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 ――な、なに、なに?

 ルルーナへ近付く男性。慣れない、ルルーナの体は硬直したが頭の中は冴えていた。待って、ルルーナとこの人は数時間まえにはじめて会っとばかり、それなのにこの状況は一体なんなのだと。

 お互いの唇が、もう直ぐでくっつく。そう思った、ルルーナと男の間に本が一冊あらわれた。

「え、本?」
「チッ」

「誠にお楽しみのところすみませんが。カサリア様、お時間です」

「もう時間がきたのか……」

 この状況を止めたのは、この男性と一緒に来ていたもう1人の男性。

「そんな怖い顔をしないでください。カサリア様、図書館の前に迎えの馬車がきております。……うわっ! ちょっ、僕に向けて魔力を出さないでいただけますか? 万が一、この場を凍らせでもしたら、2度とここへは来られませんよ。それに、これ以上の滞在は図書館へお越しの方々に迷惑になります」

 正論だったのか。

「クッ、わかった。――ところで、君は毒に興味があるのか?」

「毒に興味? ……は、はい」

 少し不機嫌な瞳を細めて隠し、男はルルーナに聞いた。ルルーナは素直にコクっと頷くと。――そっか、好きなんだ。と、男性は口角をあげた。

「この図書館より、僕の屋敷に面白い毒の本と、植物の標本があるよ。明日……いや、2日後に招待状を君の屋敷へ送るね」

 と言い。面白い毒の本と、標本へ食いついたルルーナに男は頬へ素早くキスをして、手をひらひらと振り図書館から去っていった。

(……え? うそっ、頬にキスされた⁉︎)

 婚約者とは舞踏会へのエスコート、軽いハグはあったが……された事がない頬へのキス。あの男は流れるようにキスをしていったから、ルルーナは避けることができなかった。

 男の小さくなる背中を見つめながら、ルルーナはキスをされた頬にソッと指を当てた。

(く、唇ってあたたかくって、柔らかい……あ、でも、もう1人の男性が止めなかったら、あのまま、あの男性に唇を奪われていたわ)

 ルルーナはまだ婚約者がいる。いくら互いに好意がなくても、あの人はルルーナの婚約者だ。図書館に男性がもう1人いたけど。ルルーナは男性と2人きりで過ごしてしまった。

 あの、水色の髪と青い瞳の男性はいったい、何処の貴族の方だったのかしら。それに……2日後、ルルーナへ招待状を送ると言っていた。

(私がお邪魔してもいいのかしら?)


 
 その、ルルーナの耳にキィーンと不快な音が聞こえたの後、ガチャッと鍵が開く音が聞こえた。

(鍵が開く音? いま図書館の施錠が解かれた?)

 しばらく図書館を貸切にした男が帰り、施錠されていた扉が開いたのだ。――いまに人々が図書館へと戻ってくる。ルルーナはそれに気付き、スッと表情を消し、読書スペースで本の続きを読むふりを始めたが。内心はまだ焦っていた。

 は、はじめて男性に頬へキスされて、屋敷へご招待を受けたわ、と。
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