81 / 110
76
しおりを挟む
チェルの可愛さに力は上がったが。瘴気幻影のワーグは強く、シシと同格の力を持っているように感じた。体をぶつけ合い、戦い傷を負うシシの体と苦しげな声に私の瞳は潤み、辺りの景色をぼやかした。
――ダメダメ、集中しなくては。
「……マ、ママ、痛いの」
「え?」
私の頬をつたい流れた涙がチェルの頬に落ちて、涙に気付いたチェルの小さな手が目から離れ、私の頬を触った。こんな大事なときに泣いてしまうなんて、必死に戦うシシが気にしてしまう……けど、はじめてなの。愛しい人が必死に戦う側で、浄化魔法を使うのは。
(王太子妃のとき、ルールシア殿下は浄化の場所へは来なかった。いつも騎士団に任せていて、私はずっと1人で浄化していたし――私には独学で身につけた魔法しかない)
私は聖女じゃないのだから、いま己の力で踏ん張るしかない。
「大丈夫、ママは大丈夫よ……チェルは目を瞑っていなさい」
止まらなく流れる涙と、震える声での浄化。魔力が足らなくなったら、アイテムボックスから回復薬を取りだして飲み私は浄化し続けた。
どれくらい経ったのかわからないが、ドワーフ達の住処と洞窟の瘴気を払っている。魔力切れを防ぐ為、飲み干した、魔法回復薬の瓶の数が増えていく。
(すざましい怨念……なんて濃い瘴気なの?)
私達の浄化が失敗すれば、ドワーフの住処だけじゃなく。リポの森にまで瘴気は流れ、海の神ポストンの加護の力すら、跳ね除けてしまうかもしれない。
「アーシャ、ワーグの力が弱まった! あと少しだ、がんばろう!」
「わかった、がんばるわ」
シシの励ましの声に力が増す。これで最後にすると袖で涙を拭き、ありったけの魔力を乗せて浄化魔法を唱えた。
グワァ――――――――!
苦しむ雄叫びをあげ、瘴気幻影のワーグの体は黒い霧となり消え、辺りの瘴気は浄化された。――よかった。私たちはやったのだ……私はすぐ、傷付き動けないシシに駆け寄り、回復魔法を唱える。
「【ヒール】」
真っ赤に染まる傷口がふさがり、傷が癒えていく。痛みが癒えて動けるようになったシシに、ポーションを渡した。
「アーシャ、ボクの傷は癒えた。ほら、体だって動くから、そんなに泣かないで……」
シシは、私の前で体を動かす。
「だっで、だっで、シシ……が」
「もう大丈夫だよ、アーシャも疲れただろう」
「……うっ」
こんなに涙を流して泣く私を見たのは、はじめてなのだろう、シシがどうしたものかとアタフタする。そんなシシに私は、チェルを抱っこしたまま抱きついた。
――ダメダメ、集中しなくては。
「……マ、ママ、痛いの」
「え?」
私の頬をつたい流れた涙がチェルの頬に落ちて、涙に気付いたチェルの小さな手が目から離れ、私の頬を触った。こんな大事なときに泣いてしまうなんて、必死に戦うシシが気にしてしまう……けど、はじめてなの。愛しい人が必死に戦う側で、浄化魔法を使うのは。
(王太子妃のとき、ルールシア殿下は浄化の場所へは来なかった。いつも騎士団に任せていて、私はずっと1人で浄化していたし――私には独学で身につけた魔法しかない)
私は聖女じゃないのだから、いま己の力で踏ん張るしかない。
「大丈夫、ママは大丈夫よ……チェルは目を瞑っていなさい」
止まらなく流れる涙と、震える声での浄化。魔力が足らなくなったら、アイテムボックスから回復薬を取りだして飲み私は浄化し続けた。
どれくらい経ったのかわからないが、ドワーフ達の住処と洞窟の瘴気を払っている。魔力切れを防ぐ為、飲み干した、魔法回復薬の瓶の数が増えていく。
(すざましい怨念……なんて濃い瘴気なの?)
私達の浄化が失敗すれば、ドワーフの住処だけじゃなく。リポの森にまで瘴気は流れ、海の神ポストンの加護の力すら、跳ね除けてしまうかもしれない。
「アーシャ、ワーグの力が弱まった! あと少しだ、がんばろう!」
「わかった、がんばるわ」
シシの励ましの声に力が増す。これで最後にすると袖で涙を拭き、ありったけの魔力を乗せて浄化魔法を唱えた。
グワァ――――――――!
苦しむ雄叫びをあげ、瘴気幻影のワーグの体は黒い霧となり消え、辺りの瘴気は浄化された。――よかった。私たちはやったのだ……私はすぐ、傷付き動けないシシに駆け寄り、回復魔法を唱える。
「【ヒール】」
真っ赤に染まる傷口がふさがり、傷が癒えていく。痛みが癒えて動けるようになったシシに、ポーションを渡した。
「アーシャ、ボクの傷は癒えた。ほら、体だって動くから、そんなに泣かないで……」
シシは、私の前で体を動かす。
「だっで、だっで、シシ……が」
「もう大丈夫だよ、アーシャも疲れただろう」
「……うっ」
こんなに涙を流して泣く私を見たのは、はじめてなのだろう、シシがどうしたものかとアタフタする。そんなシシに私は、チェルを抱っこしたまま抱きついた。
50
お気に入りに追加
451
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。
ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。
しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。
ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。
それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。
この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。
しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。
そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。
素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる