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七十九

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 昼下がり、ミリア亭で今からやってくるみんなの仕込み中に、年配のトラの獣人の女性がカランコロンとドアベルを鳴らしてやってきた。

 女性は出入り口で、

「ここに、リーヤというお嬢さんが働いているって、聞いたのだけど?」

 訪れた女性は気品のある声と、乗馬服といった身なりをしていた。そのときわたしは厨房で今日のみんなのお昼に使用する、小麦粉の生地を薄くフライパンで焼いていたのだ。

「私が話してくるから」

 と、手の離せないわたしに変わり、ミリアさんは厨房をでて、ソファー席で訪れた女性と話し始めた。

 ミリアさんは頷き。

「わかりました、リーヤにお客だよ」
「は、はい、いま行きます」

 テーブルに向かうと、

「この女性がリーヤに話があるって、私はコーヒーいれてくるね」

 ミリアと変わり、わたしはその女性がいるソファー席に座った。前に座っていたのはナサと同じ、トラの獣人の女性だった。

「わたしに話とは、なんでしょうか?」

「あなたがウチの子と結婚した、リーヤさんね」

 うちの子? まさか。

「え、ナサのお母様ですか?」

「はい、ナサの母。タリナ・ユーシリンです」

「初めまして、わたしはリーヤと言います。ナサと結婚しました」

(……彼女、ユーシリンって言ったわ。ナサが手紙を送った故郷だと言っていたところ。……まさかこの人は獣人国の王妃だとしたら、ナサは王子なの?)

 ナサが王子ーーだからダンスが上手かったり、王族について詳しかった。

「フフ、手紙に書いてあった通り、綺麗な方。今年に入りナサから好きな人ができたと、手紙がきて。次にその子も自分を好きだと言ってくれたと。今度その子と結婚したいと。ありがとうリーヤさん、わたくしの不憫な息子ナサをよろしくお願いします」

「……お母様」

 女性の琥珀色の瞳から涙が溢れた。
 でもナサを不憫な息子? と言ったわ。

 少し、お母様と話がしたい。

「ナサと結婚できて幸せです。こちらこそ、これからよろしくお願いします……それで、あの、少し話を聞いてもよろしいですか?」

「話? ……ええ、どうぞ」

 彼女はハンカチで涙を拭き、わたしの聞きたいことがわかったのか、少し困った表情で微笑んだ。

「もしかして、ナサのほんとうの名前は……ナサ・ユーシリンと言い、ユーシリン国の王子なのですか?」

「ええ、昔はその名前でした……いまは、ナサです」

「えっ!」

 わたしが驚くと。
 ナサのお母様は微笑み、一呼吸おくと話してくれた。

「ナサがナサになった理由はーーいまから五年前より前のことです。わたくし達ユーシリンはガレーンとの戦争で敗れました。勝者の国、ガレーン国王は報復を恐れて我が国の三人の王子から一人、国に人質を出せと申されました……ナサがこの国に来た理由です」

 ナサのお母様の話は衝撃だった。
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