記憶の中の彼女

益木 永

文字の大きさ
上 下
5 / 38

第5話

しおりを挟む

  *

「はぁ……」
 ため息をしながら、帰路を歩いていた。
 最後、有耶無耶な形で終わったものの、龍からの追及は明日もしてくるだろうな……と明日の事を少し憂鬱に考えつつも、和也は振り返っている。
 少し真面目さを見せる彼女……そういえば、今日の昼休みも何かしていたと回想する。初めて出会った時も、わざわざ天井に引っ掛かったボールを取りに行こうとしていたし、彼女の気質がそういうものなのだろう。
 ……この時間だと彼女は部活動をしているのだろうか?
 文化祭の準備とも言っていたし、学校にいる時間は長いだろう。確か電車で登校していると言っていたからかなり大変そうだ。そんな、他人事みたいな事を思いながら、帰路を歩いていた。


 ……歩いていた、筈なのだが。気づいたら家とは違う方向に来ていたようだ。目のまえに広がっているのは誰もいない広い、公園だった。
 誰もいないのは時間帯。もうすぐ夕方が終わりそうな時間帯だから、ここで遊んでいた子ども達は既に帰宅しているのだろう。……それにしても、この公園には見覚えがあるような。
「あ、あのブランコは」
 和也の視界の先にはブランコが見えた。このブランコを見た時、先ほどの既視感は間違いではない事がわかった。そういえば、ここで遊んだことがあった。
 遊んだ時と比べると大分くすんでいるような気がする。和也が遊んだ時はまだピカピカにチェーンが銀色に光っていたのに、今、目の前にあるブランコのチェーンは少し錆びている様に見えた。更に、塗装も少し?がれている所がある。
「そっか……大分経ったんだろうな」
 このブランコがこの公園に設置されてから結構な時間が経っているのだろう。和也が遊んだ時は5歳くらいの頃だった筈なので、多分10年以上はこの公園にずっといるのだろう。
 そんな昔の余韻に浸っていると、そういえば朝……。

『ブランコ、楽しい?』
 そんな、声を聞いた記憶はないのに、頭から離れられない。ただ、自分がこの公園の遊具で遊んでいただけの記憶だった筈なのに、何故か本当はそんな事があった様に記憶がすり替えられたような……。そんな変な感覚だった。
「お兄さん、お兄さん」
「わっ!」
 急に横から声を掛けられる。驚いた和也は声がした方を向くと、すぐ傍に少年がいた。
「脅かせちゃった? ごめん」
「いや、良いんだよ……こっちこそ、声を上げてごめん」
 その少年は……小学生の、低学年ぐらいに見えた。自分のお腹ぐらいに頭があるから、大分身長が低いし、体もまだまだ大きくなりそうな……そんな風に感じる。ちょっと気になる事があるとすれば、この少年の髪は少し、白っぽい事。
「お兄さんは、このブランコを見ていたけどどう思ったの?」
「えっ?」
 変な質問をされた。けれど、ブランコをずっと見ていたのは事実ではある。別に、隠し事があるとかそういうのではないから話しても良いのだが……。
「う~ん……なんて言えばいいかな……」
 どう思った、というには随分と抽象的な、曖昧な感想しか出てこない。なんて答えればいいか、しどろもどろに和也は頭から言葉を引き出して答える。
「このブランコを見てると、何というか不思議な事を思い出すんだ」
「不思議な事って?」
「不思議……なんというか、今までそう思っていた事が、実はそうじゃなかった。みたいな」
 相手に伝わっているのかどうか、わからない。……というか、自分は何で初対面の男の子相手にこんな事を言っているのだろう。向こうから話しかけてきたとはいえ、こっちが大分変な人じゃないかと、少し恥ずかしさを覚えていると。
「そうなんだ。じゃあ、その事はちゃんと忘れないようにしていてね」
「え?」
「彼女と、少しずつ交流を深めていけば、きっと思い出せると思うから」
 次に瞼が開いた瞬間、その少年の姿が見えなくなっていた。
「……え?」
 急な事で呆気を取られる。それに、『彼女』?
「……今のは何だったんだ」
 まるで、あの少年は自分の事を知っている素振りがあるかのように言ってきた。これまた、変な出来事が起きた事で少し混乱しているのだろうと、それぐらいしか和也は理解が進まなかった。
 多分、疲れているのだろう。
 そう思って和也は改めて家に戻る事にした。多分、一日しっかり休めば治るだろう……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

きらめく水面に、思い出は棲む

卯月ゆう
青春
主人公の湊は泳げない。 放課後にひとり練習しているところを、結城すい に見つかってしまった。 彼女の誘いにのって、湊は泳ぐ練習をすることになる。 人懐っこく笑う表情、未だに幼さを感じさせる声。その愛らしさは昔と変わらない。 すいは人魚姫の姿に変身できるという。 不思議なことが起こりつつも、楽しい授業は進んでいく。 交わる過去の思い出。リフレインする恋心……。 きらめく水面に映る、恋のものがたり。

膝上の彼女

B
恋愛
極限状態で可愛い女の子に膝の上で…

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

巨乳です。おっぱい星人です。あれこれお話BOX

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
・本作は(小説家になろう)から引っ越し物(* ̄ー ̄*)  小6でEカップって巨乳の優子(姉)と、小4でおっぱい星人の真治(弟)を中心にしたあれこれ短編の詰め込み場所。ちょっとHでなんでもありまくりな世界。

翠名と椎名の恋路(恋にゲームに小説に花盛り)

jun( ̄▽ ̄)ノ
青春
 中2でFカップって妹こと佐藤翠名(すいな)と、中3でDカップって姉こと佐藤椎名(しいな)に、翠名の同級生でゲーマーな田中望(のぞみ)、そして望の友人で直球型男子の燃得(もえる)の4人が織り成す「恋」に「ゲーム」に「小説」そして「ホットなエロ」の協奏曲

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

内弟子物語 ー捨てきれない夢、武術の究極「活殺自在」を求める5名の青春群像ー

KASSATSU
青春
夢を捨てた人生に意味はないと考え、空手に魅力を感じた青年たちが純粋に若い時を駆け巡る青春群像。個性豊かな登場人物が織りなす毎日を綴る。試合を意識した空手ではなく、武術の究極と言われる活殺自在の境地を目指す過程をそれぞれの視点から描く。若いゆえの悩みを抱えつつも、自身が信じたことについて突き進む様子をユニークなエピソードごと紹介。 謎の過去を持つ師、藤堂真人のところに集まった高山誠、御岳信平、龍田真悟、松池進、堀田賢が武術と癒しという両極を学ぶ中で気付き、成長していく。

処理中です...