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 シシを見せたくなかったのは、受付嬢は私より若いから。もう2度も経験してる、2度あることは3度あるというし。そのことを想うだけで、胸の奥底にしまった想いたちがチクンと痛む。

〈かわいいアーシャは可愛いことを言うね。アーシャがそれを言うなら、ボクはあの男がアーシャに触れた瞬間、いや触れようとしただけで吹っ飛ばしていた〉

(……え、でも、シシならやりかねない)

 それに、いまシシの姿は見えないけど……チェルがみたら絶対に真似をする、悪い笑顔をしているのが分かった。

 もしそうなっていたら、騎士の鎧を付けていようがラルは大怪我をしていただろうし。そんなのを見てしまった、ギルドマスターは私がやったと思う。

〈シシ!〉

〈アーシャ安心して、もしそうなってもアイツとギルドマスターの、記憶を消してしまえばいだけさ〉

 今日のシシはいつもと違う。それに、なぜだがわからないけど、ラルをそうとう嫌っている。もう1人、嫌っているというのならローランお父様もだと思う。――だって2ヶ月前の家族で集まったお茶会で、お父様とチェルの耳を塞いだシシに。離縁後、ラルから結婚の話があった事をお母様と私に「もう時効だろう」と教えてくれた。

『え、ラル様が私に結婚の申し出をした?』
『なんですって! 娘の側にいながら、娘を助けもしなかった、あの男が! 娘と結婚したいと申したのですか!』

 紅茶を飲む手をとめたお母様と言葉がハモるが。なぜお母様が……その事を、詳しく知っているのか不思議に思っていた。お母様が知っていたワケは。結婚をして3年ほど私の専属メイドをしていたメリザさんは、カルアお母様と学園のときからの親友。

 いくら親でも滅多に王城へは来れず、王太子妃となり忙しい私に会うことはむずかしい。カルアお母様は月初に開催される舞踏会で私は笑っているが。先月の舞踏会で会った頃より、疲れた顔を化粧で誤魔化しているように見えた。

 もしかしたら何か辛いことがあるのでは? と心配でメリザさんに手紙を送り、彼女が私の専属から王妃の専属メイドとなってからも、何度も手紙のやり取りをしていたと教えてくれた。

『わたくしは、あの男は嫌いです!』

 花と草木の研究が好きな、優しく、すこしおっとりしたカルアお母様の怒り。それに頷くローランお父様とシシ、みんなに合わせて頷くチェル。

『ありがとう、お父様、お母様、シシ、チェル……大好き』

 ――この日、私は嬉しくて泣いた。



 私たちは冒険者ギルドの応接間で、近衛騎士ラル・ローズキスを見送りに行った、ギルドマスターを待っている。

〈フン! ケガをしたらアイツの自業自得。あの男はアーシャ自身を見ず、あの男が妄想で生み出した幻想的なアーシャしか見ていない。――ボクのアーシャは頑張りすぎ、研究も、魔物も。いつもボクとチェルを優先してくれる。アーシャはボクを頼りにしてくれるけど、ボクに甘えてこない。もっと抱きしめたい……〉

 シシの熱い想い。
 これ以上は照れてしまう。

〈ま、待ってよシシ! 私にしてはシシに甘えていると思うけど?〉

〈ダメだ、もっときてほしい。ボクはアーシャを甘やかしたい〉

 と、シシが言ったと同時に扉がガチッと開き、ギルドマスターが「お待たせしました」と入ってくる。私は瞬時に表情を変えたのはいうまでもない。
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