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魔法屋での話③(シエル・ラエル・子犬)

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「ベルーガ、ナタリーのことはわかった。国の状態は今どうなっている?」

「国か……俺を除いて、父上、母上、国中のみんな石にされた」

「あの国王が石化?」
「嘘だよね」

 ベルガーは首を縦にふる。

「父上はそくざに気付き、杖を振って何か唱えて……その後に石化された」

 ふむ、国民になんらかの魔法をかけて、安全を確保してから石化されたのか……陛下らしいな。

「ベルガー、それはいつの話だ?」

「ん、半年前――オレの誕生会のときだ。舞踏会の終盤に差し掛かった頃。いきなり黒い煙が会場に立ち上がった。広間のみんなは宴に酔っていてその隙を突かれた」

 魔力と素質を十分に持つナタリー様。そのナタリー様に魔法を教える者が現れたのか。いくら俺達が魔法を教えようとしても、まったく話を聞かなかった癖にな。
 
 婚約破棄したときも、ベルガーをいいだけ傷付け、泣かせたくせに、こんどは俺たちの国を襲うとは――意味がわからん。

「それで、なぜ? ベルガーは石にならなかったんだ?」

「それはな、俺を可愛い子犬の姿でそばに置きたいと言っていた、王子のオレはうるさいんだってさ」

 ――うるさい? ベルガーは真面目に王妃教育を受けてくれと、話していただけなのに。

「俺には、まったくわからん!」

「僕もわかんないけど。ねえ、ベルガー。ストレーガからこ船を乗らないと来れないのに、よく子犬の姿で船に乗れたね」

 ラエルの言葉に、ベルーガはレジカウンターの上を走った。

「城からな――こうやって走って、走って。王都から離れた港町の貨物船に紛れ込んだ。船内で見つかったけどこの姿が役立ち、船長と船員達に可愛がられて、食事には困らなかったんだ。船を降りても、この国で可愛い子に会えた」

 ――この国の可愛い子? 
 
「親切で優しく、可愛い、ガリタ食堂のルーチェちゃん」

 ルーチェちゃんだと?

「おい、ベルーガ、俺に喧嘩を売ってんのか?」
 
「シエル? そんな恐ろしいこと言うなよ。あの子、寝顔も可愛んだ。モフモフのオレが好きみたい」

「あぁ、好きだと? ベルガー、ルーは可愛いよ。お前が言ったこと全部、俺も知っているぞ!」

「ちょっとベルーガ、兄貴を茶化さないで。兄貴も落ち着いて、濃度の濃い魔力が溢れてるよ。この店がなくなるとルーチェさんが悲しむよ」

 ――それもそうだな。子犬ならいつでもヤレる。
 
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