女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

3

　調合屋を閉めて、ランタンの明かりが灯る、奥の客間で話は始まった。

　サロンナばあさんの話によれば。この世界にはアルファ・オメガ・ベータの三つの性別がある。アルファは全体の先天的に優れた能力を持つ、王族、稀に貴族など上の者が多く、カリスマ性、リーダ気質。ベータはこの世界の八割以上を占める個体種。優秀なベータは王族の補佐、近衛騎士、騎士団などに務める者が多い。

　その中で、極端に数の少ないオメガは特殊な種だそうだ。オメガは女性のみならず男性でも妊娠ができる。そして、オメガは1ヶ月に一度、数日から一週間程度の発情期が存在する。

『いま、タヤに起きた発情をヒートというんだよ』

　このヒートのとき番を持たないオメガは、アルファを誘惑フェロモンで呼び寄せてしまうらしい。ベータもこのフェロモンに反応するけど自我で抑えられると言った。

（マジか……今の話だと、オレが発情してアルファの男性、女性もフェロモンで誘っちまうのか……）
　
『シンギさん、サロンナばあさんに質問……その発情、ヒートって、月一に確実にくるものなの？』

　その問いに、2人同時に頷いた。

『あぁ絶対にくるから。ヒートがきたら遠慮せず、店は休んでいいからな』

『ほんと？　ありがとう、シンギさん』
　
『いいかい、タヤよくお聞き。オメガはこの国では希少な存在。だから、タヤはこれから気をつけないといけない。オメガは小柄で綺麗だ。何より希少なオメガは金なる。金目的の男共に攫われて変態に売られる』

『さらわれて、変態に売られるのか？』

　変態は避けたいな。

『特に、可愛いウサギ族は狙われることが多い。そうなりたくなかったら、早く番……相手を見つけるんだね』

『弱いウサギ族が狙われる？　オレに守ってくれるアルファの相手かぁ……欲しいけど。もしさ、オレがヒート中に誘って関係を持ったとして。その相手に本命がいたら？　ましてや婚約者、嫁、がいたら……いたたまれねぇ』

（前世、恋人すらいなかったオレが……相手が居てもいいなんて無理な話だ。それにオレは……オレだけを見てくれる人に愛されたい。ただ、自分の欲が満たされたくて……男性、女性、誰でもいいはイヤだな）

『……フフ、タヤはいい子だね』
『サロンナ、タヤはいい奴だ』

　今、口ではそう言ったけど。実際は数日から一週間もの間、あの忌々しいヒートは起きる。……オレにアルファの番ができたら、あの症状は治るのか？

　しかし、そのアルファってのが王族、上級貴族――富豪の中にしかいないのだろ？　平民のオレに高貴なアルファの番は無理な話だな……恋人ができるかも怪しいのに。

　でもさ、オレにも子供が産めるのか。変な気持ちだけど、捨て子だったオレでも家族がもてるのは悪くない話だ。