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五十三

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「ナサ、コレ、しまってくる」
「お、おお」

 寝室に紐パンをしまって戻ってくると、ナサはダイニングテーブルのそばで、ソワソワしていた。

(それも、そうかも花柄のハンカチだと思って拾ったら、わたしの紐パンだったのだもの。洗濯はしてあったらかいいけど)

 今度から気をつけなくっちゃ。

「ナサ、お腹空いたね」

「あ、ああ、食べようか」

「コーヒーのお砂糖とミルク、足りなかったら言ってね。何かほかいる?」

 二人して意識してしまい、普段通りの会話ができないでいる。

「いいや、パンがあるからいいよ。……ところで、この猫カップはお揃いなのか?」

 ナサが話題を変えてくれた。
 それは二つ揃う、猫のコーヒーカップ。

「そうだよ、ミカさんの雑貨屋で買ったの。見てナサ、猫の絵と尻尾が持ち手になっていて可愛いの。いま使っている、お皿を取りに行ったときに見つけて、衝動買いしちゃったんだ」

「へぇ、か、可愛いけど……オレが使って、よかったのか?」

 あ、お揃いだから気にしたのかな?

「別にいいよ。一緒に使う人なんていないから、遠慮なく使って」

「シッシシ、そっか。だったら、遠慮なく使わせてもらうよ」

 嬉しそうにコーヒーを飲み、買ってきたパンを食べながら、ナサはみんなの話をしたり、出身地の話をしてくれた。ナサの出身はガレーン国から西の端にある、ネネ森の中にある小さな獣人の国で、特産物がラベンダーだとも教えてくれた。

 毎年、初夏には国中、ラベンダーの花が咲くらしい。

「中々、国に帰れないけど、スゲェ綺麗なんだ」

 と語る。ナサの瞳はここから遠い、故郷を思い出しているようにみえた。

「一度、見てみたいわ、ラベンダーっていい香りだもの。前にナサから貰った傷薬の香りが気に入って、ラベンダー石鹸を買っちゃった」

「へぇー、それで今日はラベンダーの香りがしていたんだな……傷薬とは違う香りだから、そうかなって思ってた」

「え、傷薬とは香りが違うの?」

「ああ、ラベンダー石鹸はラベンダーの香りが強いんだ。傷薬は傷を癒す薬草が入っているから、その匂いとラベンダーの香りがするんだ。でも、普段のリーヤは今日とは違う石鹸を使ってるだろ?」

「え、違う石鹸?」

(……ナサはそれまでわかるの?)

 いつもはミリア亭で食べ物を扱うから、匂いの少ない石鹸を使っている。今日はダンス練習でナサと体を密着させるのから、ラベンダーの石鹸に変えたんだけど。

「でもよかった。いくら仲が良いナサでも、汗の香りがしたら嫌だったから」

 ナサはコーヒーを飲みながら、

「ん? それは大丈夫だぞ。リーヤからは……甘、ああ、あ、、……いや、なんでもねぇ」

 ナサは"わたしから……"の後に何か言おうとしたけど『しまった!』みたいな表情を浮かべて、手で口元を隠した。

「ナサ、わたしからの後は、何を言おうとしたの?」

「コレは言えねぇ。前にアサトとロカから、その事をリーヤに言ったら絶対に嫌われるからな、って言われたんだ」

「その事? アサトさんとロカさんに言われたの?」

 なんだか、気になる言い方だわ。

「ナサ、怒らないから言って」

「いい、嫌だって、リーヤは絶対に怒るし、嫌われたくねぇ」

 ブンブン、嫌だと首を振るナサ。
 こんなに嫌がっているから、無理やり聞くのも変かな。

「わかった、聞かないでおく。コーヒー、もう一杯いれるね」

 キッチンでお湯を沸かしそうダイニングかは立つと、先に立ち上がったナサに、手を引かれて抱き寄せられた。
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