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二十四

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 不意にカイザーの手がふれ「平気かい?」と聞く。リリはそれにすばやく反応できなかった。早朝――辺境地から馬車に揺られて妹の披露宴に向かっていた。リリは見慣れた景色をみて――伯爵家に近づいているのだとわかり、表情がくもっていった。

 カイザーの言葉にもうわのそらで、なにか考えている。
 その、リリの頭の中では。

(カルランお義母とミサエラは、カイザー様に失礼なことを言わないかしら。あの二人かなり失礼だもの……)

 リリはそればかり考えていたのだ。しかし、カイザーは黙るリリをみて、自分の先祖返りのことを考えているのだとおもった。

 もう一度。

「平気かい?」

 と聞くと、今度はやく反応がかえり。

「はい、私は平気です……あの、お義母様と義妹が失礼なことをカイザー様にいうかもしれません。そのときは私がきっちり反論いたします!」

 力強くこたえたリリに。あっけにとられるカイザー。先ほどから、なにか考えたり、不安げなリリの姿は――なんと、自分の姿のことではなく。

 ――僕の心配をしていてくれたのか。

「ありがとう、リリ。せまい馬車の中じゃなかったら、キミを思いっきり抱きしめられるのに」

「カ、カイザー様! …………フウッ、抱きしめられたい」

「……!」

 リリはカイザーの名前を呼んだあと、心の中だけでつぶやいたと思っていたのだが。反対側にすわるカイザーが横をむき照れはじめた。

 その姿を見てリリは気付く。

 ーー私、尻尾だけではなく。また、心の声が口にでてしまったのね。


「カイザー様……あ、いい、本音をいってしまい……淑女らしからぬ発言……恥ずかしいですわ」


 照れる顔をかくそうと目をふせても、尻尾はブンブンゆれる。もしかするとカイザーは抱きしめてくれるかもと、期待して。

「ほんねか、嬉しいな。狭い馬車の中だけど僕の膝に乗るかい?」

「いいのですか?」

 ひとみを輝かせて、即答するリリと尻尾。

「フフッ、いいよ。おいで」

 カイザーに両手を広げてよばれて。リリは遠慮せずに膝のうえに座った。

 リリは知ってしまったのだ。
 好きな人のそばが、こんなにも安心できると。

 しばらくカイザーの胸に寄りかかっていた。まぶたを閉じたリリは「はやく、あなたのものになりたい」寝言のような本音をカイザーにいい残して、スヤスヤ寝入ってしまう。

 それを聞かされたカイザーは「僕もだよ」自分の腕のなかで眠るリリにそっと囁きかけた。すると、リリが微笑んだようにみえた。

 愛おしくてたまらない。

 なにがあっても守らなくては、体を預けて眠るリリをみてカイザーは心に誓った。







 三時間ほど前。王都の貴族たちがこぞって予約して式をあげる。由緒正しい教会で家族だけでルーズベルトと式を挙げた。

 ほんとうは見栄をはりたくて、たくさん人を教会に呼びたかったが。披露宴のドレス、料理などを豪華にして結婚資金が尽きてしまい。三十分しか教会を借りれなかったのだ。

 ーー家族しか招けなかったけど、素敵なところで式をあげれたわ。

 伯爵家に戻り――昼過ぎから始まる披露宴の準備をしながらミサエラは笑っていた。今日ーー鬼がいる辺境地にいったお姉様が来る。わたしとルーズベルトの豪華な披露宴を見て、羨ましがるがいいわと。
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