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八十六

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 顔を上げると、ナサのお父様はわたしを見て目を細めて頷いた。

「ナサをよろしく。しかし、君の瞳はまったくワシたちを恐れていない、少し不思議な気持ちだな……こんなに綺麗な子がナサの嫁になってくれるとはな。ナサ、大切にするなだぞ」

「はい、幸せにします」

 みんな笑い和んだ雰囲気。そこに近くで大勢の足音が止まった音がして、コチラに向かって走ってくる音がした。

 走ってくる人物を見た瞬間、お父様は満面の笑みで立ち上がると、両手を広げた。そのお父様の胸に『ドン!!』と衝撃音とともに何かぶつかった。

「フォール!」
「タリナ!!」

 受け止めた相手はナサのお母様だった。
 わたしの他のみんなは気付いていたらしく、普通にしているけど、わたしは驚きで隣にいているナサのシャツを握った。

「シッシシ、お袋、親父のことが好きだったからな、こんなんでもなきゃ、死んじまった親父と会えなかったよな」

 と、涙ぐむナサ。

(ナサだって、お父様のこと大好きなのに)

 抱き合った二人と、そのお母様の後に続いてやってきた大勢の亜人たち。その中で立派な鎧を身につけて、先頭に立つ一人の男性が声を上げた。

「何故⁉︎ 十年前に亡くなったはずの父上がここにいる。ナサ、これは一体どうなっているんだ?」

「よっ、兄貴。……前に手紙に強制召喚について書いたろ、それなんだ。親父は何者かに強制召喚されたんだが、精神力が高くて操られていないみたいなんだ」

「アレが、強制召喚というものなのか……」

 ナサより細身のトラの獣人が近付いてきた、その一人をナサは兄貴と呼んだ。

(この方がナサのお兄様……挨拶しなくてはと思っても、今はナサとお父様のことを話をされているし)

「ん、こちらのお嬢さんは?」

「最近送った手紙に書いた、オレの嫁のリーヤだ。シッシシ、可愛くて驚くだろう?」

 ナサにギュッと抱き寄せられる。
 そして、ナサと同じ琥珀の瞳が、わたしを優しげに見つめた。

「ほんとうだ、可愛い。……弟に先を越されてしまうとはな悔しいな」

「それにしても、連れていた人数が多くないか?」

「母上が懲りずにもう一度、ガレーンに行くと言って聞かないからな、予定していた人数の倍にしたから三十人はいる。寝るとこと食料はこの辺で野営をするから安心してくれ」

「アサトたちも夜間は、北門の警備にいるから安心だ」

 と話しているところに鎧を身につけた、カートラお兄様とランドル様が到着した。

「これは一体どういうことだ?」
「報告の内容とは違いますね」

 北門に大型モンスターが現れたとの報告が寄せられた。そのためガレーンの騎士団は国王陛下、王子、訪れた貴族を守り、アトールは両親についていると言った。



「騎士団の誰一人、北門に向かおうとしなかったから、俺達がきた。アサトかナサどういう状況か説明してほしい」

「わかった、俺が説明する」
「こちらで話しましょう」

 離れた場所でアサトとロカは、お兄様達に事情を説明しはじめた。二人はその内容に驚き、信じられないといった表情を浮かべた。

「はあ? 強制召喚されたが強すぎて自我を持っている? さすが亜人の王だな」

「そうですね、強制召喚を跳ね除けることもできたはずなのに。家族に会いたくてきてしまうなんて前代未聞です」

「ーーそれで、あの方を呼んだ召喚士はどこにいるんだ? みんなで探したのか?」

 カートラお兄様の問いにアサト達、ナサは『アッ!』と声を上げる。親父、国王陛下との再会に沸き、そのことを忘れていたのだった。



「すまん、忘れていた」

 アサト達とナサは辺りを見回し、
 カートラお兄様とランドル様ほ顔を見合わせて、

「ランドル、俺たちで近くを探してみるか?」

「そうですね、一連の強制召喚の騒動を起こしたものでしょうから、捕まえなくてはなりません」

 動き出したわたしたちに、ナサのお母様と再会を喜んでいた国王陛下は近くの茂みを指さしして、

「ワシを呼んだ召喚士を探しておるのか? 奴なら、そこに隠れておるぞ」

 と言った。
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