54 / 99
五十三
しおりを挟む
「ナサ、コレ、しまってくる」
「お、おお」
寝室に紐パンをしまって戻ってくると、ナサはダイニングテーブルのそばで、ソワソワしていた。
(それも、そうかも花柄のハンカチだと思って拾ったら、わたしの紐パンだったのだもの。洗濯はしてあったらかいいけど)
今度から気をつけなくっちゃ。
「ナサ、お腹空いたね」
「あ、ああ、食べようか」
「コーヒーのお砂糖とミルク、足りなかったら言ってね。何かほかいる?」
二人して意識してしまい、普段通りの会話ができないでいる。
「いいや、パンがあるからいいよ。……ところで、この猫カップはお揃いなのか?」
ナサが話題を変えてくれた。
それは二つ揃う、猫のコーヒーカップ。
「そうだよ、ミカさんの雑貨屋で買ったの。見てナサ、猫の絵と尻尾が持ち手になっていて可愛いの。いま使っている、お皿を取りに行ったときに見つけて、衝動買いしちゃったんだ」
「へぇ、か、可愛いけど……オレが使って、よかったのか?」
あ、お揃いだから気にしたのかな?
「別にいいよ。一緒に使う人なんていないから、遠慮なく使って」
「シッシシ、そっか。だったら、遠慮なく使わせてもらうよ」
嬉しそうにコーヒーを飲み、買ってきたパンを食べながら、ナサはみんなの話をしたり、出身地の話をしてくれた。ナサの出身はガレーン国から西の端にある、ネネ森の中にある小さな獣人の国で、特産物がラベンダーだとも教えてくれた。
毎年、初夏には国中、ラベンダーの花が咲くらしい。
「中々、国に帰れないけど、スゲェ綺麗なんだ」
と語る。ナサの瞳はここから遠い、故郷を思い出しているようにみえた。
「一度、見てみたいわ、ラベンダーっていい香りだもの。前にナサから貰った傷薬の香りが気に入って、ラベンダー石鹸を買っちゃった」
「へぇー、それで今日はラベンダーの香りがしていたんだな……傷薬とは違う香りだから、そうかなって思ってた」
「え、傷薬とは香りが違うの?」
「ああ、ラベンダー石鹸はラベンダーの香りが強いんだ。傷薬は傷を癒す薬草が入っているから、その匂いとラベンダーの香りがするんだ。でも、普段のリーヤは今日とは違う石鹸を使ってるだろ?」
「え、違う石鹸?」
(……ナサはそれまでわかるの?)
いつもはミリア亭で食べ物を扱うから、匂いの少ない石鹸を使っている。今日はダンス練習でナサと体を密着させるのから、ラベンダーの石鹸に変えたんだけど。
「でもよかった。いくら仲が良いナサでも、汗の香りがしたら嫌だったから」
ナサはコーヒーを飲みながら、
「ん? それは大丈夫だぞ。リーヤからは……甘、ああ、あ、、……いや、なんでもねぇ」
ナサは"わたしから……"の後に何か言おうとしたけど『しまった!』みたいな表情を浮かべて、手で口元を隠した。
「ナサ、わたしからの後は、何を言おうとしたの?」
「コレは言えねぇ。前にアサトとロカから、その事をリーヤに言ったら絶対に嫌われるからな、って言われたんだ」
「その事? アサトさんとロカさんに言われたの?」
なんだか、気になる言い方だわ。
「ナサ、怒らないから言って」
「いい、嫌だって、リーヤは絶対に怒るし、嫌われたくねぇ」
ブンブン、嫌だと首を振るナサ。
こんなに嫌がっているから、無理やり聞くのも変かな。
「わかった、聞かないでおく。コーヒー、もう一杯いれるね」
キッチンでお湯を沸かしそうダイニングかは立つと、先に立ち上がったナサに、手を引かれて抱き寄せられた。
「お、おお」
寝室に紐パンをしまって戻ってくると、ナサはダイニングテーブルのそばで、ソワソワしていた。
(それも、そうかも花柄のハンカチだと思って拾ったら、わたしの紐パンだったのだもの。洗濯はしてあったらかいいけど)
今度から気をつけなくっちゃ。
「ナサ、お腹空いたね」
「あ、ああ、食べようか」
「コーヒーのお砂糖とミルク、足りなかったら言ってね。何かほかいる?」
二人して意識してしまい、普段通りの会話ができないでいる。
「いいや、パンがあるからいいよ。……ところで、この猫カップはお揃いなのか?」
ナサが話題を変えてくれた。
それは二つ揃う、猫のコーヒーカップ。
「そうだよ、ミカさんの雑貨屋で買ったの。見てナサ、猫の絵と尻尾が持ち手になっていて可愛いの。いま使っている、お皿を取りに行ったときに見つけて、衝動買いしちゃったんだ」
「へぇ、か、可愛いけど……オレが使って、よかったのか?」
あ、お揃いだから気にしたのかな?
「別にいいよ。一緒に使う人なんていないから、遠慮なく使って」
「シッシシ、そっか。だったら、遠慮なく使わせてもらうよ」
嬉しそうにコーヒーを飲み、買ってきたパンを食べながら、ナサはみんなの話をしたり、出身地の話をしてくれた。ナサの出身はガレーン国から西の端にある、ネネ森の中にある小さな獣人の国で、特産物がラベンダーだとも教えてくれた。
毎年、初夏には国中、ラベンダーの花が咲くらしい。
「中々、国に帰れないけど、スゲェ綺麗なんだ」
と語る。ナサの瞳はここから遠い、故郷を思い出しているようにみえた。
「一度、見てみたいわ、ラベンダーっていい香りだもの。前にナサから貰った傷薬の香りが気に入って、ラベンダー石鹸を買っちゃった」
「へぇー、それで今日はラベンダーの香りがしていたんだな……傷薬とは違う香りだから、そうかなって思ってた」
「え、傷薬とは香りが違うの?」
「ああ、ラベンダー石鹸はラベンダーの香りが強いんだ。傷薬は傷を癒す薬草が入っているから、その匂いとラベンダーの香りがするんだ。でも、普段のリーヤは今日とは違う石鹸を使ってるだろ?」
「え、違う石鹸?」
(……ナサはそれまでわかるの?)
いつもはミリア亭で食べ物を扱うから、匂いの少ない石鹸を使っている。今日はダンス練習でナサと体を密着させるのから、ラベンダーの石鹸に変えたんだけど。
「でもよかった。いくら仲が良いナサでも、汗の香りがしたら嫌だったから」
ナサはコーヒーを飲みながら、
「ん? それは大丈夫だぞ。リーヤからは……甘、ああ、あ、、……いや、なんでもねぇ」
ナサは"わたしから……"の後に何か言おうとしたけど『しまった!』みたいな表情を浮かべて、手で口元を隠した。
「ナサ、わたしからの後は、何を言おうとしたの?」
「コレは言えねぇ。前にアサトとロカから、その事をリーヤに言ったら絶対に嫌われるからな、って言われたんだ」
「その事? アサトさんとロカさんに言われたの?」
なんだか、気になる言い方だわ。
「ナサ、怒らないから言って」
「いい、嫌だって、リーヤは絶対に怒るし、嫌われたくねぇ」
ブンブン、嫌だと首を振るナサ。
こんなに嫌がっているから、無理やり聞くのも変かな。
「わかった、聞かないでおく。コーヒー、もう一杯いれるね」
キッチンでお湯を沸かしそうダイニングかは立つと、先に立ち上がったナサに、手を引かれて抱き寄せられた。
21
お気に入りに追加
656
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる