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六十一

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 きょうのお昼過ぎ、ミリア亭は賑やかだった。

「ミリア、見て、見て、リーヤに貰ったハンカチのここにね、僕とリヤの刺繍がしてあるんだ!」
「うん、お揃いなの」

「どちらの私も素敵です、リーヤありがとう」
「リーヤ、ありがとな」

 さっきは騎士団がいるからあまり騒げなかったといい、みんなはミリア亭にやって来てから、嬉しそうにハンカチを広げた。


「「クッキーも美味しかった!」」

「どういたしまして、喜んでくれて嬉しい!」

「シッシシ、ありがとう。リーヤ」

 そして、お返しとリヤとカヤは白い花のヘアピン、ロカには花柄がついた手鏡、アサトにはピンクの花が可愛いタオル一式を貰った。

「みんな、ありがとう。大切に使うね」

「オ、オレからはこれだ、開けてみて」

 そう言い、ナサに渡されたのは手のひらサイズの箱、開けてみると花の髪飾りだった。

「銀細工の髪飾り、琥珀色の石が綺麗だわ」

「リーヤの髪伸びてきたろ? 安物だから気にせず使ってくれ」

「うん、大切に使うね」

 出来たてのビーフストロガノフを持って、厨房から出てきたミリアはにっこり微笑み。

「へぇ~、綺麗な髪飾りだね。やるじゃん、ナサ」

「ミリア、ハ、ハンカチを貰ったお返しだ!」

「お返しにしては、結構良いものじゃない?」
「バッ、安物だ!」

 ナサはミリアにからかわれてタジタジ。それを側で眺めていたら、下からくいっと袖を引かれて、リヤとカヤに手招きをされてその場にしゃがんだ。

「ナサはね、ミカの店でジックリその髪飾りを選んでいたよ」

「そう、そう、尻尾を揺らして。こんな風に腕を組んで、リーヤにはどれが似合うかなって」

「そうなの?」

 うんうん、二人は頷き。可愛いおしゃべり君たちはニコニコと話しだす。

「僕たちがリーヤに渡す物が決まったのに、早くって呼んでも」

「待ってくれ、二つまでに絞ったが、どっちがいいか迷ってんだ……好きな子にあげるんだから、二つとも買っちゃえばいいのにね」

「そうそう、買えばいいんだよ」

(……好きな子)

「誰が好きだって? リヤ、カヤはまた、リーヤに余計なこと言ったな!」

 ジロリと上からリヤとカヤを見つめるナサ、二人の話を聞いているうちに、ミリアとのやり取りは終わっていたようだ。

「うわっ、逃げろリヤ!」
「逃げるぞ、カヤ!」

 カヤとリヤは店の中を逃げ回り、ナサが追いかけたけど、チョコチョコ動き回って捕まらない。

「ナサ、怒らないでよ。僕たち嘘ついていないよ、本当のことだもん」

「そうだよ。リーヤはナサの好きな子なんでしょ」

 ナサは二人を捕まえるのに必死だったのか。


「あぁ、そうだ! リーヤが好き、好きすぎで、なにか悪いか!」


(ナサがわたしを好き?)

 それを聞いた、アサトが手を叩く。

「おい、聞いたか! ナサが遂にリーヤに告白しとぞ!」

「あぁ、私のリーヤが」
「誰がロカのだ!」

「やったぁ!」
「やったぁ!」

 みんなは喜び、声を上げる。
 わたしはナサに盛大な告白をされた。

「リーヤ?」
「えっ?」

 そんなわたしの瞳からポロポロと涙が溢れていた。
 手の甲で拭いても拭いても、涙は止まらない。

「あ、れれ?」

 ナサからの告白……この想いに気付いてから、少しずつ想いを重ねてきた。好きな人からの告白は、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
 
 これは、一方通行じゃない両想いの恋。

(心が熱い)

 でも、みんなは焦りだした。

(そうだよね、この涙がどんな理由で流れているのかは、知らないんだもの)

 一番、焦ったナサの大きな手が優しく、わたしの頭を撫でる。

「泣くな、リーヤ……こんな告白になったが、オレは本気だ」

 わたしは涙でグシュグシュな、ままで、

「うえぇっ、なしゃ、うれじぃ……初めでぇ、本気で好きって言われたにょ」

 二年前の初恋は心に大きな傷を残し。
 結婚してからの二年間は、一人ぼっちで寂しかった。

 一方通行の恋が、寂しい恋が、いま溶けていった。
 わたし、ガレーン国に来てよかった。

 ナサに会えて良かった。
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