寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ

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四十九

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 今日もお客様で賑わうミリア亭は、唐揚げのいい香りが漂っていた。そのワケはタルタルソース付き唐揚げ、ご飯、味噌汁付き日替わり定食と。気まぐれサッパリ唐揚げ定食。お弁当用のカリカリ唐揚げを作っているから。

「いい匂い。わたしも早く唐揚げ、食べたい」
「リーヤ、泣き言いわないの。お弁当作らなきゃ」
 
「はーい」

 せっせと梅とシャケのおにぎりを握り、冷めても美味しいカリカリ唐揚げと甘めの卵焼き、ソーセージを、見栄えよくお弁当箱に詰めていく。サラダは気まぐれと同じポテトサラダとプチトマトにした。

「フウッ、お弁当、五個詰め終わった」

(あとは蓋をして、一つずつ布で包んで……できあがり)

 ミリアさんのお手伝いと自分の気まぐれ、お弁当作りはたいへんかも……明後日からは気まぐれとお弁当で、十食にしたほうがいいかな。

 閉店間際、カランコロンとドアベルが鳴る。

「リーヤ、こんにちは」
「おお、いい匂い。今日は唐揚げか?」

「いらっしゃいませ。そうなんです、今日は唐揚げなんです」

 いつもの時間にワカさん親子が来て気まぐれを注文する。わたしは厨房でサッパリ唐揚げセットを二つ作り、カウンターに座る二人に運んだ。

「気まぐれ、お待たせしました」

「父ちゃん、美味しそうだよ」
「ほんとうだな」

 オマケでカリカリ唐揚げと、日替わりのタルタルソース付き、唐揚げも出した。

 二人が笑顔で唐揚げを頬張る姿を見ながら、洗い物を終わらせる。

「「リーヤ、美味しかった」」

 "ごちそうさま"とワカさん、セヤ君が帰り、ミリア亭は閉店した。わたしはミリアさんに大きめの肩掛け袋を借りて、おしぼり、箸とお弁当を入れて。中央区、第三部隊に行く準備を終わらせる。

(中央区と三番隊に行くも、少し緊張しちゃうな)

 そうだ、行くついでに好き嫌いも聞いてこようと、メモとペンも用意した。

「ミリアさん、中央区に行ってきます」
「気を付けて、行っておいで」

「はーい」

 お弁当を持って、ミリア亭を後にした。
 
 しばらく歩いて騎士団訓練場近くを通る、みんなは休憩中かな? と、誰もいない訓練場の横を通り過ぎようとした。

「リーヤ!」

 名前を呼ばれて振り向くと、いまからミリ亭に向かうのか、盾を持ったナサがいた。

「ナサ、訓練おつかれさま。いまからミリア亭?」
「シッシシ、そうだ。リーヤは弁当届けに行くのか?」

「そうだよ、行ってくるね」
「ああ、気をつけろよ」

 また後で、と別れた。


 中央区の中をリモーネ君に描いてもらった、地図を片手に見ながら、第三部隊の詰め所の前に着き。ドキドキしながら詰め所の扉を開けた。

「ミリア亭です、ご注文を受けました、お弁当を届けにきました」

「ミリア亭?」
「ああ、隊長が弁当を頼んだとか、今朝、朝礼の時に言っていなかったか?」

 わたしの声に奥で休憩していたのか、鎧をつけていない、騎士達がワラワラ集まってきた。

 みんなはわたしを見て、

「へえ、この子がリモーネ隊長のお気に入りか」
「可愛い、名前なんて言うの?」

「……リーヤと言います」
「リーヤちゃんか、よろしく」

(……ううっ、圧倒される)

「歳は?」
「は、二十歳です」

「おお、リモーネ隊長と同じだ!」

「北区に住んでるの?」
「……はい」

 グイグイくる男性に慣れていなくて、早くお弁当を渡して帰りたくなる。

(リモーネ君はどこ?)


 キョロキョロ探すと、奥から、
 
「おい、五月蝿いぞ、何をやっているんだ?」

 と、ミリア亭にくるときとは違い、ピシッと鎧を身に付けたリモーネ君が現れた。  

「……リモーネ君」

「リーヤ、来てくれたのか」
「注文を受けた、お弁当を持ってきたよ」

 お弁当が入った袋を渡した。
 騎士達はわたしと、リモーネ君を何か言いたげに、ニヤニヤ見てくる。

「お前ら、いい加減にしろ! ありがとう……なんだか、悪いな」

「いいよ、お手伝いがあるから戻るね」
「ああ、明後日は取りに行く」

「わかりました。お弁当のご注文、ありがとうございました」

「またね、リーヤちゃん」
「また、おいで」

 わたしは頭を下げ、そそくさ詰め所を後にした。







 リーヤがお弁当を置いて帰ったあと、第三部隊詰め所は静まり、リモーネの低い声が響く。

「いまお弁当を持って来た、彼女の顔を覚えて欲しい。名前はリーヤ、本当はリイーヤという。リルガルド国の公爵令嬢だ」

 三番隊は鎮まり、真剣に隊長の話に耳を傾けた。

「隊長、ここ中央区にリーヤちゃんを探す、変な奴が現れたんだよな」

 リモーネはそうだと頷く。

「三日前の午後。ガレーン国では見たことがない男が、リイーヤに似た似顔絵を持ち探していたと、カムイからの報告があった。カムイが話しかけると走って逃げたらしい」

「かなり怪しいな、そいつからリーヤちゃんを守るんだな」

「それもあるが、国王祭に向けて中央区の警備を強化しなくてはならない。変な輩はガレーン国に入れない、入れてはならない」

「「かしこまりました、隊長」」

「でもさ、一人で北区に帰してよかったのか?」
「大丈夫だ、彼女には最強のボディーガードが側にいる」

 北区、最強の言葉に、三番隊の面々は"ああ"と頷く。

「亜人隊がいるなら、安心だな」

「そうだ、安心だ。昨日、月末の報告に来た隊長のアサトと、ロカには伝えてある」

 と、リモーネは弁当を一つ取り、奥に行こうとして。

「一つはカムイに残してやってくれ。残りはみんなで食べていいから」 


「「やった!」」


 騎士団、三番部隊はミリアとリーヤの唐揚げに絶賛した。 







 わたしは早足で、中央区からミリア亭に戻っていた。
 来たときと同じ様に訓練場の横を通り過ぎていく、わたしの視線の先に彼が"シッシシ"と笑い待っていた。

「リーヤ、おかえり」
「ナサ、先にミリア亭に行っていなかったの?」

「リーヤを心配した」

(え、)

 わたしが心配で待っていてくれたんだ。
 ナサのその言葉が嬉しくて、わたしの頬はポッと火がついたように熱くなる。

「ありがとう……ナサ」
「いいや、腹減った、早く行こうぜ」

「う、うん」
 
 ナサと並んで、ミリア亭に向かうのだった。
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