27 / 75
27話
しおりを挟む
チロちゃんは泣き止み、笑ってくれた。
(アオ君には悪いけど、可愛い子は笑顔が一番ね!)
パン屋の開店準備の手伝いをカサンドラ達は、チロちゃんに教えてもらいながらお手伝いをしていた。そこにチロのお母様の診断を終えた、お祖母様と旦那のスズが戻ってくる。
スズはチロちゃんに今からみんなで大切な話があるからと、「ママの様子を見ていてあげて」と頼んだ。わかったとチロちゃん頷き、お母様のところに向かったのをみて、カサンドラ達はパン屋のイートインスペースの、テーブル席に腰掛け話を始めた。
「お祖母様、チロちゃんのお母様のご病気がわかったのですか?」
「ああ、分かったよ」
お祖母様の診断でチロのママの病気は、ロンヌの花の毒花粉による炎症。その症状は体がだるくなり、熱が出て風邪に似た症状を引き起こす。いますぐ治療しないと熱は下がらず、衰弱していくとお祖母様は話した。
「妻は風邪ではなかったのですね。それで魔女様……妻の病気はどうしたら治るのでしょうか?」
「治療薬はスルールという柑橘系の果汁を飲ませれば、症状は時期に軽くなる」
「スルールの果実? 初めて聞く、アオはスルールを知っているか?」
スズが隣のアオに聞くと、アオは頷く。
「あぁ、知ってる。確か国の西にそびえるミソギ山に実る、オレンジ色の果実じゃなかったかな? 果実が実っている場所までは分からないけど」
そうアオがスズに伝えると、彼は眉をひそめた。
必要なスルールの果実はカーシン国の西にそびえる、ミソギ山という山に実る。二人はその山の事を知っているみたいだけど、スズは眉をひそめたまま、腕を組んで黙ってしまった。
「しかし、タヌっころはよくスルールを知っていたね。もしスルールが見つかったら果実を絞って飲ませるか、皮を乾燥させてチップスにして食べるか、お茶にしても症状に効果はあるよ」
「魔女様、是非ともオレ達はフルールを手に入れたいのですが……ミソギの山の奥は瘴気により強いモンスターが出ると聞きます。お力をお貸しできませんか?」
「無理だね、わたしは診察までしかしない。あとは自分達でなんとかしな」
アオはお祖母様の厳しい一声で、グッと押し黙る。
「……スズさん、冒険者ギルドに依頼を頼んだ方がいいですね」
「いや……アオ、私では冒険者に払う、依頼金すら払えない。一緒にミソギ山に行かないか?」
「一緒に⁉︎ オレだって行きたいけど無理だ。ミソギ山に行くには最低でもレベル50以上必要だ――レベル35のオレでは足手纏いだ」
「そうだよな、私も……レベル50には到達していない。だが、妻の病状が良くなるなら……」
「無理だ、死ぬぞ」
その、アオの話にカサンドラはゴクリと息を呑んだ。
スズとアオの二人の話では、冒険者ギルドにクエストを依頼するには依頼金と補償金、報奨金がいる。レベルが上がれば上がるほど、かなりの額がいる。
そして、お祖母様が言ったスルールの果実は……カーシンの王都、国中の市場に稀にしか入荷しない幻の果実。
(スルールを手に入れるのは、中々難しい)
チロのお母様の病状を治す手掛かりが見つかっても。
スルールは簡単には手に入らないと、肩を落とし落ち込むスズ。
その、スズにカサンドラは話しかけた。
「でしたら、私が条件付きで、金額すべてお支払いいたしますわ」
と、ガタッと音を立てて、胸に手を当て立ち上がった。
「カ、カサンドラ様……それは本当ですか?」
「えぇ、本当よ」
にっこり笑い、コクリと頷くカサンドラ。
「そ、それで……カサンドラ様、その条件とはなんでしょうか?」
「フフ、スズさん私が出す条件は難しいですわよ。その条件は! 私とシュシュの冒険レベルを5にあげて、生のスライムを見せることですわ!」
カサンドラの出した条件にスズとアオは口を開けて、唖然とした表情を浮かべた。
(あら、難しい条件だったのかしら?)
カサンドラは焦った。
「それがダメでしたら……パンの作りを教えてくださる?」
と、条件を変えようとしたが。
スズが違うと首を振る。
「いや、いや、ダメとかではありません。カサンドラ様、そんなに簡単な条件でよろしいのですか?」
(あれが簡単?)
「まぁ、シュシュ簡単な事ですって! 私、早くレベルを5に上げて生のスライムがみたいですわ!」
「私もです、ドラお嬢様」
カサンドラとシュシュの余りの喜びように。
スズは瞳に涙を浮かべながら、アオと笑った――その様子をお祖母様は優しげに見つめていた。
(アオ君には悪いけど、可愛い子は笑顔が一番ね!)
パン屋の開店準備の手伝いをカサンドラ達は、チロちゃんに教えてもらいながらお手伝いをしていた。そこにチロのお母様の診断を終えた、お祖母様と旦那のスズが戻ってくる。
スズはチロちゃんに今からみんなで大切な話があるからと、「ママの様子を見ていてあげて」と頼んだ。わかったとチロちゃん頷き、お母様のところに向かったのをみて、カサンドラ達はパン屋のイートインスペースの、テーブル席に腰掛け話を始めた。
「お祖母様、チロちゃんのお母様のご病気がわかったのですか?」
「ああ、分かったよ」
お祖母様の診断でチロのママの病気は、ロンヌの花の毒花粉による炎症。その症状は体がだるくなり、熱が出て風邪に似た症状を引き起こす。いますぐ治療しないと熱は下がらず、衰弱していくとお祖母様は話した。
「妻は風邪ではなかったのですね。それで魔女様……妻の病気はどうしたら治るのでしょうか?」
「治療薬はスルールという柑橘系の果汁を飲ませれば、症状は時期に軽くなる」
「スルールの果実? 初めて聞く、アオはスルールを知っているか?」
スズが隣のアオに聞くと、アオは頷く。
「あぁ、知ってる。確か国の西にそびえるミソギ山に実る、オレンジ色の果実じゃなかったかな? 果実が実っている場所までは分からないけど」
そうアオがスズに伝えると、彼は眉をひそめた。
必要なスルールの果実はカーシン国の西にそびえる、ミソギ山という山に実る。二人はその山の事を知っているみたいだけど、スズは眉をひそめたまま、腕を組んで黙ってしまった。
「しかし、タヌっころはよくスルールを知っていたね。もしスルールが見つかったら果実を絞って飲ませるか、皮を乾燥させてチップスにして食べるか、お茶にしても症状に効果はあるよ」
「魔女様、是非ともオレ達はフルールを手に入れたいのですが……ミソギの山の奥は瘴気により強いモンスターが出ると聞きます。お力をお貸しできませんか?」
「無理だね、わたしは診察までしかしない。あとは自分達でなんとかしな」
アオはお祖母様の厳しい一声で、グッと押し黙る。
「……スズさん、冒険者ギルドに依頼を頼んだ方がいいですね」
「いや……アオ、私では冒険者に払う、依頼金すら払えない。一緒にミソギ山に行かないか?」
「一緒に⁉︎ オレだって行きたいけど無理だ。ミソギ山に行くには最低でもレベル50以上必要だ――レベル35のオレでは足手纏いだ」
「そうだよな、私も……レベル50には到達していない。だが、妻の病状が良くなるなら……」
「無理だ、死ぬぞ」
その、アオの話にカサンドラはゴクリと息を呑んだ。
スズとアオの二人の話では、冒険者ギルドにクエストを依頼するには依頼金と補償金、報奨金がいる。レベルが上がれば上がるほど、かなりの額がいる。
そして、お祖母様が言ったスルールの果実は……カーシンの王都、国中の市場に稀にしか入荷しない幻の果実。
(スルールを手に入れるのは、中々難しい)
チロのお母様の病状を治す手掛かりが見つかっても。
スルールは簡単には手に入らないと、肩を落とし落ち込むスズ。
その、スズにカサンドラは話しかけた。
「でしたら、私が条件付きで、金額すべてお支払いいたしますわ」
と、ガタッと音を立てて、胸に手を当て立ち上がった。
「カ、カサンドラ様……それは本当ですか?」
「えぇ、本当よ」
にっこり笑い、コクリと頷くカサンドラ。
「そ、それで……カサンドラ様、その条件とはなんでしょうか?」
「フフ、スズさん私が出す条件は難しいですわよ。その条件は! 私とシュシュの冒険レベルを5にあげて、生のスライムを見せることですわ!」
カサンドラの出した条件にスズとアオは口を開けて、唖然とした表情を浮かべた。
(あら、難しい条件だったのかしら?)
カサンドラは焦った。
「それがダメでしたら……パンの作りを教えてくださる?」
と、条件を変えようとしたが。
スズが違うと首を振る。
「いや、いや、ダメとかではありません。カサンドラ様、そんなに簡単な条件でよろしいのですか?」
(あれが簡単?)
「まぁ、シュシュ簡単な事ですって! 私、早くレベルを5に上げて生のスライムがみたいですわ!」
「私もです、ドラお嬢様」
カサンドラとシュシュの余りの喜びように。
スズは瞳に涙を浮かべながら、アオと笑った――その様子をお祖母様は優しげに見つめていた。
15
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
妹に虐げられましたが、今は幸せに暮らしています
絹乃
恋愛
母亡きあと、後妻と妹に、子爵令嬢のエレオノーラは使用人として働かされていた。妹のダニエラに縁談がきたが、粗野で見た目が悪く、子どものいる隣国の侯爵が相手なのが嫌だった。面倒な結婚をエレオノーラに押しつける。街で迷子の女の子を助けたエレオノーラは、麗しく優しい紳士と出会う。彼こそが見苦しいと噂されていたダニエラの結婚相手だった。紳士と娘に慕われたエレオノーラだったが、ダニエラは相手がイケメンと知ると態度を豹変させて、奪いに来た。
婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…
【完結】妹ざまぁ小説の主人公に転生した。徹底的にやって差し上げます。
鏑木 うりこ
恋愛
「アンゼリカ・ザザーラン、お前との婚約を破棄させてもらう!」
ええ、わかっていますとも。私はこの瞬間の為にずっと準備をしてきましたから。
私の婚約者であったマルセル王太子に寄り添う義妹のリルファ。何もかも私が読んでいたざまぁ系小説と一緒ね。
内容を知っている私が、ざまぁしてやる側の姉に転生したって言うことはそう言うことよね?私は小説のアンゼリカほど、気弱でも大人しくもないの。
やるからには徹底的にやらせていただきますわ!
HOT1位、恋愛1位、人気1位ありがとうございます!こんなに高順位は私史上初めてでものすごく光栄です!うわーうわー!
文字数45.000ほどで2021年12月頃の完結済み中編小説となります。
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢の私、リリアーナ・クライシスはその過酷さに言葉を失った。
社交界がこんなに酷いものとは思わなかったのだから。
あんな痛々しい姿になるなんて、きっと耐えられない。
だから、虐められないために誰の目にも止まらないようにしようと思う。
ーー誰の目にも止まらなければ虐められないはずだから!
……そう思っていたのに、いつの間にかお友達が増えて、ヒロインみたいになっていた。
こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのーー!?
※小説家になろう様・カクヨム様にも投稿しています。
【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。
西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。
路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。
実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく―――
※※
皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。
本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる