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四十八

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 リモーネを見送りして、あと片付けをカウンターで始めると、ミリアは仕込みの手を止めた。

「リーヤは騎士様との、ダンス練習はそんなに嫌かい?」

「え、」

 驚いて厨房にいるミリアを見た。彼女はわたしを見つめていて、わたしに何を言いたいのかわかった。

(……貴族のいざござを、余り言いたくないけど)

「ミリアさん、わたしはリモーネ君のことを嫌ではないです。ただ、わたしが彼のそばにいるのは余り良くないんです」

「……よくない? それはどう言うことだい?」

 貴族令嬢たちの嫉妬、妬み、いじめ、罵りなど、黒くドロドロした部分は知らないだろう。

 あの子より、わたしの方が美しいわ。
 わたしを見て、わたしを選びなさいよなど。

(そんな部分を知って欲しくない)

「……ミリアさん、わたしは一度、離縁した身です。彼と噂になんてなったら伯爵家は許さないし、彼を想う令嬢達がわたしのことを調べて、ある事ない事、変な噂が流れてしまうと。彼が血の滲むような努力をして、掴んだ、騎士団第三隊長の地位を危うくします」

「側にいるだけで地位を危うくする? ……あ、だから、リーヤは母国を離れたのかい?」

 わたしは頷く。

「お父様の仕事、カートラお兄様とアトールの結婚に、離縁して、出戻りの、わたしはいてはならないんです」

「だったら、リーヤの幸せはどうするんだい? そうだ、ナサなら」


「え、ナサ?」


 わたしが驚きの声を上げたと、同時に"カランコロン"と、出入り口のドアベルが鳴った。

「ん、リーヤ、オレがどうかした?」

「! ……あ、ナサ、いらっしゃい」

 自分の武器、盾を持ち、獣人の姿に戻り、店に入ってくる。

「お、珍しい。今日はアンタが一番乗りかい」

「珍しいかよ。アサトとロカは騎士団に月末の報告。カヤとリヤは友達のところに寄ってから来るってさ。で、ミリアとリーヤはオレの名前を出して、何の話してたんだ?」

 出入り口付近に盾を置き、ナサは自分の名前を呼ばれたことに眉をひそめた。

「え? ああ、聞いてよ、リーヤのダンスが可哀想なくらい壊滅的なんだって。それで、ナサに練習を付き合ってもらいなって、話をしていたんだ」

「ミリアさん! (その誤魔化し方って!)」

「ふーん、皇太子の舞踏会で、リーヤは誰かと踊るのか?」

「……誘う人がいればね、どうせ誰も誘わないし。もし、踊ってもカートラお兄様と弟君、お父様とだけよ」

 ナサはわたしを見ながら、いつものカウンターに座り。

「でもよ。男性に誘われたら、断れないんじゃないのか?」

(え、?)

「それは大丈夫。相手を傷つけないよう、丁寧にお断りをすればいいわ。結構、言い回しが難しいのだけどね」

(お断りするのって周りの目があるし、極力したくはないんだけど……舞踏会に嫌な思い出しかない)

 十六歳のデビュタントで初めて誘われて踊った相手に、剣だこの手を罵られてから舞踏会は苦手。お父様に頼まれて参加した、王女様のデビュタントの舞踏会であの人と出会った……

 本当なら舞踏会になんて参加したくない。

「それで、リーヤはいつからオレと練習するんだ?」
「え、ナサが、練習に付き合ってくれるの?」

 ナサは、ウンウン頷き。

「シッシシ、いいぞ。オレはリーヤの壊滅的なダンスが気になる」

「ナサ!」
 
 乗り気のナサに、明後日、いつもの場所でお願いした。







 数分後、みんながミリア亭に集まる。
 今日の昼食はミリアさん特製半熟卵のせ、柔らかローストビーフ山盛り丼だ。みんなは目を輝かせて大きな丼をガツガツ食べている。

 そこに奥の倉庫から、お弁当箱を持ってミリアが現れた。

「リーヤ、弁当箱、五個コレでいいかい?」

「大きさも丁度、良さそう。ミリアさん、ありがとうございます」

「弁当?」

 ローストビーフ丼から顔を上げて、ナサが聞いてくる。

「さっき、リモーネ君にお弁当を五個頼まれたの。明日、みんなが来る時間くらいに、第三部隊の詰め所に行ってくるね」

「あ、第三部隊? 中央区か……オレはついて行けねぇ」

「ナサ、お弁当をリモーネ君に渡したら、すぐ戻るから。ミリア亭で待っていてよ」
 
「シッシシ、そうだな」

 厨房で借りるお弁当箱を一つ開けて、明日のオカズを考える。なにせ、お手伝いしかお弁当を作ったことがない。

(おかずは好き嫌いがない唐揚げにして、ご飯は梅二つ、シャケ一つのおにぎり三個、卵焼き、ソーセージ、サラダかな?)

 隣でみんなの夕飯作り『目玉焼き乗せ、どデカハンバーグ弁当』の準備を始めたミリアが覗く。

「リーヤ、悩んでるね。メインのおかずは決まったかい?」

「メインですか? ……生姜とニンニク、醤油に漬けた鶏肉を片栗粉で揚げた、カリカリ唐揚げと。あとは卵焼きとソーセージ、サラダ、おにぎりのお弁当にしようと思います」

「唐揚げ弁当か、いいね。私も明日の日替わりを、唐揚げにするから一緒に作ろう」

「いいんですか、助かります」

 初のお弁当作りは、なんとかなりそう。
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