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 日が暮れ、街灯が灯るシシカバの街。広場で遊んでいたのか親子で手を繋ぎかえる人々、閉店の作業をする店。――そう、しばらくして酒場が開き、働いた人、冒険者たちが集まる。

 明るい時間と、夜の時間で行き交う人がガラリと変わる。

(酒場が開くまえに、早く帰らないと)

〈アーシャ、コッチ〉

 シシは私を呼び、ひとけの少ない路地にはいると、姿消しの魔法を解き姿を現し。魔法で眠らせたチェルを起こして、夜風に体を冷やさないよう、暖かくなる魔法を私とチェルにかけてくれた。

「暖かいわ。ありがとう、シシ」
「お礼はいらないよ。当たり前のことをしたまでさ」

 鼻をすり合わせ、やさしく微笑むシシ。魔法が解けて目を覚ましたのか、モゾモゾと動き、シシのローブからチェルがボフッと顔を出した。

「チェル、目が覚めた?」
「……あ、ママだ。ママはお仕事終わったの?」
 
「ええ、お仕事は終わったわ。――そうだ、待っていてくれたご褒美に。チェルの好きなローレルのケーキ屋に寄って、家に帰りましょう」

「ケーキ? やった!」

 閉店前のローレルに寄って、ケーキ3つと朝食用のパン、照り焼きチキンサンドを買って私たちは家路についた。

 

 夕食の時間。ローレルで買ったチキンサンドを頬張り、チェルは広場でパパと遊んでいたら、怖い音が聞こえてきたと言った。それはシシカバの街の入り口で、ラルが使用した、魔力を測る魔導具のことだろう――私も冒険者ギルドで耳鳴りがした。

 シシの話では両手に持てるくらいの、大きさの魔導具だと言っていた。私が子供の頃に受けた魔力鑑定の装置は、大人でも運べるような大きさではなかったから、新たに他所の国から買った魔導具なのだろう。

(殿下はそんな高価なモノを買ってまで、私を探している? 浄化の旅には今回だけ出るけど……この小説のヒロイン、ロローナは何をしているのかしら?)

 気になるのなら。私が王城へ出向き確認すれば早い話なのだけど。私は2度と、あの人達には会いたくない。

 ――辛い日々は送りたくない。
 ――寂しいのも、悲しいのもイヤ。
 ――でも、でも。

「アーシャ、夕飯の手が止まってる……考えすぎだ」
「ママ?」

 シシとチェルは食事を終えて、ケーキの準備をしているのに。私はチキンサンドを手に一点を見つめ、シシとチェルに声をかけられるまで――でも、でも、と私は考え続けていた。

(今日、あの人。ラル・ローズキスに会ったからかしら、昔に引きずられる。私には大好きなシシとチェルがいるのに……魔力不足で弱気になっているのかしら?)

 ――そうよ、いつもの私とは違う。

「シシ、チェル……ありがとう。いただきます」

 夕飯のチキンサンドを食べ切り、みんなで好きな苺のケーキを楽しんだ。

 

 お風呂がおわりチェルは部屋で眠り、私とシシの時間がはじまる。精霊の地で魔力が枯渇して、シシに少しだけの魔力を渡された体は――魔力がなくてカラカラで、我慢していた。

「早く、シシ……あなたの魔力が欲しい」
「アーシャは、そんなにボクの魔力が欲しいの?」

 コクコク頷くと。シシからのチュッとイジワルな、軽いキスだけ。それでは足らなくて、自分からもっと、もっととシシにすり寄ると、甘く濃い魔力が流れてくる。

「こ、濃い……濃すぎる。いきなりは理性が飛ぶから……シシ、手加減してよ」

「無理だ。いまのアーシャの姿に興奮してるから、ごめんね。覚悟してね」

 この夜、シシの愛に私は溺れた。
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