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六十三

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 普段と変わらない日常。そこにあなたが加わるだけで、わたしの毎日に花が咲く。……わたし、ナサに恋をしているのだわ。

 二度目の恋は一人じゃないの。

 それが嬉しくて仕方がない。
 顔がにやけていると、ミリアさんに言われる。



 ミリア亭のお休みの午後。

 その方はいきなりミリア亭に姿を見せた。それはナサ達、みんなとローストビーフ丼をいつものように、からかわれ食事をしていたときだった。

 亜人隊のみんなしか来ないはずの扉が開き、カランコロンとドアベルを鳴らした。そこに現れた人物に驚くわたしと、店の前あたりから気付いていたのかみんなは平然と食事をしている。

 でも、その表情は"また来たのかよ"と分かるくらい、嫌そうに眉をひそめて、リヤとカヤはプルプル震えてナサに引っ付いた。

「やぁ、また来たよ。リイーヤ嬢」
「…………皇太子殿下、いらっしゃいませ」

 また、外に多くの警備騎士、総隊長と第一部隊長を連れてきたらしい。

 それを見たミリアは厨房で苦笑いを浮かべる。

「また、皇太子殿下は騎士団総隊長さんと第一騎士隊長さを連れて来たのかい? それで、定休日の店になんのようだい?」

「騎士団との訓練後で腹が減った、ぼくにも何か作ってくれないか? リイーヤ嬢」


 突然の指名


「えっ、私がですか?」


 今日はミリアさんのお手伝いだけで、何も食材を準備していない。お手伝いを終えてナサの隣でのんびり昼食を食べていただけ。

「ダメかな?」

 いまは公爵令嬢ではなく、この国で平民として暮らすわたしにガレーン国の皇太子殿下がそう言うのはずるい。断れば目の前にいる騎士に切られてもおかしくない。

「今日はミリア亭は定休日だから、リーヤもお休みで、料理を作るのは無理な話だ」

 ナサの物言いに第一騎士隊長は腰の剣に手を置いた。ナサも、ナサで、お前が剣を抜くんなら、やってやるというオーラをかもし出している。

 それを止めるべく、アサトは立ち上がり深く頭を下げた。

「皇太子殿下、その様な無理を言ってはリーヤが困ります。ここで食事をしたければ、先に伝えておくのが当たり前ではありませんか?」

「なんだと、貴様!」

「ほんとそうだよ。今日は定休日で仕入れも亜人隊の分しか入れていないし、リーヤは私のお手伝いに来ているだけだよ」

 ミリアは厨房から出て来て、ローストビーフ丼を三つ、怖がるリヤとカヤから離れた奥のテーブルに置いた。

「今日はこれを食べて、今度からは平日か休みの日の前に連絡を入れてください」

「そうか……ぼくが悪かった。来るときには今度から連絡する。それと一週間後に開催される舞踏会のパートナーになって欲しい」

 皇太子殿下はカウンターにいるわたしの前に手を出して誘った。わたしは席から立ちスカートをもってカーテシーした。

(料理を作るだけならいいけど、舞踏会のパートナーは困るわ)

「皇太子殿下のパートナー出来ません。わたしはパーティーには両親、兄弟で参加をしますが……すでに皇太子殿下の婚約者候補を辞退しております。そして、知っているかと思いますが、わたしはリルガルド国で離縁しております」

 貴族にとって離縁は傷物となる、もう一度お嫁に行くのでさえも難しい。そのわたしが皇太子のパートナーを務めたら婚約者候補として、舞踏会に呼ばれている令嬢達は黙ってはいないだろう、

 皇太子殿下のパートナーなんて、考えるだけで恐ろしい。

「リイーヤ嬢、ぼくは離縁など気にしない」

「訓練場にて頬を赤らめ皇太子殿下を真剣に思う、令嬢達のことを考えてあげてください」

「ぼくは強い女性が良い」

「では、騎士団に所属する女性騎士から選ばれては? 彼女達はわたしよりもはるかに強いです」

「それはそうだが、ぼくは……」

 決着の見えない二人の会話にナサが割って入る。

「無理なものは無理な話だ。リーヤはオレの番、人族で言う婚約者でオレの嫁になる。なんでオレの嫁が人様の誕生会のパートナーなんて、しなくちゃいけなんだ?」

 そう言いきると、わたしを後ろから抱き寄せた。ナサの機嫌が悪く、皇太子殿下達に『グルルルルッ』と威嚇もしている。ここでナサと対峙すれば皇太子殿下と騎士達は敵わないだろう。……そう悟ったのか殿下の横に立つ総隊長は皇太子に耳打ちした。

 グッと皇太子は眉をひそめる。

「……ここは我慢です。皇太子殿下、次回は私がここに連絡を入れます」

 第一部隊長そう言うと、

「わかった、店主に用意してもらったローストビーフ丼とやらを食べて帰ろうか」

「はっ!」

 彼らは何事もなかったかの様に奥のテーブルに着き、食事を始めた。
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