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 ベッドの上で。サロンナばあさんが教えてくれた遮音魔法で音を消して、柑橘系のお香を焚き、魔石ランタンの明かりを灯した。我慢できない……ギシ、ギシ、ベッドの上ではオレの甘ったるい吐息。すでに出したものと、先走りでぬちゃぬちゃ水音。

 遮音魔法は外に音を漏れなくするだけで、自分の音は消えない。"ンン、ンッ! ハァ、ハァ……ああ、クソッ"自分の艶っぽい喘ぎ声など聞きたくなくて、ウサギの長い耳を押さえたくなる。だけど、ヒートが終わるまで発情は続く。

 誰か、誰でもいい。

「欲しい……グチャグチャになりたい、誰かオレを……愛してく……愛して欲しい」

 唇を噛み、熱くなった杭を握り、激しく擦り精を吐きだす。一度の射精では物足りず、繰り返してもこの体の疼きは止まらず、まだ体は火照って熱をもつ。

(そこっ、気持ちいい……んわぁ、おさまんねぇ……んっ、……く、薬……サロンナばあさんさんに貰った薬と、眠りを誘うミンミン草……)
 
 朦朧としながら、オレはジャケットのポケットから抑制剤の瓶を一粒取り出して飲み。眠りを誘うミンミン草の葉っぱを鉢植えから一枚採り、口に放り込み咀嚼した。

(……クッ、にげぇ)

 前まではサロンナばあさんに頼んで、ミンミン草を乾燥させて粉末にしてもらっていた。だが、生の葉の方が速攻に効く。オレは苦い葉を噛み砕き飲み込んで「終われ」「早く終わってくれ」と、ベッドにうずくまり心の中で願った。

「ふっ……ンッ、ンン…………! ハァ、ハ………」

 しばらくしてミンミン草が効き、眠りに落ちる前に「女神のクソッタレ!」と、オレは遮音魔法をかけた部屋の中で叫んだ。

 許せない。

 オレがこんな目に会うのもすべて間違えたあの女神のせいだ。タヤこと、田山淳二(18歳)二年前の暑い夏の夜。深夜のコンビニのバイト帰り、ボロアパートではなくオレは真っ白な部屋にいた。

「あれ、オレの家じゃない? どこだ、ここ? 買ってきたアイスが解ける……とか呑気なこと言っている場合じゃないな」
 
 オレの目の前に女神だと名乗る、サファイアの瞳、白銀の緩やかウェーブの綺麗な女性が、真っ白なソファーに座っていた。その女神は資料片手にオレを見て、眉をひそめた。

『あなた……見た目は可愛いけど男よね? ちょっと案内係り、手元に届いた資料とちがうじゃない。わたくしようやく男ばかりの、ファンタジー部から移動して乙女ゲーム部の担当になれたのに、はじめは女性が良かったですわ……はぁ……まあ、いいわ』

 この人はさっきから、ブツブツ何を言ってんだ?

『不運な事故で亡くなった、あなたに第2の人生をさずけます』
 
『じ、事故? 第2の人生? ちょっと待ってくれよ。オレはバイトの帰り、車同士の事故現場の近くを通っただけだが? ……オレ、死んだの?』

『…………』
『あの話を』 

 オレの言葉は女神の声でかき消された。
 
『うるさいですわ! 黙ってちょうだい! ――いま、あなたの行き先を決めているの、落ち着いて待っていてください!』

『いや、いや待てるかよ。オレは事故現場の近くは通っただけで、その事故にはあっていない! 死んでねぇんだよ!』

『…………ふうっ、悪役令嬢は無理ね。となると、ここはダメね。ここもダメ』

『あ、ああ……まったく、オレの話を聞いてねぇ』

 自分を女神と名乗る女性は。死んでいない、違うと訴えるオレの話をまったく聞かず。ブツブツ言いながら、指先で何かをスクロールする仕草をしていた。

『あの……話を聞いてください、女神さん?』
『うるさいですわ』
『オレの話を聞いてくれよ!』
『終わったら聞くわ』

 しばらくして、女神のスクロールする指が止まった。

『ここなら安心ですわ……ちょっと異色の乙女ゲームだけど……ヒロインの、性別を変えれば男性でもいけるわ。えーっと数日前に送られた先輩の転生者もいるから、いいわね』

『乙女ゲーム? はぃい??』

『これでお願いしたしますわ』

『どうせ行くなら、ファンタジーにしてくれよ!』

『ええ、よろしく』

 女神は目に見えない誰かと話し。オレの話を最後まで聞かず。勝手に事を進めた女神は目を細めて、オレに綺麗なサファイアの瞳を向けた。

『しばらくお待ちください』

 と。
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