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「ルー、終わったぞ」

 あ、先輩の声だ。仕事が終わって部屋に戻ってきたんだ……先輩にお帰りなさいを言わないと、ベッドの上でもぞもぞ動いた。

 その直後――ガチャンとお皿が鳴る音が聞こえ。

「ルー、お前は起き上がるな。そのままベッドで寝ていろ」

「なに? 先輩どうしたの? そんなに大声だして?」

 目を擦りながら起き上がりると、ベッドの近くに先輩の背中が見えて、先輩の耳が真っ赤だ。

「ルー、落ち着いて自分の姿をみろ、必ず落ち着いて見るんだぞ」

「落ち着いて、自分の体を見ろ?」

 変な先輩だなぁと自分を見た……あれ、もふもふがない? え、ハムスターじゃない素っ裸の私。

「……きゃっ、元の姿に戻ってる? シエル先輩、見たぁ?」

「うん、ルー、すまん」

 ただ、恥ずかしくて……声にならない悲鳴をあげて、ベッドに潜って先輩にむけて声を上げた。

「せ、せ、先輩、タ、タンスからなんでもいいから、下着を掴んでこっちに投げて!」

「下着か? ……わかった、待ってろ!」

 シエル先輩はタンスから何枚かをごそっと掴み、みないように枕元に置いてくれた。それを掴み、お布団の中でゴソゴソと着替えると、その中に見覚えのない白いシャツがあった。

 こんなシャツあったかな? と着てみると袖が長く、丈も長い、そして薬品の香りがした。

「これ、シエル先輩のシャツ?」

「そうだ、俺ので悪いが、それを着て、あとは自分で着替えてくれっ……これ以上は無理だ」

 みないように背中を向ける先輩の横を、シャツの姿でベッドを抜けでて、タンスを漁り、ワンピースに着替えた。

「先輩、着替えたから、こっちを見ても大丈夫だよ」

 振り向いた、先輩は私の姿のままで頬が真っ赤。

「魔法の効果が、昼過ぎに切れてたんだな。よかった……ルー、どこか辛いところ、痛いところはないか?」

「辛いところ? 痛いところ? うーん、ないかな。あるとしたら、お腹が空いたくらい」
 
 と、先輩の前でお腹をさすった。
 その姿に肩の力を抜く先輩。

「ハハハッ、ルーらしいな。そうだ、店の人に残った食材をもらったから調理してきた」

 持ち上げたトレーの上には、いい香りがする狐色のハンバーグが2つと、野菜、焼きたてのパンが乗っていた。

「うわっ、おいしそう。シエル先輩もいっしょに食べよう」

「いいのか? ルーなら、それ全部ひとりで食べれるだろう?」
 
「それは……食べれるけど。1人より、2人で食べた方が美味しいよ」

 テーブルに先輩と並んで座って、焼きたてのパンにハンバーグ、野菜を挟み、ハンバーガーにして頬張った。

「んんっ、ハンバーグが肉厚で、野菜がシャキシャキ、最高!」

「ほんと美味いな……飲み物は紅茶でいいか?」

 頷くと、先輩はポンと手を叩き、私の姿のまま魔法を使った。それがまるで、私自身が魔法を使ったみたいにみえた。

 ――私が魔法を使ったら、こんな感じなんだ。
 ――自分ではないけど感動した。

「ルー?」

「あれっ、あれれ……」

 いつのまにか涙が流れていた。魔法が好きで、魔法を使いたくても、魔力のない私では使えない憧れの魔法。

「魔法が……キラキラして、ステキすぎ」

 涙が止まらない。ポタポタと頬をながれ続ける涙を、シエル先輩の手が伸びてガサツにハンカチでぬぐった。

「ごめんな、ルー。俺が軽率だった」
「先輩、違う、違うの、これは嬉し涙なんだよ」

「ルー」

「私、嬉しいの。ありがとう、シエル先輩。魔法が使えたら、こんな感じなんだって。絶対に見られなかった姿を、私に見せてくれてありがと」

 興奮して、シエル先輩に抱きついた。先輩は嫌がらずに受け止めて、さらにギュッと抱きしめてくれた。

「ありがとうか。……ルー、ほかの魔法もつかうか?」

「え、いいの? 使ってみたい魔法がありすぎて困るなぁ……あ、ライト、ライトの魔法をつかいたい。そのあと火の魔法、水の魔法……」

 次々と出てくる魔法の名前に、わかったと先輩は頷き。魔法を唱えると、日が暮れてきて薄暗くなった部屋に、丸い魔法の灯が灯る。

 それは前にもらった、一回だけ使える魔法の杖とは違い……ライトの光が部屋中を埋めつくした。

「うわぁ、キレイ、とても綺麗」

「ああ、綺麗だな……ルーが」
 
「え、いま、何か言った?」

「いいや、喜んでもらえて嬉しいよ、次の魔法はどうする? 何をつかう?」

「えーっと、次はね……」

 この日。私が満足するまで、先輩は魔法をつかってくれた。
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