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五十一
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来たいと思っていたパン屋。
このお店は鬼人の旦那さんと、人の奥さん夫婦が経営している。まだ開店して間もないのか、店内のお客さんはまばらだった。
「いらっしゃいませ」
奥から焼き立てのパンを持って出て来た、二人にナサは気軽に声をかけた。
「よっ、リキとアミ」
「ナサじゃないか、お前にしては珍しい時間に来たな、いらっしゃい」
「いつもごひいきに、今日は綺麗な方といらしたんですね」
と、二人の目線はわたしへと向いた。
「わたしはリーヤと言います。ミリア亭で働いています」
「あら、ミリアさんの所で働いてるのですね」
「へぇ、ミリアの所で働いているのか」
これはわたしとナサがどう言いう関係? 仲の良いお友達? それとも……と伺う、目線が向けられた感じがした。わたしとナサはどういう関係なんだろう、知り合いなのは知り合いだけど。
仲の良いお友達…………気の合う仲間。それとも……
「おい、リキ、アミ、好奇心丸出しな顔でリーヤを見るなよ。リーヤが困ってる」
「なんだよ、いつもは一人でフラッと来るくせに。その子を俺たちに見せに来たんだろ?」
わたしを?
ナサを見るとビクッとして、
「そっ、そんなんじゃねぇーよ。リーヤ、ほらっ、パンを選ぶぞ」
「う、うん」
焦ったナサに、トレーとトングを手渡しされた。
+
目の前に焼き立てのパンが並ぶ。
選び始めて目移りしてしまい、隣のナサの袖を引っ張った。
「ナサ、ナサ、どれも美味しそうだわ。迷っちゃう」
「いま食べたいものを選べよ、また来ればいいんだからさ。オレはそこのチーズごろごろパン取って!」
「そのパン、わたしも食べたいから二つ、こっちのたまごパンは?」
「それも食べる、って。さっきからオレ達、同じパンばかり選んでるぞ!」
「えっ?」
ナサに言われるまで、気付かなかった。
トレーの上には最初に迷わず選んだカツサンド、チーズごろごろパン、たまごパン二つずつ乗っている。
「今日はこのパンが食べたいから、ナサが違うパンに変えればいいの」
「シッシシ、嫌だよ。オレはここに来たら、そのパンを食べるって決めてる」
と笑うナサ。
そこに、
「あらあら、お二人さんは仲良さげですね。新作のコーンパンも食べてみてください」
パン屋の奥さんが焼き立てのコーンパンを二つ、トレーに乗せてくれた。このパンは他のお客にも配られている。
焼き立てのパンの香りと、甘いコーンの香りがした。
「いい香り、ありがとうございます」
「アミ、サンキュー!」
「フフッ、もしよかったら感想よろしくね。あ、そうだ。息子が来年になったら鬼人の里の学校を卒業するの。あの子コッチに帰ってきて、亜人隊に入隊したいって言っていたの、入隊したらよろしくね」
「サトはもうそんな歳か……帰ってきて、亜人隊に入隊? オレは亜人隊はお勧めしないぞ、この美味いパン屋を継いだほうがいいと思うけどな。まっ、入隊したらしごいてやるよ!」
「頼むわね、隊長のアサトにもよろしく言っといて」
パン屋のお二人にお子さんがいるんだ。だとすると……ナサと、もしそうなったら子供が出来る。そうよね、ワカさんとセア君もだ……ナサはこんなに優しくて、素敵だわ……すでに、素敵な人がいるかも。
「リーヤ、選び終わった?」
「うん、終わった。ナサ、お会計よろしく」
「へいへい、行ってくるよ」
トレーを持ってレジに行くナサを見ていた、その隣にスーッとアミがニコッと笑い、さらに近寄ってきた。
「あのナサがこんなに可愛い子を、それもわたしと同じ、人の子を連れてくるなんて驚いたわ」
「そうなんですか?」
アミさんは頷く。
「いまから五年前になるかしら? ナサが初めてこのパン屋に来たとき。鬼人の旦那とはすぐに打ち解けて、仲良くなったのだけど……私とはしばらく距離があって、彼と仲良く慣れるまで時間がかかったわ」
「え、ナサが?」
(そうかも、一度そんなことを言われたわ)
「でも、あんな風に穏やかな表情の彼を見たのは初めて。パンを選ぶ時も、ナサの尻尾がさりげなく、あなたを他のお客さんから守っていたのよ」
「ナサの尻尾が、ですか」
わたしを守っていたなんて、レジでリキと楽しげに会話をするナサを見つめた。いつも、さり気なく隣にいるから気が付かなかった……
「よほど、あなたの事が大切なのね」
わたしのことが大切? アミさんの言葉にドキッと心が跳ねた。
「帰るぞ、リーヤ」
「え、えぇ帰りましょう」
「ナサ、リーヤさん、ありがとうございました。またお越しくださいね」
「あぁ、リキ、アミ、また来るよ!」
「わたしも来ます!」
パン屋を出て、わたしの家に向かった。
このお店は鬼人の旦那さんと、人の奥さん夫婦が経営している。まだ開店して間もないのか、店内のお客さんはまばらだった。
「いらっしゃいませ」
奥から焼き立てのパンを持って出て来た、二人にナサは気軽に声をかけた。
「よっ、リキとアミ」
「ナサじゃないか、お前にしては珍しい時間に来たな、いらっしゃい」
「いつもごひいきに、今日は綺麗な方といらしたんですね」
と、二人の目線はわたしへと向いた。
「わたしはリーヤと言います。ミリア亭で働いています」
「あら、ミリアさんの所で働いてるのですね」
「へぇ、ミリアの所で働いているのか」
これはわたしとナサがどう言いう関係? 仲の良いお友達? それとも……と伺う、目線が向けられた感じがした。わたしとナサはどういう関係なんだろう、知り合いなのは知り合いだけど。
仲の良いお友達…………気の合う仲間。それとも……
「おい、リキ、アミ、好奇心丸出しな顔でリーヤを見るなよ。リーヤが困ってる」
「なんだよ、いつもは一人でフラッと来るくせに。その子を俺たちに見せに来たんだろ?」
わたしを?
ナサを見るとビクッとして、
「そっ、そんなんじゃねぇーよ。リーヤ、ほらっ、パンを選ぶぞ」
「う、うん」
焦ったナサに、トレーとトングを手渡しされた。
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目の前に焼き立てのパンが並ぶ。
選び始めて目移りしてしまい、隣のナサの袖を引っ張った。
「ナサ、ナサ、どれも美味しそうだわ。迷っちゃう」
「いま食べたいものを選べよ、また来ればいいんだからさ。オレはそこのチーズごろごろパン取って!」
「そのパン、わたしも食べたいから二つ、こっちのたまごパンは?」
「それも食べる、って。さっきからオレ達、同じパンばかり選んでるぞ!」
「えっ?」
ナサに言われるまで、気付かなかった。
トレーの上には最初に迷わず選んだカツサンド、チーズごろごろパン、たまごパン二つずつ乗っている。
「今日はこのパンが食べたいから、ナサが違うパンに変えればいいの」
「シッシシ、嫌だよ。オレはここに来たら、そのパンを食べるって決めてる」
と笑うナサ。
そこに、
「あらあら、お二人さんは仲良さげですね。新作のコーンパンも食べてみてください」
パン屋の奥さんが焼き立てのコーンパンを二つ、トレーに乗せてくれた。このパンは他のお客にも配られている。
焼き立てのパンの香りと、甘いコーンの香りがした。
「いい香り、ありがとうございます」
「アミ、サンキュー!」
「フフッ、もしよかったら感想よろしくね。あ、そうだ。息子が来年になったら鬼人の里の学校を卒業するの。あの子コッチに帰ってきて、亜人隊に入隊したいって言っていたの、入隊したらよろしくね」
「サトはもうそんな歳か……帰ってきて、亜人隊に入隊? オレは亜人隊はお勧めしないぞ、この美味いパン屋を継いだほうがいいと思うけどな。まっ、入隊したらしごいてやるよ!」
「頼むわね、隊長のアサトにもよろしく言っといて」
パン屋のお二人にお子さんがいるんだ。だとすると……ナサと、もしそうなったら子供が出来る。そうよね、ワカさんとセア君もだ……ナサはこんなに優しくて、素敵だわ……すでに、素敵な人がいるかも。
「リーヤ、選び終わった?」
「うん、終わった。ナサ、お会計よろしく」
「へいへい、行ってくるよ」
トレーを持ってレジに行くナサを見ていた、その隣にスーッとアミがニコッと笑い、さらに近寄ってきた。
「あのナサがこんなに可愛い子を、それもわたしと同じ、人の子を連れてくるなんて驚いたわ」
「そうなんですか?」
アミさんは頷く。
「いまから五年前になるかしら? ナサが初めてこのパン屋に来たとき。鬼人の旦那とはすぐに打ち解けて、仲良くなったのだけど……私とはしばらく距離があって、彼と仲良く慣れるまで時間がかかったわ」
「え、ナサが?」
(そうかも、一度そんなことを言われたわ)
「でも、あんな風に穏やかな表情の彼を見たのは初めて。パンを選ぶ時も、ナサの尻尾がさりげなく、あなたを他のお客さんから守っていたのよ」
「ナサの尻尾が、ですか」
わたしを守っていたなんて、レジでリキと楽しげに会話をするナサを見つめた。いつも、さり気なく隣にいるから気が付かなかった……
「よほど、あなたの事が大切なのね」
わたしのことが大切? アミさんの言葉にドキッと心が跳ねた。
「帰るぞ、リーヤ」
「え、えぇ帰りましょう」
「ナサ、リーヤさん、ありがとうございました。またお越しくださいね」
「あぁ、リキ、アミ、また来るよ!」
「わたしも来ます!」
パン屋を出て、わたしの家に向かった。
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