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2話

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 注文を受けて、手早く薄く縦長に切られる玉ねぎ、一口大の鶏肉。男性は店で作るときに使う親子鍋(おやこなべ)ではなく。フライパンに出汁、醤油、みりん、砂糖をいれて火にかけた。

(フライパン? それなら、私にも作れるかも)

 甘辛いつゆの香りがふわりと店の中に香る。そのつゆが煮立ったら、玉ねぎと鶏肉を入れてときどき返しながら火を通す。

 おばあちゃんも私が疲れて帰ってきたとき、甘辛しょうゆ味の汁だく親子丼を作ってくれた。濃いめの味でご飯が進み、おかわりして食べていた。

 食べたくなっても、もう食べれないおばあちゃんの味。ノートに書いたおばあちゃんが作ってくれた料理のレシピ。時間のあるときに、なんど挑戦しても、私にはその味にはならなかった。

 ロールキャベツも同じだ。
 庭に建つ屋敷様も味が濃い、薄いと怒っているかも。

「ご注文の親子丼とロールキャベツ、ビールお待ちどうさま」

「美味しそう、いただきます」

 甘辛しょうゆ味の親子丼……これ、おばあちゃんの味付けに似ていた。味の濃さも同じ、ロールキャベツはと食べてみる。

(コンソメ……これも、おばあちゃんの味に似てる)

「うれしい、美味しい……」

 求めていた味に似ていて、知らずに泣きがながら食べていた。そんな私を男性と女の子は何も言わず見守っている。

 美味しい、美味しいと親子丼をかきこみ、赤味噌の豆腐と揚げの味噌汁。きゅうりの漬物も美味しい。まわりを気にせずロールキャベツもかじる。無我夢中で食べ終えて、キンキンに冷えたビールを飲んだあとから記憶がなく。

 目覚めると自分のお布団で寝ていた。

(あれ? 自分の部屋で……昨日の会社の帰り、スーツのままだ)

  そんな私の右手首に見知らぬ、組紐の朱色のブレスレットが付いていた。
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