上 下
57 / 75

56話

しおりを挟む
 朝食に向かうからシュシュと、アオを呼びに向かった。部屋から「おう」っと、アオは眠そうな顔を覗かせた。ベッドが合わなかったのか、あまり眠れていないみたい。

「アオ君、眠そうだけど、ベッドが合わなかった?」

「いいや、よく寝たよ」

 わかりやすい嘘をつくアオに、カサンドラは話を聞こうと思ったけど……素直に話してくれる訳ないかと、聞くのを諦めた。まだ王都までは長い、馬車の中で眠ればいいともカサンドラは思った。

(人の国で緊張しているのかしら? 何も、教えていただけないのは……少し悲しいけど仕方ないわね)

「シュシュ、アオ、朝食に行きましょう」
「おう、腹減った」
「行きましょう、お腹空きました」

 カサンドラ達は宿屋の大広間で、ビュッフェスタイルの朝食を終えた。そろそろチェックアウトの時間を迎え、カウンターでお礼と鍵を返して。宿屋前で御者が準備を終えた馬車に、カサンドラ達は荷物をしまい乗り込む。

「アオ君、シュシュ、宿屋に忘れのは無いかしら?」

「んー、ないな」
「私も、ありません」

 出発の合図を出すため、中から紐を引き、御者に声をかけた。

「本日もよろしくお願いします、出してください」

「かしこまりました」

 緩やかに走り出した馬車。アオは乗ったすぐに眠り、カサンドラは地図を開き、これからの馬車の道を確認した。

 シュシュと相談して昼食はパスタが美味しい、クローネの街で取ることに。夜は王都の近くのシチューの美味しい、ワルクの街で一泊して――翌日、王都に入都する予定を立てた。

 ――早く、王都に到着すればいいけど、まだ何があるかわからない。みんなと王都観光もしたいけど、安全が1番だ。

 だが、カサンドラの心は王都観光を待ち侘びている。ズッと、屋敷と王城だけを行ったり来たりしていた。そのため、10歳の頃から8年ものあいだ通ったのに、王都にどのような店があるか、カサンドラは知らなかった。

 本当なら、友達を作りケーキ屋巡り、流行りのコスメ、ドレス見てまわりたかった。だけど、皇太子の婚約者というだけで誰も近寄らない。近寄ってくるものは、カサンドラを蹴落とそうとする者ばかり。

 ひとたりとも、気は抜けなかった。

(ふうっ。それに……アサルト皇太子殿下の婚約者のときは隣国の言語、貿易、嗜好品、覚えることが多すぎて、景色を眺めることも出来なかった……)

「ドラお嬢様、クローネの街に着きましたら起こしますので、少しお眠りになりますか?」

「そうね、街についたら起こして」
「はい、かしこまりました」

 外の景色を眺め、カサンドラが気を落ちしたと気付き、休むように優しい言葉をかけてくれたシュシュに、カサンドラは心の中で「ありがとう」と感謝して目を瞑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

陰謀は、婚約破棄のその後で

秋津冴
恋愛
 王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。  いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。  しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。  いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。  彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。  それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。  相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。  一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。  いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。  聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。  無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。  他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。  この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。  宜しくお願い致します。  

あなたに未練などありません

風見ゆうみ
恋愛
「本当は前から知っていたんだ。君がキャロをいじめていた事」 初恋であり、ずっと思いを寄せていた婚約者からありえない事を言われ、侯爵令嬢であるわたし、アニエス・ロロアルの頭の中は真っ白になった。 わたしの婚約者はクォント国の第2王子ヘイスト殿下、幼馴染で親友のキャロラインは他の友人達と結託して嘘をつき、私から婚約者を奪おうと考えたようだった。 数日後の王家主催のパーティーでヘイスト殿下に婚約破棄されると知った父は激怒し、元々、わたしを憎んでいた事もあり、婚約破棄後はわたしとの縁を切り、わたしを家から追い出すと告げ、それを承認する書面にサインまでさせられてしまう。 そして、予告通り出席したパーティーで婚約破棄を告げられ絶望していたわたしに、その場で求婚してきたのは、ヘイスト殿下の兄であり病弱だという事で有名なジェレミー王太子殿下だった…。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◆エールありがとうございます! ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆なろうにも載せ始めました ◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

婚約破棄ですね、わかりました。

織田智子
恋愛
婚約という名の搾取。 やっと逃れられますね。 定番婚約破棄ものです。 初めて書くもので、結構雑なところがあるかと思いますが、 ご了承ください。 9/4 変な終わり方のまま完結にしてしまっていたため、 一話追加して完結にしました。 後の出来事は、 ご想像にお任せします(笑) 読んでいただき、ありがとうございました。

巻き戻りした令嬢はあなた達を許さない!

にのまえ
恋愛
 婚約者が持ってきた、毒入りクッキーを食べて死んだわたしは巻き戻りした。  わたしの死もだけど、無実の人に罪をなすりつけたのは許さない!

処理中です...