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 ボクは長に。自分の妻がこの黒い霧を消せる能力を持っている。しかし妻は人間なんだ、この精霊の土地へ足を踏み入れることを許してほしいと伝えた。

 古老の長はひと昔――手のつけれない暴れん坊だったボクに、人間の妻がいることに驚いたのか、瞳を大きくした。

「それでは、シシ様が連れてきた子はあなた様の子供? なんと素晴らしいこと。シシ様のお優しい瞳を見れば、幸せなのが伝わってきます」

「ああ、ボクはしあわせだ」

 愛する、アーシャとチェルが側にいるだけで、ボクの心はあたたかい。

「パパ、おねむ」
「キュ」

 新しいこと、たくさん話したチェル。ボクのところまでひとりでやってきました、モコモコオオカミのナナは疲れたのだろう、いまにも寝てしまいそうだ。

(ここは一旦、家に帰って明日出直すかな?)

 古老はウトウトするナナを咥えて背に乗せ、ボクたちに。

「シシ様、お子様と私の家でしばらく待っていてくだされ。ほかの者たちと話してきます」

 と言った。

 長の家の一部屋に案内され、チェルを寝かせて待っているが、精霊たちの話し合いは長引いているようだ。この地に人間をいれる。それはこの地ができて初めてのことなのか、それともこの地に眠る何か。ボクが生まれる前からあった精霊の地、彼らは力強きボクを様つけで呼ぶが、ボクはこの地について詳しくない。

 

「シシ様戻りました」

 時間にして1時間経ったかな、長が戻ってきた。

「おかえり、話し合いはどうだった?」
「シシ様。みな、この地が平和に戻ることを願いました」

「わかった、今日は日も暮れて呼ぶのは明日の早朝にする。今日は泊まって行ってもいいかい?」

「はい、何もないところですが」

 大地からエネルギーをもらう彼らは食事をしない。長は、ボクたちが食べられる果物を持ってきてくれた。

「ありがとう、チェルといただくよ」

 長は「何かあったらお呼びくだされ」と、部屋を出ていった。ボクはアーシャへ手紙を書くため人になり、ハコから紙とペンを取り出し。この地への足を踏み入れる許可をもらったこと、今日はこちらに泊まると書いた手紙をフクロウで送った。

 数分後、フクロウがアーシャの手紙を持ってきた。その手紙には「わかった、明日の早朝向かいます。シシ、チェル、良い夢をと、別に寂しくないから……」強がりがわかる手紙が返ってきた。

(なんて可愛いボクの妻なんだ。それに……この手紙から、アーシャの香りがする)

 それだけで、ボクはチェルを連れて家に飛んで帰り、アーシャを抱きしめて眠りたい。

 ――けっきょく、ボクの方が寂しいのかな。

「パパ、ママが来たの?」

 眠っていたチェルが、手紙から香ったアーシャの香りを感じて、目を覚ました。

「いや、ママからの手紙がきた。ママは明日の早朝にコチラにくるよ。――チェル、お腹すいていないかい?」

「すこし、すいた」
「じゃ、パパと一緒に食べて寝よう。これで顔と手を拭くんだよ」

「はーい」

 チェルはコクンとうなずく。ボクはハコから、アーシャが準備した、魔法保護付きの濡れタオルをチェルに渡し。ボクも新しいタオルで手を拭き、長からいただいた果物の皮を剥きはじめた。
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