記憶の中の彼女

益木 永

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第3話

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  *

 近所にあるいつも遊びに行く公園。ブランコや、滑り台といったいくつかの遊具が置かれるぐらいにはスペースの広い公園でその日は一人で遊んでいた。
 けれど、それはたまたま一人だっただけだ。いつも遊んでいる友だちはその日は用事があってこられなかったからだ。一人で、遊んでいた。ブランコに乗ってギコギコとした音を鳴らしながら左右に揺れ動くのを楽しんでいる。たった一人で遊んでいるのは寂しい筈なのに、けれど自分の動きに答えるようにブランコが動くのがとても楽しかった事を覚えている。
 
 それだけの記憶だった筈だけど。
「ブランコ、楽しい?」
 呼びかけられる。少し高くて、穏やかで安らかな声だった。声のした方へ向くと、そこには

  *

 そこで、目が開く。視線の先にはいつも朝起きる時に見る、天井が。
 ベッドから体を起き上がらせた和也はそのまま、学校へ行く準備を始める。着替え、荷物確認……。
 けれど、頭の中には先ほどの夢がこびりついてくる。
 何故か、自分でもわからないのにずっと覚えていた記憶。その記憶の内容が……書き換わった。そうとしか言えない様な感覚に見舞われたからだ。
 先ほどの夢が、あまりにも鮮烈に脳に焼き付いていた。あの声は、一体なんだったのだろう。
 目を覚ます直前に、聞こえたあの声。自分を呼び掛ける声が今でも脳の中で繰り返し再生されている。今まで何度か思い返す事はあっても、誰かに呼びかけられた事があった訳がない。
 けれど、それを考えている暇もなかった。まずは、今日の出来る事を少しずつ片づけていこう。

 朝の支度を終えた後、和也はカバンを背負って家を出る。
 徒歩でも十分余裕がある距離に高校があるため、時間としては十分間に合う。和也は、高校まで一人で歩いていく。
 
「お~い和也~!」
 校門前で和也は龍に声をかけられる。
「おう、龍。今日もか?」
 今日は、昨日の勉強の続きの事について声を掛けてきたんだろうと予想した和也はそのことについて触れる。
「そうそう! マジでありがたい!」
「……まあ、なるべく一人で頑張れたほうが良いと思うけど」
「いいじゃねーか、人に頼るのも大事だぜ?」
「そうだけどな……」
 勉強に関してはもう少し、自分一人でどうにかしようとしている所を見せてほしい。そう思わずにはいられなかった。
「それに一応、あの後は復習したんだしな、ホラ!」
 そう言って龍はノートを取り出して、あるページを開くとそれをこちらに見せつけてくる。
 そのページは問題や、その問題の解き方。そして、覚えるヒントと言った内容が書かれていた。一見しただけで和也はこのページを見るのは初めてだと気づく。昨日、自分が教えた事を復習するように、そして自分が覚えやすい様に組み替えられた内容とざっくりと見た感じでその印象となった。
「お、ちゃんと昨日教えた事をやってるじゃん」
「だろ? これでも俺だってちゃんと成長しているという事だ!」
 胸を張るように龍は、ノートをリュックの中にしまう。
「それはわかったよ。じゃあ行くか」
 お、おいちょっと待ってくれよ~! と後ろから声が聞こえる。

  *

 そんな形で和也たちは教室へ向かう。
「それにしても、夏が終わって寂しいわ……」
「あんなに遊んでそんなに寂しいのか…?」
「そうだろ! たくさん遊べるのは良いだろ?!」
 龍は相変わらずだ。夏休みが終わった事に対する未練を漏らしている。和也の記憶の限りだと出会う度に何かしらで遊んでいた記憶しかないが……。ゲームしていたり、スポーツしていたり、寝そべっていたり……。
「それに! 疲れる事がないだろ夏休みは!」
「いや遊んだら疲れるだろ……」
 夏休みの良さを力説する龍を他所に和也は少し引き気味ではあった。
 けれど、何となく離れようって気にはなれないとは思いはした。

 教室に着いた後もいつもと変わらないまま。龍やそれ以外の友人と他愛のないような会話をしていたり、授業の準備を行っていたり……だ。別に特筆する事はないだろう。
 放課後の龍の勉強の手伝いは、その中だとちょっと特殊だろう。何時間にも渡って勉強の面倒を見る事になるから、どうしても帰りが遅くなる。
 こういう展開がある度に、徒歩で行けるような場所の高校にしておいて良かったと思う自分がいるわけなのだが……そういう事は考えないでもいいだろう。とにかく、放課後の勉強の手伝いをしている訳ではあるが、早めに終わらせておきたいとおも考えている。
 というのも、無駄に一つの問題に時間を掛けるような場面を見ているとスムーズに問題を解けるようにはしておきたいという事ではあった。それで、昼休みは事前に図書室へ向かって勉強の整理に向かおうとしていた所だったのだが……。
「あ、あれは……」
 図書室に向かう途中、たまたま通った家庭科室の横。そこには、思わず足を止めるような相手が家庭科室の中にいる事に気づく。凛がいた。
 何かに集中しているような様子の凛は、こちらに気づいてもいないようだった。
 窓越しからは何をしているのかはわからない。少し様子は気になるが、わざわざ声を掛ける程でもないとは思った。だから、そのまま家庭科室を通り過ぎて行く事にした。
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