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 私は婚約者のレオーン様に恋をしていた。
 そして何よりも、王子に愛されている世界一、幸せなお姫様だと思っていた。

「リリア」
「あ、ダメです。レオーン様」

 ダンスレッスン後。誰もいないホールの隅……ここからだと廊下を歩く人には見えない、死角に追いやられる。

 目の前の王子はもうその気のようだ。

「まって、レオーン様」

 嫌だと言っても彼は聞かない、むしろ強引に攻めてくる。

「はぁ? なんだよダンスの練習中にキスしたいって、おねだり顔をしていたのはお前だろ、リリア?」

「違う……」

 彼の瞳には欲望が滲んでいる。
 ダンス中の真面目な表情が素敵で、つい、いつもよりも見つめた。いつもはしっかり王子をしている貴方が、いまはオオカミさんで困るわ。

「リリア、ダメか?」

 リリア……貴方に名を呼ばれるだけで、私が逆らえなくなるって知っていて、わざと名前を呼ぶなんて酷い。

「なあ、キスさせろよ、リ、リ、ア」
「あっ、待って!」

 強引に顎を持ち上げて、噛み付くよくに私の唇を奪うあなた。拒めない私はあなたの乱暴なキスに溺れていた。


「もう、レオーン様ったら信じられない」


 帰りの馬車の中で叫ぶ。私の隣に座った、付き添いのメイドは崩れた髪を直している。最後まではしなくても、あんなに激しいキスをするなんて、彼の熱い吐息に熱い瞳……好き、レオーン様。

 お父様に花嫁修業もせずに、あんな事をしていると知れたら、叱られてしまうわ。

 でも、レオーン様の。あの瞳に見られると逃れられないの。

 
 また、また別の日。

「リリア……俺から離れることは許さないから、ほら呼べよ俺の名前を呼べ」
「レオーン様」
「違うだろう」

 首を舐め上げられ噛まれる。ぞくっとする快感が押し寄せる。

「やだ、そこは噛まないでレオーン」

 あぁ、この痛みも幸せ。


 次の日、衝撃が待っていた。


「うそ……学園に行けない」


 昨日、レオーン様に首を噛まれた跡が消えていない、支度をしにきてくれたメイドも、後ろで困ってるのがわかる。

 でも、跡は首の後ろの方だから髪を下ろせば隠せるかな?

「こういう髪型にしてください」

 メイドに指示を出す。

「はい、リリアお嬢様」

 二つ結びにして髪を下ろして、白粉を塗ってなんとか隠れたかな? あんなにくっきりと首に跡が残るなんて、初めてのことだ。

 レオーン様の婚約者になったから、郊外にある屋敷からだと何時間もかかるからと、お父様は王都の近くに、小さな私専用の屋敷を買ってくれた。

 そこから学園に通い、王城に花嫁修業にも馬車で通っている。

 何も変わらない幸せな日々。
 私はレオーン様に愛されていると、思っていた。
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