上 下
5 / 16

4話

しおりを挟む
 朝食に釣られて、居間に向かった私が見たものは。食卓に並ぶ、おかかとしょうゆのおにぎりと焼きたらこのおにぎり、大根おろしが乗った卵焼きだった。

(この朝食、おばあちゃんが作ってくれていた朝食に似てる)

 今は仕事が忙しくてヨーグルト、塩むすび……コンビニだけど。「朝は、たんと食べなさい」と言って、このおにぎりとお味噌汁、卵焼きの朝食とおばあちゃんは作ってくれた。

 私は懐かしくなっていた。ガラッと音を立てキッチン側の襖が開き、味噌汁をお盆に持ったモフモフの耳と尻尾の男性と。きゅうりの漬物を持った、モフモフの男の子も入ってくる。

 男性は出来立ての大根と油揚げのお味噌汁を、食卓に並べて。

「来たな。さぁ食べながら話そうか、座って」
「は、はい」

 お揃いの甚兵衛を着て、食卓に並んで座った男性と男の子の前に座った。

「いただきます」
「いただきます」
「……いただきます」

 手をあわせて「いただきます」と食事前のあいさつのあと。私は好きな卵焼きを一口大にきって口へと運ぶ。この卵焼きは甘く、お出汁のきいていた。

「おいしい、おばあちゃんの味に似てる」

 あまりにも、味が似ていてポロッと口から言葉が出してしまう。その言葉に、男性は鼻で笑い。

「だってその卵焼き、梅ばぁさんのレシピだからな、似ていてあたりまえだ」

 と言った。……いま男性が言った梅ばぁさんとはーー秋内梅子(あきない うめこ)私のおばあちゃんの名前。私が高校生の頃、事故で両親を亡くし。この家で一人暮らしの、母方のおばあちゃんに引き取られて。

 私はお母さんの旧姓、秋内サツキになった。


 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

メメント・モリ

キジバト
キャラ文芸
人の魂を管理する、人ならざる者たち。 彼らは魂を発行し、時が来ると回収をする役を担っている。 高岡(タカオカ)は回収を担当とする新人管理者。彼女の配属された課は、回収部のなかでも特に変わった管理者ばかりだとされる「記録管理課」。 記録管理課における高岡の奮闘物語。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

東遊鬼(とうゆうき)

碧井永
キャラ文芸
 巫祝(ふしゅく)とは、摩訶不思議の方術(ほうじゅつ)を駆使する者のこと。  隠形法(おんぎょうほう)や召鬼法(しょうきほう)などの術の執行者であり、本草学(ほんぞうがく)をはじめとする膨大な知識を蓄えている巫祝・羽張(はばり)龍一郎(りゅういちろう)は、これまでに祓ってきた多くの「鬼(き)」を役鬼(やくき)として使役している。  過去に財をきずいた龍一郎は現在、巫蠱呪(ふこじゅ)で使役しているウサギと仲よく同居中。  人語を解してしゃべるウサギと好物のたい焼を取り合ってケンカをし、鬼を制御するための水盤をひっくり返してしまった龍一郎は、逃げてしまった鬼を捕まえて劾鬼術(がいきじゅつ)をかけなおす日々をおくっている。 【第一話】自称・ライターの各務理科(かがみりか)がもたらした大学生・久多羅木紲(くたらぎきずな)の情報をもとに、雨のごとく金が降る幻を見せる鬼を追う。 【第二話】理科からペア宿泊券を譲り受けた龍一郎。旅先で、高校生・田井村鈴鹿(たいむらすずか)から女性が誘拐されて妊娠させられている話を聞き、苦手とする鬼・袁洪(えんこう)の仕業と見抜く。 【第三話】話は一年ほど遡る。大好物のたい焼をウサギと取り合った龍一郎は、鬼を制御するための水盤をひっくり返してしまう。たい焼がきっかけで、まだ大学生の理科と知り合いとなり、理科の先輩が巻き込まれた牡丹を巡るトラブルは花妖(かよう)が原因と判断する。 【第四話】温泉の一件で損害を被った龍一郎は、その補填をさせるべく袁洪を使役中。またも理科がもち込んできた話から、紫の絹を織る鮫人(こうじん)のしでかしたことと気づく。 【第五話】時は、龍一郎が字(あざな)を羽張(うちょう)と名乗り、大陸で暮らしていた頃までさかのぼる。自然と向き合い独学で修練を積んだ羽張は渡海に憧れている。本草学の知識を活かし不老長生薬を研究するようになる羽張は、貴族の依頼を受け、民を苦しめている龍の飼育人と相対することに。呼び出した袁洪を連れ、鬼の弾劾に向かう。  龍一郎は鬼を捕まえるたびに多くの情報をウサギに与えながら、まったりと生きていく。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし学園

盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。

オネエさんとOL

有坂有花子
恋愛
三次元の男はもういいやと思っていたOL、付き合いたてのオネエさんとブリ鍋を食べながら仕事の愚痴を聞いてもらう お正月明け早々、上司に怒られた結は傷心のため、幼なじみの林太郎に連絡を取る。 林太郎はいわゆる『オネエ』で、結と付き合い始めたばかりだ。 林太郎の家を訪れた結だったが、迎えてくれた林太郎は誰かとくだけた様子で電話中だった。

処理中です...