尊重した上で、あえて全てを欲張りに出来る様に動ければ良いのではないか……? そんな発想が和也の中で生まれつつあった。
「そっか……そうだ!」
「うぉっ?! 何だ急に」
いきなり立ち上がった和也に龍は驚きを隠せない様子だった。
龍を驚かせたのは悪いけど、今すぐ彼女に伝えておきたい。和也は迷わずに机に広げた荷物をカバンの中に入れていく。
「悪い! 今日の勉強会はここで終わりだ!」
「え?! ちょ、本当にどうしたんだよ!!」
和也は、困惑する様子の龍を置いて図書室を飛び出していく。彼には本当に悪いが後でも良いから説明しておけばいいだろう。和也は今すぐ、彼女にこの案を伝えなくては。そんな気持ちでいっぱいだった。
この方法なら、もしかしたら上手く事が進むかもしれない。和也は急いで凛がいるであろう家庭科室へと向かっていった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
カリスマレビュワーの俺に逆らうネット小説家は潰しますけど?
きんちゃん
青春
レビュー。ネット小説におけるそれは単なる応援コメントや作品紹介ではない。
優秀なレビュワーは時に作者の創作活動の道標となるのだ。
数々のレビューを送ることでここアルファポリスにてカリスマレビュワーとして名を知られた文野良明。時に厳しく、時に的確なレビューとコメントを送ることで数々のネット小説家に影響を与えてきた。アドバイスを受けた作家の中には書籍化までこぎつけた者もいるほどだ。
だがそんな彼も密かに好意を寄せていた大学の同級生、草田可南子にだけは正直なレビューを送ることが出来なかった。
可南子の親友である赤城瞳、そして良明の過去を知る米倉真智の登場によって、良明のカリスマレビュワーとして築いてきた地位とプライドはガタガタになる!?
これを読んでいるあなたが送る応援コメント・レビューなどは、書き手にとって想像以上に大きなものなのかもしれません。
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
〜女子バレー部は異端児〜 改編
古波蔵くう
青春
異端の男子部員蓮太が加わった女子バレー部は、代表決定戦で奮闘。蓮太は戦勝の瞬間、部長三浦に告白。優勝し、全国大会へ進出。異例のメンバーが団結し、全国での激戦に挑む。男女混成の絆が、郭公高校バレー部を異端児として輝かせる。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる