51 / 99
五十
しおりを挟む
今日はミリア亭はお休みの日で、ナサとダンス練習の日。いつもの場所でわたしは新しいワンピースと、少し高めのヒールを履いて待っていた。
「おはよう、リーヤ」
「おはよう、え、ナサ? どうして半獣の姿なの?」
「ん?」
いつもの場所に現れたナサに、モフモフの姿ではなく半獣でシャツとスラックス、ブーツといったラフな格好でここに現れた。
「シッシシ、当たり前だろ? リーヤとオレとでは体格差があり過ぎるし。下手に足を踏んでみろ、リーヤの足がやばい」
(やばい?)
頭の中で、いつものナサと自分をを思い浮かべた。
「あ、……そうかも」
「な、そうだろう?」
「疲れているところ、ありがとう、ナサ。よろしくお願いします」
「シッシシ、まかされました」
ナサに近付きホールドを組もうと彼の手に触れ、わたしの背に彼の手が回った……その瞬間"ビリリ"っと電気が体に走り、ドクン、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
気付かれないように息を整えて、
「あ、あの、ナサ」
「ん、?」
「……な、なんでもない、始めよっ」
「おお、……でもよ。こんな、近くにリーヤが来ると、なんだかドキドキするな」
"シッシシ"と笑う。
いつものナサの笑顔なのに、キラキラ光って見える。
「わたしだって、照れるけど……ううん、なんでもない、練習を始めるわ」
「おお、わかった」
静かな水辺で一、二、一、二と口に出して、ナサに教えながらワルツを踊るのだけど。やはり、問題はわたしだった。ワルツのカンタンなステップも踏めずナサの足を踏む。
「あ、ナ、ナサ、ごめっ……ん!!」
「落ち着け、リーヤ。ほら、一、二、一、二……お、」
「きゃっ、ごめん」
また踏んだ。
「落ち着け、いいって。ゆっくり行くぞ、オレが左足を出すだろ、リーヤは右足を引っ込めて、オレが右足を横にスライドして、リーヤは左足をって……」
「え? あ、わわ」
「リーヤ?」
バランスを崩して、ナサの胸にポプッと収まった……
(クゥッ、ナサが教えてくれているのに、なんで出来ないの……ん、んん? え、わたし、いまナサにダンスを教わってない⁉︎)
「リーヤ、足止まってる」
「あ、」
苦手なダンスだけど、初めて踊るナサにわたしが教えるはずが……いつの間にか、立ち場が逆転してる。
「リーヤ、初めから踊るぞ。いち、に、いち……いいぞ、そこでターンだ」
「は、はい」
(ちょっと、ナサ、教えるの上手すぎじゃない?)
「リーヤ、そこ、ステップを間違えない」
「はい」
焦るわたしに、優しくナサはリードしてくれて、ほんの少しけど足を踏む回数が減ってきた。
+
湖の近くで、ナサと二人きりダンスの練習を始めて二時間くらい、一小節、足を踏まずに踊れた。
「やった、ナサ! いま踊れた、踊れたわ」
「シッシシ、よくやったな……ところで、リーヤ、疲れていないか?」
あ、それ、わたしのセリフ。
「わたしは平気だけど、ナサは?」
「オレか? オレは楽しかった」
と笑う、ナサに釘付けになった。
+
帰ろうかと話していたとき、ナサのお腹が元気よく『グゥーーッ』と鳴った。
「腹減った。リーヤ、何か作ってくれ」
「いいけど、何が食べたい?」
「うーん、なんでもいい」
なんでもいいは一番困るのだけど……。
朝早くから、ダンス練習に付き合ってもらったお礼に、家で朝食を作ることにした。
並んで歩き、メニューを考えていた。
「目玉焼きと、ベーコンとソーセージを焼いてパンに挟むとか? ……あ、パンがないから買わなくっちゃ」
「それなら、オレの行きつけのパン屋を教えてやるよ。美味いから驚くぞ!」
「ほんと、楽しみ! 早く行きましょう」
と、ナサが向かったのは。
北区の西側の奥にある、有名なパン屋だった。
「ここって、一度、来たいと思っていたパン屋だわ。いつも長い行列ができていて、近くだから、また今度でいいかなって来れずにいたの」
「シッシシ、人気のパン屋だからな」
「楽しみ、早くい行こう。ナサ!」
ナサの袖を掴んだ。
「おはよう、リーヤ」
「おはよう、え、ナサ? どうして半獣の姿なの?」
「ん?」
いつもの場所に現れたナサに、モフモフの姿ではなく半獣でシャツとスラックス、ブーツといったラフな格好でここに現れた。
「シッシシ、当たり前だろ? リーヤとオレとでは体格差があり過ぎるし。下手に足を踏んでみろ、リーヤの足がやばい」
(やばい?)
頭の中で、いつものナサと自分をを思い浮かべた。
「あ、……そうかも」
「な、そうだろう?」
「疲れているところ、ありがとう、ナサ。よろしくお願いします」
「シッシシ、まかされました」
ナサに近付きホールドを組もうと彼の手に触れ、わたしの背に彼の手が回った……その瞬間"ビリリ"っと電気が体に走り、ドクン、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
気付かれないように息を整えて、
「あ、あの、ナサ」
「ん、?」
「……な、なんでもない、始めよっ」
「おお、……でもよ。こんな、近くにリーヤが来ると、なんだかドキドキするな」
"シッシシ"と笑う。
いつものナサの笑顔なのに、キラキラ光って見える。
「わたしだって、照れるけど……ううん、なんでもない、練習を始めるわ」
「おお、わかった」
静かな水辺で一、二、一、二と口に出して、ナサに教えながらワルツを踊るのだけど。やはり、問題はわたしだった。ワルツのカンタンなステップも踏めずナサの足を踏む。
「あ、ナ、ナサ、ごめっ……ん!!」
「落ち着け、リーヤ。ほら、一、二、一、二……お、」
「きゃっ、ごめん」
また踏んだ。
「落ち着け、いいって。ゆっくり行くぞ、オレが左足を出すだろ、リーヤは右足を引っ込めて、オレが右足を横にスライドして、リーヤは左足をって……」
「え? あ、わわ」
「リーヤ?」
バランスを崩して、ナサの胸にポプッと収まった……
(クゥッ、ナサが教えてくれているのに、なんで出来ないの……ん、んん? え、わたし、いまナサにダンスを教わってない⁉︎)
「リーヤ、足止まってる」
「あ、」
苦手なダンスだけど、初めて踊るナサにわたしが教えるはずが……いつの間にか、立ち場が逆転してる。
「リーヤ、初めから踊るぞ。いち、に、いち……いいぞ、そこでターンだ」
「は、はい」
(ちょっと、ナサ、教えるの上手すぎじゃない?)
「リーヤ、そこ、ステップを間違えない」
「はい」
焦るわたしに、優しくナサはリードしてくれて、ほんの少しけど足を踏む回数が減ってきた。
+
湖の近くで、ナサと二人きりダンスの練習を始めて二時間くらい、一小節、足を踏まずに踊れた。
「やった、ナサ! いま踊れた、踊れたわ」
「シッシシ、よくやったな……ところで、リーヤ、疲れていないか?」
あ、それ、わたしのセリフ。
「わたしは平気だけど、ナサは?」
「オレか? オレは楽しかった」
と笑う、ナサに釘付けになった。
+
帰ろうかと話していたとき、ナサのお腹が元気よく『グゥーーッ』と鳴った。
「腹減った。リーヤ、何か作ってくれ」
「いいけど、何が食べたい?」
「うーん、なんでもいい」
なんでもいいは一番困るのだけど……。
朝早くから、ダンス練習に付き合ってもらったお礼に、家で朝食を作ることにした。
並んで歩き、メニューを考えていた。
「目玉焼きと、ベーコンとソーセージを焼いてパンに挟むとか? ……あ、パンがないから買わなくっちゃ」
「それなら、オレの行きつけのパン屋を教えてやるよ。美味いから驚くぞ!」
「ほんと、楽しみ! 早く行きましょう」
と、ナサが向かったのは。
北区の西側の奥にある、有名なパン屋だった。
「ここって、一度、来たいと思っていたパン屋だわ。いつも長い行列ができていて、近くだから、また今度でいいかなって来れずにいたの」
「シッシシ、人気のパン屋だからな」
「楽しみ、早くい行こう。ナサ!」
ナサの袖を掴んだ。
21
お気に入りに追加
673
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。
友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。
あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。
ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。
「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」
「わかりました……」
「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」
そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。
勘違い、すれ違いな夫婦の恋。
前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。
四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる