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七十六

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「リーヤ、どうしてそれがわかったんだ?」
「そ、それは……あ、」

 ナサとのお散歩が嬉しくって忘れていたけど……皇太子の密偵だっけ? わたしって見張られているんじゃない。

(もしかして、今も近くにいるの?)
 
「……ナ、ナサ、この話はミリア亭に戻ってから、は、話してもいい?」

「リーヤ?」
「?」

 辺りをキョロキョロしだしたわたしに、ナサはフッと笑った。

「忘れていて、いま思い出したか? フフ、二人着いてきて、いま赤い屋根の下でこちらを伺ってるよ」

「ウゲッ、さっきからする、この気配とイヤな匂いってやっぱりそうなのか……店の中でコーヒーをいれる、ナサ、リーヤちゃん待合室に行こうぜ」

 聞こえるよう、声を出したルフに。

「そうだな、リーヤも行こう」
「ええ」

 ルフの馬貸し屋の待合室に移動して、ナサと二人掛けのソファーに座ると、ルウがコーヒーしかないがと奥のキッチンに入っていった。

 そんなルフの背中を見送り、ナサは一息付き。

「ルフの奴、ワーウルフの事で騎士団に色々言われていたんだな……オレの仲間を疑うなんて許せねぇ。クソッ、知っていれば対処したのに」

 と、ナサは悔しそうな表情で頷いた。


「そう、だからだよ。俺の為にすぐに怒って手が出るだろ? そうやって自分の立場を悪くするなよ」

「はあ? オレは別に気にしない」

「それは前までだ、コレからは大切な嫁を守らないとな。はい、リーヤちゃんコーヒーどうぞ」

「ありがとう、いただきます」

 ナサはわたしをジッと見て

「ルフの言うとおり、そうだな」
「だろう……そして、リーヤちゃん」

 ルフがコソッと……"皇太子の密偵はいま外に移動した"と教えてくれた。

(もう、すごくイヤ!)

 嫌なのがすごく顔に出ていたらしく、ナサとルフがわたしを見て笑った。そして、ナサとルフは示し合わせたように頷き。

 ナサは履いていたブーツを脱ぎわたしを抱えて、姿を戻して、馬小屋の中を抜けて奥のルフの家まで忍足で向かった。

 ルフも同じようにソッと後を着いてくる。
 部屋に入って、ナサとルフは顔を見合わせて、フッと笑った。

 ーーそして、しずかに耳を立てて音を聞き。

「よし、奴らに気付かれずに移動できたな」
「ハハハッ、俺たちは忍足の天才だからな」

 "まっ、何もないけど適当に座って!"と言われて、革張りのソファーにナサと座った。


 
 皇太子の密偵をまいて、ルフの家でわたしはどうして、ワーウルフを夫婦だと思ったのかを二人に話した。

「初めに一回り小さなワーウルフの魔法陣を割ったとき、体の大きなワーウルフ怒りは尋常じゃなかったわ。最初は仲間? だと思ったのだけど、怒りが違ったの」

 ウンウン頷く二人。

「だからあのワーウルフは夫婦じゃないかと思ったわ。……それでね、ここからがわたしの意見になるのだけど。あの夫婦のワーウルフを呼んだ召喚士は二体同時に骨を手に入れた? じゃーどこで? あの亡くなった骨の収集家だとしても。その収集家はどこで? て、考えていくうちに、この思考が怖くなってしまったの」

 ナサとルフの喉がゴクッと鳴る。

「リーヤの言うとおり、スゲェ怖いな。……おい、嫌な考えしか浮かばないぞ!」

「そうだな、ナサ。骨を手に入れるために殺したか、土葬だから、眠っていた墓を掘り起こしたかだな……朽ち果てていたとも考えられるが、この話はありうるから怖いな」

 ルフはブルブルと体を震わせた。
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