上 下
61 / 99

六十

しおりを挟む
 あの日からみんなは、わたしとナサをからかう。

(照れてはするけど、嫌じゃなかった)

 ナサが好きか? とみんなに聞かれれば嫌いじゃないとすぐに言える。ナサの大きな手が好き、大きな口、もふもふな体、笑った顔、半獣のナサも気になる存在。



 今日はミリア亭の休みの日。ナサとのダンス練習、朝食の後戻って戻った訓練場に、わたしは出来上がったハンカチと昨日焼いたアーモンドとプレーンクッキを持って向かっていた。

 息を切らして訓練場に着くと、

「こい、チビども!」

「いくぞ、リヤ!」
「わかった、カヤ!」


 ナサの声にカヤとリヤはクローを構えた。そして地面を蹴り、盾を構えるナサに二人同時に斬りかかる。

「動きはよくなったが、切り込みが遅く、甘いぞ! そんなんじゃいつまで経っても、オレの間合いに入って来られんぞ!!」


「「うわぁ!」」


 二人はナサの絶対防御の盾に阻まれて、後ろに吹き飛ばされる。転んでも、飛ばされても、負けずに斬りかかるリヤとカヤも頑張ってる。

(すっ、すごい、迫力)

 次にナサはロカの魔法攻撃も盾で跳ね返した。目が離せなくて、ゴクリと自分の喉が鳴ったのがわかった。

 鼓動はドキドキしてうるさい。
 ナサは斧を構えた、アサトを挑発する。


「アサト、来いよ!」


「いいぜ、俺の攻撃に吹っ飛ばされないよう、しっかり構えろよ、ナサァ!」

 アサトの斧が盾にぶつかり、ガギッとぶつかり合う音が訓練場に鳴り響いた。前にも見たけどニ人の練習は半端ない、わたしが立っている柵の所まで彼らの風圧が飛んでくる。

 何度か二人はぶつかり合い、アサトがニヤリと笑う。

「なんだぁ? 前より、いい面構えになったな。守りたいもんができたからかぁ?」

「当たり前だ! 守りたい、前の様な……あんな怪我をさせたくないし、見たくもねぇ、絶対に守り抜く!」

「ハハッ、よく言ったな! ……後は、いまそこに来てる、リーヤに直接言えよ」

「へっ?」

 アサトに言われてバッとナサがこっちを向いた。ドキッとして、隠れようとしたけど柵の近くまで来ていて、わたしには隠れる場所がなかった。

 わたしを見てナサの頬を赤くするから、釣られてわたしまで照れる。その気持ちを抑えて、みんなに聞こえをかけた。

「ご苦労さま、もうすぐ休憩?」

 亜人隊に声をかけたわたしを同じ訓練場で訓練をする、騎士団と騎士団を見学に来ている女性達が物珍しげにみる。

 アサトは少し考えて。

「そうだな、休憩にするか?」

「だっら、みんなに渡すものがあるの」
「リーヤ、ハンカチできたのか? 早く見せてくれ」


 盾を持ったままナサがこちらに嬉しそうにかけてくる。そんな彼を見て、ハンカチの出来栄えは? クッキーの味は? と……渡すまえに緊張が走る。

(大丈夫、たくさん練習したじゃない)

「オレのはどれだ?」

 尻尾をブンブン揺らし、嬉しそうに聞いてくる。
 わたしはカゴの中からラッピングをした、ナサのハンカチとクッキーを取り出した。

「これが、ナサのハンカチとクッキーだよ」

「ありがとう、嬉しい」

 ナサに渡したハンカチの柄はラベンダーと、自分で描いたナサのトラの似顔絵の刺繍。ナサはラッピングのリボンを解き中を見て、目尻が下がる。

「この刺繍はオレだ! シッシシ、可愛いな。ありがとうリーヤ、クッキーいま食べていい?」

「どうぞ、ナサのはアーモンドクッキーを多めに入れたから」

「ほんと、いただきます」

 集まって来たみんなにもラッピングした、ハンカチとクッキーを渡した。みんなもハンカチに施した刺繍を喜んでくれた。

(頑張ってよかった)

「リーヤ、このアーモンドクッキー美味い」

「よかった。足らなかったら、まだあるからね。みんなどう?」


「「美味いよ!!」」


 みんなの声が重なった。







 休憩中のみんなとおしゃべりしながら、多めに持ってきていたクッキーを摘んでいた。一人の騎士団がこちらにくる姿が見える。

「リイーヤ、来ていたのか」
「リモーネ君、おつかれさま」

「他の騎士達が隣で珍しく騒ぐ、亜人隊に気を取られているから、もしかしてと思ったら、リイーヤが来ていたのか」

「うん、みんなにハンカチとクッキーを渡したの……あっ、ごめん……みんなでクッキー食べちゃって、三枚なら残ってる……けど」

 残りのプレーンクッキを見せた。
 リモーネは手を前に出して、

「いいや、挨拶しにきただけだから気にしなくていい」

 そのとき『きゃーっ!!』と、女性陣の方から黄色い声が上がった。前、訓練場に来た時よりもご令嬢の数が多い……ということは。

「もしかして、皇太子殿下が訓練場に来ているとか?」
「そうだ、ここに訓練に来ているよ」

「だから、ご令嬢の数が多いのね。そろそろ、リモーネ君も戻ったほうがいいよ」

 リモーネ君に騎士団側に戻るように促した。
 それはさっきから、リモーネ君のファンらしきご令嬢達に、ギロッと睨まれているから。

「……ん? ああ、そうだな。また明日、ミリア亭で会おう」

「うん、またね」
 
 リモーネ君が騎士側に戻ると、彼のファンらしき令嬢達が近寄り、頬を染めてプレゼントの入ったカゴを渡していた……リモーネ君もモテるのね。

「リーヤ、話は終わった? 残りのクッキー食べちゃってもいいか?」

「一枚は残して、わたしも食べる」
「シッシシ。またさ、クッキー作ってくれる?」

「いいよ、クッキー作りが凄く楽しかったの。今度はチョコチップクッキーとか、他にも挑戦したいクッキーがあるわ」

「そうか、楽しみだな!」

 ナサは嬉しそう笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。

なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。 7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。  溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...