寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

文字の大きさ
上 下
98 / 99

九十六

しおりを挟む
 タリナお母様を呼びに向かったナサ。
 マリーナお母様はわたしに近付き、

「ねえ、リイーヤ、旦那様を驚かせましょう」
「え?」

「フフッ、舞踏会のドレスに着替えましょう」

 ちゃんと正装してきたナサに反して、わたしはワンピース姿だった。
 
「わかりました、お母様。着替えますわ」

 ナサが迎えに出たっている間に、ミリアさんに預かってもらっていたドレスを取りだして、お母様とミリアさんの手を借りて、ドレスとお化粧をした。

 数分後ーーミリア亭にナサはお母様とお兄様を連れて戻ってくる。店に入り真っ先にわたしのドレス姿に気付いた。

「リーヤ? ドレスに着替えたのか……いいな、とても綺麗だ」

「ありがとう。ナサも騎士の服にあってる」

「シッシシ、そうか? 一応、作ってあったんだが……なかなか着る機会がなくて、クローゼットの奥にしまってあったのを引っ張り出してきた」

 コッソリ……所々、シワシワだが気にしないでくれ"シッシシ"と笑った。


 お互いの両親の顔合わせ。
 モーリスお父様とマリーナお母様、カートラお兄様、アトール弟君は、ナサの家族がユーシリン国の王妃と皇太子だと紹介されて驚く。

「ユーシリン国の王妃と皇太子殿下か……」

「ちょっと待て、ユーシリン国の騎士団は守りも攻撃も強いと噂で聞いたことがある……へえ、亜人達の国だったのか? 今度、その国の騎士と手合わせをお願いしたい」
 
「はい、僕も!」

 お兄様と弟君は強き人と戦いたいと、ナサのお兄様にお願いし始めた。二人に押されて困り顔のなさのお兄様に、

「カートラ、アトール! それは国から後日、ユーシリン国に手紙を送りなさい。騎士同士の訓練の話はそこからだ!」

 リルガルド国、国王陛下の近衛騎士のお父様にたしなめられて、お兄様と弟君は"失礼しました!"と頭を下げた。

 いま、わたしがドレスを着ているのかというと。
 国が違うーーわたし達、両方の親が揃うのはなかなかないことだと。わたしの両親とナサの家族の前で『家族だけの結婚式を挙げましょう』と、マリーナお母様が提案したのだ。



 ミリア亭のホールでナサの腕を組み並び、神父役のお父様の前で誓いの言葉を言う。

「新郎ナサ、あなたはリイーヤを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「では、新婦リイーヤ、あなたはナサを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「いまここに新しい夫婦が誕生した、おめでとう! さあ、誓いのキスをしてくれ!」

 ナサはわたしを見つめて、優しくキスをした。


「「「ナサ、リイーヤ、おめでとう!!」」」


 家族に『おめでとう』と祝福された結婚式……幸せで、嬉しくって涙がポロポロと落ちる。ナサはすかさず、ハンカチでその涙を拭いてくれた。

「結婚おめでとう、ナサ、リーヤ……何もないけど。私からの祝いだ!」

 と、厨房で見守ってくれていたミリアさんは、トレーにワインとチーズ、サンドイッチを待って現れた。

「ミリア、ありがとう」
「ミリアさん、ありがとうございます」

 家族と一緒の、幸せな結婚式だった。



 舞踏会、国王祭をやっている場合じゃないとーー王城の騎士達はある人物を探していた。

「……ガレーン国の守り神が消えた」

 しかし、神と名前は付くものの。

 その扱いはひどく……地下牢に手枷と足枷をつけ、逃げられないように国の魔術師達によって、何十もの結界が張られていた。

 神に与える食事は質素、身なりなども例えられておらず、服の替えすらない。


 ーーその神が、牢にいれられて二百年。


 人ならば、この世からとっくの昔にくたばっているが、その神は生きている。遠くから声をかければ声聞こえて、本などを要求してくる。

『神よ、国に結界をお張りください』

 頼まれて、神は亜人と国の境の結界を張っていた。
 その日ばかりは、豪華な食事が来ることを知っていた。


 その者は神というか北の地を守る守護竜。
 竜の旦那ーーその竜の力は大地を揺るがすほど……

『守護竜として、北全体の大地を"守り""祈り"を捧げる為に結界を張らなかった。ーーまさか守護竜の地に人が踏み込むとはいままでにないこと…………こんな牢、出ようと思えばでれる……幼い余の嫁が力を持ち育つまでの百年、いや二百年の間はここにいた方が良いか……いま嫁が人間に捕まれば簡単に殺されてしまう』

 番がなくなれば余は怒り狂い、北の大地を滅ぼしてしまう……それはあってはならない。そのため、彼は幼い嫁を守る為に、抵抗せず人に捕まった。

 余達ーードラゴンの寿命は長いが、不死身ではない……ゆえ、自分がここにいる事で幼い嫁を守れると彼は思っていた。

 ーーしかし、それが、のちに強制召喚でモンスターを呼び寄せ、他国を反滅し、人を殺める事になるとは竜旦那はこの時、思ってもいなかった。

(早く会いたいものだ……)



 その神が牢を破り雄叫びとともに国から消えてしまった。アレがいないと国を覆うほどの結界は人には張れない。北区から亜人達がやってきて人を襲うかもしれない、住む土地、税を安くして、ガレーン国を襲うモンスターの盾としている。

 騎士団よりも安い金で亜人隊という強力な部隊を、危険な北区の門にほとんど休みなく配置させてもいる。

「至急に、神を見つけろ!」

 ガレーン国の国王陛下は命令する。

 それはーー公になってはいないが。ここ数ヶ月の間にガレーン国だけではなく、各国もモンスター被害にあっていた。小物から中物モンスターが国を襲う事件があったのだ。

 公にならなかったのは、モンスターの来襲は一度だけだったからだ。


(旦那、この国にいない……次の国、探す)


 竜嫁は国を周りモンスターを強制に呼び寄せ、モンスターを使い王都の中を探し回っていたーーしかし、どの国にも旦那はいない。ーー次にとガレーン国にワーウルフを呼ぶも倒されてしまった。だから中型、大型へとモンスターが強くなっていった。

(どうして、この国の中には入れない? もっと、強い骨をつかわないと……)

 そして、強き者として呼ばれたのがナサの父だった。



 ーー北の大地の奥の巣。

(嫁が自分の為に罪を犯した……その罪を償う)

 そばで眠る嫁ーーその横で守護竜は元の姿に戻り祈る、亡くなってしまった者のために、使用したモンスターの骨たちに、それは長く、余の寿命が尽きるまで祈る。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。 ※本編はマリエルの感情がメインだったこともあってマリエル一人称をベースにジュリウス視点を入れていましたが、番外部分は基本三人称でお送りしています。

処理中です...